第21話 光導管への潜入
ステーションの夜は、いつもより静かだった。
銀色の通路に響くのは、遠くの機械音と、かすかな振動だけ。
アリアは隠れ家の扉の前で立ち止まり、深く息を吸った。
(ここから先は、もう戻れない)
胸元の赤い布が、緊張で微かに揺れる。
ミラがそっと肩に触れた。
「アリア、大丈夫。あなたは一人じゃないよ」
アリアは小さく頷いた。
◆
隠れ家の外には、数人の若者たちが待っていた。
彼らは皆、アリアの光を見て心を動かされた者たちだ。
「監視カメラのルート、全部把握してます」
「巡回のタイミングも調べました」
「アリアさん、俺たちが案内します」
アリアは驚き、そして胸が熱くなった。
「ありがとう」
若者たちは誇らしげに微笑んだ。
「色をもっと見たいんです。だから、絶対に成功させましょう」
◆
アリアたちは、若者たちの案内で裏通路を進んだ。
照明の落ちたメンテナンス通路。
古い配管の並ぶ狭い空間。
監視網の死角を縫うように歩く。
レオンが端末を見ながら囁く。
「光導管の電力制御、あと少しで侵入できます」
ミラは背負ったデータ端末を抱きしめるように持ち、緊張した声で言った。
「アリア。今日のショーは、きっと今までで一番大きな光になるよ」
アリアは静かに答えた。
「うん。だからこそ、絶対に成功させたい」
そのとき、背後から足音がした。
若者たちが身構える。
「誰だ!」
アリアが振り返ると――
そこにいたのは、イーサンだった。
レオンが警戒する。
「つけてきたんですか?」
イーサンは首を振った。
「違う。俺は……君たちを守るために来た」
ミラが驚く。
「守る……?」
イーサンは静かに言った。
「管理局は光導管の封鎖を始めている。巡回ルートも増えている。このままではたどり着けない」
アリアは一歩近づいた。
「イーサンさん……あなたは……」
イーサンはアリアの瞳を見つめ、言った。
「俺はもう管理局の命令には従わない。君の光を、守りたい」
アリアの胸が強く脈打った。
◆
やがて、巨大な扉が姿を現した。
中央エネルギーリング――光導管の入口。
透明なパネルの向こうには、
青白い光が脈動し、まるで巨大な心臓のように鼓動している。
ミラが息を呑む。
「ここが……」
レオンが端末を操作する。
「侵入コード、送信……よし、開きます!」
――ゴォォォォ……
重い扉がゆっくりと開いた。
アリアはその光景に息を呑んだ。
光導管の内部は、無数の光が流れる巨大な空間だった。
天井は高く、壁は透明で、その向こうには漆黒の宇宙が広がっている。
まるで、光の川の中にいるようだった。
◆
アリアはゆっくりと衣装を纏った。
光反射繊維の新型を使った、革命のための衣装。
半透明のレイヤーが重なり、動くたびに色が変わる。
背中には、光を受けて揺れる薄い布。
まるで光の羽のようだった。
ミラが涙ぐむ。
「アリア……綺麗……」
レオンは震える声で言った。
「これなら……光導管全体を染められる」
イーサンは静かに呟いた。
「……本当に、光そのものだ」
アリアは深く息を吸い、光導管の中央へ歩き出した。
◆
アリアが一歩踏み出すたびに、光導管の床が淡く光り始める。
ミラが音源を起動する。
地球の風の音、雨の音、街のざわめきが混ざり合い、光導管に響き渡る。
レオンが電力制御を操作する。
光がアリアの衣装に集まり、虹色に弾ける。
イーサンが背後で警戒しながら言う。
「急げ……管理局が動き始めている」
アリアは振り返らずに言った。
「大丈夫。私は歩くよ。光を纏って」
そして――
アリアは光導管の中央へと進んだ。
第二回ショーが、今まさに始まろうとしていた。




