第18話 逃亡計画
薄暗いメンテナンス区画の奥にある隠れ家。
アリア、ミラ、レオンの三人は、古い作業台を囲んでいた。
空気は重く、静かで、どこか張りつめている。
アリアは胸元の赤い布を握りしめながら、震える声で言った。
「私のせいで、みんなが危険に巻き込まれてる」
ミラが首を振る。
「違うよ、アリア。あなたのせいじゃない。管理局が色を恐れているだけ」
レオンも静かに言葉を重ねた。
「アリアさん。あなたが悪いんじゃない。でも、このままでは本当に捕まってしまうかも……」
アリアは唇を噛んだ。
(逃げたくない。でも、私が捕まったら……色は消える)
レオンは端末を操作し、ステーションの構造図を投影した。
「これを見てください」
表示されたのは、居住リングのさらに外側。
ほとんど使われていない古い保守区画。
「この区画は、電力供給が独立していて、監視網が薄い。昔のメンテナンス用の通路が残っているので、アリアさんを隠すには最適です」
ミラが目を丸くした。
「そんな場所、まだ残ってたんだ……」
レオンは頷く。
「本来は立ち入り禁止ですが、僕なら開けられます」
アリアはレオンを見つめた。
「レオンさん……そんなことしたら、あなたまで……」
レオンは静かに微笑んだ。
「アリアさんを守るためなら、構いません」
その言葉に、アリアの胸が熱くなる。
ミラも自分の端末を開き、こっそり保存していたデータを見せた。
「アリア。地球の映像、音、文化……全部、持ち出してきた」
アリアは息を呑む。
「ミラ、危険だよ……!」
「知ってる。でも、これがなきゃ次の光は作れない。あなたの色は、地球の記憶と一緒にあるんだよ」
ミラの瞳は強かった。
「私は、あなたの光を守りたい」
アリアはミラの手を握った。
「ありがとう」
そのとき、通路の奥から小さな足音が聞こえた。
「アリアおねえちゃん!」
ノアと数人の子どもたちが駆け込んできた。
「どこかへ行っちゃうの……?」
「もう色、見られないの……?」
「やだよ……アリアおねえちゃん……!」
アリアは膝をつき、子どもたちを抱きしめた。
「大丈夫。私は逃げるんじゃないよ」
子どもたちが涙を拭いながら見上げる。
「じゃあ……どこ行くの?」
アリアは優しく微笑んだ。
「もっと大きな光を作るために、準備をするの。みんなにもっと色を見せるために」
子どもたちの瞳が、少しだけ輝いた。
そのとき、背後の扉が静かに開いた。
アリアたちは一斉に振り返る。
そこに立っていたのは――
イーサンだった。
レオンが身構える。
「あなたは管理局の……イーサン・グレイ!」
イーサンは手を上げ、敵意がないことを示した。
「違う。捕まえに来たわけじゃない」
アリアが一歩前に出る。
「何をしに、ここへ?」
イーサンは苦しそうに言った。
「アリア、まもなく君の拘束命令が執行される。このままでは……君は消される」
アリアの胸が冷たくなる。
「私を……?」
イーサンは続けた。
「逃げろ。今すぐに。俺が時間を稼ぐ」
レオンが驚く。
「あなた……管理局を裏切る気ですか?」
イーサンは静かに答えた。
「俺は、アリアを守りたい」
アリアの心が大きく揺れた。
◆
アリアは深く息を吸い、仲間たちを見渡した。
ミラ。
レオン。
イーサン。
そして、子どもたち。
(私は一人じゃない)
胸元の赤い布が、静かに揺れる。
「……わかった。逃げる。でも、それは終わりじゃない」
アリアは強い声で言った。
「私は次の光を作る。もっと大きな光を。この世界に……色を取り戻すために」
ミラが頷く。
レオンが拳を握る。
イーサンが静かに目を閉じる。
子どもたちが涙を拭く。
アリアは言った。
「行こう。革命の、次の準備をするために」
その瞬間、アリアたちの逃亡計画は動き出した。
光と影の衝突は、もう避けられない。




