第17話 管理局の弾圧
ステーション全体に、冷たい電子音が響き渡った。
――ピン、ポン、パン、ポン。
「こちら管理局。
昨夜、居住リング外縁部にて、違法な光の発生が確認されました。
市民の皆様は、色彩に関する噂に惑わされないようご注意ください。
色彩は精神を乱し、社会秩序を損なう危険があります」
アリアは資料室の端で、その放送を聞きながら息を呑んだ。
(……来た)
ミラが顔をしかめる。
「最悪……本気で弾圧に動き始めた」
アリアは胸元の赤い布を握りしめた。
◆
その日の午後。
資料室の前の廊下で、子どもたちの泣き声が響いた。
「返してよ! ぼくの絵!」
「色を描いただけなのに!」
「なんでダメなの!」
教師が震える声で言う。
「言うことを聞きなさい! 管理局に連れていかれますよ」
アリアは胸が締めつけられた。
(色を描いただけで泣かされるなんて)
ミラが小さく呟く。
「アリア。あなたの光が、子どもたちの心を動かした。だから管理局は恐れてる」
アリアは唇を噛んだ。
(私のせいで……)
胸の奥で、何かが強く脈打つ。
◆
レオンの部署にも、冷たい影が落ちていた。
「レオン・ヴァルク技術員。光反射繊維の使用履歴に不審な点があります。説明を求めます」
監査官が無機質な声で言う。
レオンは平静を装いながら答えた。
「通常の素材テストです」
「ならば、テストログを提出してください」
レオンの背中に冷たい汗が流れる。
「い、今すぐには無理です」
監査官は目を細めた。
しかし、強制する権限はないようだった。
「近日中に再調査を行います。協力を拒めば、処分の対象となります」
監査官が部屋を出ていくと、レオンは深く息を吐いた。
「……まずい」
◆
ミラの資料室にも、監視の目が入った。
「ミラ・ハート補佐。地球文化データへのアクセスが制限されます。以後、許可なく閲覧した場合は処罰の対象です」
ミラは怒りを抑えながら言った。
「どうして……? 地球文化は危険じゃない!」
監査官は冷たく答える。
「色彩に関する情報は、精神汚染の可能性があります」
ミラは拳を握りしめた。
(精神汚染……? 色が……? そんなわけない)
アリアがそっとミラの肩に手を置いた。
「ミラ……大丈夫?」
ミラは震える声で言った。
「アリア。あなたの光を守るために、私は絶対に折れない」
◆
その日の夕方。
ステーションのあちこちで、市民たちが小声で話していた。
「色を見たって本当?」
「管理局は何か隠してるんじゃないか?」
「でも、危険なんでしょ?」
「いや、見た人は皆"綺麗だった"って言ってる」
恐れと希望が入り混じった声。
そのどれもが、アリアの胸に刺さった。
(色は危険じゃない。でも、管理局はレッテルを貼ろうとしてる)
◆
夜。
アリアは自宅の小さな部屋で、膝を抱えて座っていた。
(私のせいで、子どもたちが泣いて……レオンさんが疑われて……ミラが監視されて……)
胸が痛い。
だが――
その痛みの奥に、別の感情があった。
(でも、色を見た人たちは、皆笑ってた)
アリアはゆっくりと立ち上がった。
胸元の赤い布が、静かに揺れる。
「私は、止まらない。色は誰かを傷つけるためのものじゃない。心を自由にするためのものだから」
その言葉は、震えていたが――
確かな強さを持っていた。
管理局の弾圧が始まった。
だが、アリアの光は消えない。
むしろ、影が濃くなるほど――光は強くなる。




