第25話 脱出
光導管からの脱出は、混乱そのものだった。
赤い非常灯が点滅し、警報が鳴り響く。
天井からは火花が散り、床は震え続けている。
アリアはイーサンの腕の中で、かすかに息をしていた。
「アリア、しっかりしろ……!」
イーサンの声は震えていた。
だが、その腕は力強く、決して離さなかった。
◆
非常通路の分岐点にたどり着いたとき、レオンが叫んだ。
「ここで分かれましょう! 一緒に動くのは危険です!」
ミラが振り返る。
「レオン、でも……!」
レオンは首を振った。
「僕たちが一緒にいたら、足手まといになる。アリアさんはイーサンさんに任せるしかない」
イーサンは短く頷いた。
「必ず守る。だから行け!」
ミラは唇を噛んだ。
「アリア。絶対にまた会おうね……!」
アリアは弱々しく微笑んだ。
「うん……ミラ……」
レオンはミラの腕を引き、別の通路へと走り去った。
その背中が闇に消える瞬間、アリアの胸が痛んだ。
(みんな……離れちゃう……でも……生きなきゃ……)
◆
別の通路では、若者たちが市民を誘導していた。
「こっちだ! 管理局の武装部隊が来る前に!」
「押さないで。ゆっくりで大丈夫」
「子どもたちの手を離さないでください!」
彼らの顔には恐怖もあったが、それ以上に決意があった。
「色はもう止まらない。俺たちが広げるんだ」
「アリアさんがいなくても……革命は続く!」
◆
背後から怒号が響く。
「アリア・セルフィスを確保しろ!」
「裏切り者、イーサン・グレイもだ!」
「逃がすな!」
イーサンはアリアを抱えたまま、非常通路を全力で走った。
(もう戻れない)
管理局職員としての人生。
秩序を守るという信念。
すべてが崩れた。
だが――
後悔はなかった。
(アリアを守る。それだけだ)
◆
アリアはイーサンの胸の中で、かすかに目を開けた。
「イーサンさん……ごめんなさい……私のせいで……」
イーサンは首を振った。
「違う。君の光は皆を救った。俺も……救われた」
アリアの瞳が揺れる。
「ありがとう……」
◆
そのとき、ステーション全体が大きく揺れた。
――ゴォォォォォン!
天井のパネルが落下し、非常灯が消え、通路が暗闇に包まれる。
《警告:光導管システムの損傷により、居住リングの一部が機能停止》
《市民は直ちに避難してください》
アリアは震える声で呟いた。
「私の光が……世界を……壊しちゃったの……?」
イーサンは強く首を振った。
「違う。壊れたのは管理局の秩序だ。君の光は……世界を変えたんだ」
アリアの目に涙が浮かんだ。
◆
イーサンはアリアを抱えたまま、隠れ家へ続く裏通路へと入った。
「ここなら、しばらくは安全だ」
アリアはかすかに頷いた。
「みんな……無事かな……」
イーサンは静かに答えた。
「必ず再会できる。君の光がみんなを繋いでいる」
アリアは胸元の赤い布を握りしめた。
(そうだよね……光は、消えない)
その瞬間、アリアの胸の奥で、小さな光が再び灯った。




