第28話 地下都市
隠れ家を出てから数時間後。
アリアたちは、ステーションの最下層――古いメンテナンス区画へとたどり着いた。
そこは、百年以上前に放棄された区画。
薄暗く、冷たく、静かで、古い機械が朽ち果てている――
はずだった。
壁に貼られた色の絵。
床に散らばる色の布。
若者たちの笑い声。
子どもたちの走る足音。
アリアは息を呑んだ。
「ここは……?」
若者の一人が誇らしげに言った。
「地下都市です。アリアさんの光を見た人たちが、自分たちで作ったんです」
ミラがアリアの手を引く。
「アリア、見て」
壁一面に広がる巨大な壁画。
赤、青、黄色、緑、紫。
無数の色が重なり合い、まるで生きているように輝いていた。
「これ……みんなで描いたの?」
ミラは頷いた。
「あなたの光を見て、"自分も色を描きたい"って市民がたくさん来たんだよ」
アリアは壁に触れた。
その色は温かかった。
◆
地下都市の奥には、レオンが作った小さな研究室があった。
配線がむき出しの機械。
光反射繊維の試作品。
光導管のデータ。
そして、新しい装置。
アリアは驚いた。
「レオンさん。これって……?」
レオンは照れくさそうに笑った。
「光拡散装置です。光導管を使わなくても、ステーション全体に光を広げられるかもしれない」
ミラが補足する。
「最後のショーのための装置だよ。アリア、あなたの光をもっと遠くまで届けるために」
アリアは胸が震えた。
「ありがとう。私、頑張るね」
レオンは首を振った。
「アリアさんだけに背負わせたりはしません。僕たちも全力で頑張ります」
そのとき、イーサンが険しい顔でやってきた。
「アリア、みんな。聞いてくれ」
若者たちが集まる。
ミラとレオンも顔を上げる。
イーサンは低い声で言った。
「管理局がゼロ・プロトコルを発動する」
若者たちがざわめく。
「ゼロ・プロトコル……?」
「なにそれ……?」
イーサンはごくりと喉を鳴らした。
「色彩に関するデータ、物品、人物……すべてを排除する命令だ。アリア、お前はもちろん最優先対象だ」
アリアは息を呑んだ。
(ついに、そこまで)
ミラが震える声で言う。
「じゃあ、抵抗した市民は……」
イーサンは首を振った。
「拘束されるだけじゃ済まない。管理局は色そのものを消すつもりだ」
レオンが拳を握る。
「……だったらやるしかない。最後のショーを」
アリアはゆっくりと立ち上がり、地下都市を見渡した。
巨大な壁画。
色の布。
虹を描く子どもたち。
光を信じる若者たち。
仲間たちの顔。
そして――
胸元の赤い布。
アリアは胸に手を当てて、目を閉じた。
「最後の光を灯そう。この世界に色を取り戻すために」
その言葉は、地下都市の空間に、静かに響き渡った。
革命は、ついに最終段階へ突入する。




