第19話 地下ネットワーク
アリアたちが新たな隠れ家に移って数日。
ステーションの空気は、以前よりもさらに張りつめていた。
管理局は色彩に関する取り締まりを強化し、市民の間には不安と恐れが広がっている。
だが――
その影の下で、別のものが静かに育っていた。
地下ネットワークだ。
◆
夜。
居住リングの裏通路に、数人の若者が集まっていた。
「見ろよ、これ」
一人がポケットから、小さな布切れを取り出す。
それは――淡い青色の布。
「これが例の……?」
「すげぇ……銀色じゃない……」
若者たちは息を呑んだ。
「管理局に見つかったら終わりだぞ」
「でも、見たいんだよ。噂のショーを見た人たちが言ってた。"心が震えた"って」
彼らは布を囲み、まるで宝物のように見つめた。
その中心にいた少女が言う。
「アリアって子、まだ捕まってないよね。また色を見せてくれるかな」
その言葉に、皆が静かに頷いた。
◆
別の場所では、子どもたちが集まっていた。
「これ、昨日描いたやつ」
「ぼくも! 先生に取り上げられたけど、隠してた!」
彼らは小さな紙を交換し合う。
そこには、拙いけれど確かな色が描かれていた。
赤。
青。
黄色。
緑。
「アリアおねえちゃん、また来るよね」
「うん。絶対に」
子どもたちの声は小さいが、強かった。
◆
隠れ家の奥。
アリアは机に広げた布を見つめていた。
レオンが開発した新型の光反射繊維。
ミラが持ち出した地球文化データ。
そして、アリア自身の色を広げたいという願い。
それらが一つになり、新しい衣装が形になりつつあった。
ミラが言う。
「アリア。この衣装、前のやつよりずっと強い光を放てるよ。あなたが動くたびに、色が空間に広がる」
レオンも頷く。
「光導管でショーをやれば、ステーション全体に届くかもしれない」
アリアは布をそっと撫でた。
(次の光はもっと大きく、もっと遠くまで)
胸元の赤い布が、静かに揺れる。
◆
その頃、管理局の監視室。
イーサンは端末を操作しながら、周囲を警戒していた。
(アリアの居場所はまだバレていない)
彼は管理局の捜査ログを改ざんし、アリアの行動履歴をダミーに書き換えていた。
(これで少しは時間が稼げる)
だが、背後から声がした。
「イーサン・グレイ。最近、君のログに不審な点が多いな」
イーサンの心臓が跳ねた。
(まずい)
だが、振り返らずに答えた。
「業務上の調整です」
「そうか。なら、問題ないが……」
上司の声は冷たかった。
◆
その夜。
アリアたちの隠れ家に、若者たちがこっそり訪れた。
「アリアさん。これ、見てください」
彼らが差し出したのは――
色の布、色の絵、色のメモ。
「僕たち、もっと色を見たいんです」
「アリアさんの光を広げたい」
「手伝わせてください」
アリアは驚き、そして胸が熱くなった。
(光はもう、私一人のものじゃない)
ミラが微笑む。
「アリア、あなたは象徴なんだよ」
アリアは深く息を吸い、若者たちを見つめた。
「ありがとう。みんなの力があれば、もっと大きな光を作れる」
若者たちの瞳が輝いた。
◆
アリアは立ち上がり、胸元の赤い布を握りしめた。
「第二回のショーをやろう」
ミラが息を呑む。
レオンが目を見開く。
若者たちが歓声を上げる。
アリアは静かに続けた。
「管理局がどれだけ弾圧しても、色はもう止まらない。だからもっと大きな光で、この世界を揺らす」
その言葉は、隠れ家の空気を震わせた。
色彩革命は、地下で確実に育ち、次の光の爆発へ向けて動き始めた。




