第15話 余韻
ショーが終わったあとも、しばらく誰も動こうとしなかった。
闇に戻った空間の中で、観客たちは胸に手を当て、震える息を整えている。
さっきまでそこにあった色の残像が、まだ目の奥に焼きついて離れない。
「すごかった……」
「こんな気持ち……初めて……」
「胸がスッとした……」
誰もが小さな声で呟き合う。
その声は、驚きと感動と、そして少しの恐れが混ざっていた。
◆
「アリアおねえちゃん、すごかった!」
「ほんとに色があったんだ!」
「また見たい!」
子どもたちは興奮を隠せず、跳ねるようにアリアへ駆け寄った。
アリアは驚きながらも、自然と笑顔になった。
「ありがとう。みんなが来てくれたから、できたんだよ」
ノアがアリアの手を握りしめる。
「ぼくね、今日のこと、絶対忘れない!」
その言葉に、アリアの胸が熱くなる。
(色はちゃんと届いたんだ)
◆
ミラは舞台裏から出てきたアリアを見るなり、駆け寄って抱きしめた。
「アリア! すごかった……本当に……!」
アリアは驚きながらも、ミラの背中に手を回した。
「ミラ、ありがとう。あなたが音を作ってくれたから、歩けたよ」
ミラは涙を拭いながら笑った。
「ううん。アリアの色が、私の心も動かしたんだよ」
二人の間に、言葉では言い表せない絆が生まれていた。
◆
レオンは照明ユニットの前で、深く息を吐いた。
「成功だ」
アリアが近づくと、レオンは照れくさそうに視線をそらした。
「アリアさん。本当に、綺麗でした」
アリアは頬を赤らめた。
「レオンさんの技術がなかったら、何もできなかったよ」
「いえ……僕はただ、あなたの色を見たかっただけです」
その言葉に、アリアの胸がまた熱くなる。
◆
観客たちは帰り際、口々に話していた。
「色って、危険じゃないのかもしれない」
「こんなに心が動くなんて……」
「また見たいね」
その声は小さかったが、確かに揺らぎを含んでいた。
統制された銀色の世界に、初めて"疑問"が生まれた瞬間だった。
◆
その夜、子どもたちは家に帰ると興奮して話し始めた。
「お母さん! 今日ね、色を見たの!」
「アリアおねえちゃんがね、光る服を着ててね!」
「虹みたいだったの!」
親たちは困惑し、戸惑い、時に叱りつけた。
「そんなもの、あるはずないでしょう」
「色は危険なのよ」
「忘れなさい」
だが――
子どもたちは首を振った。
「ほんとだよ! ほんとに綺麗だったんだ!」
その純粋な声は、親たちの心にも小さなひびを入れた。
◆
その頃――
管理局の会議室には、緊張した空気が漂っていた。
「本日、居住リング外縁部で違法集会の報告がありました」
「光の異常反応も検知されています」
「詳細については現在調査中です」
イーサンは黙ってその報告を聞いていた。
(アリアだ)
彼はショーの光を見た瞬間の衝撃を思い出す。
胸がざわつく。
あの光は、危険ではなく――美しかった。
だが、上司の声が冷たく響く。
「イーサン・グレイ。アリア・セルフィスを監視対象に追加しろ」
イーサンは拳を握りしめた。
「……了解しました」
だがその声は、わずかに震えていた。
(本当に監視すべきなのか? あの光を)
イーサンの心は、確かに揺れていた。
◆
ショーが終わり、観客が去ったあと。
アリアはホールの中央に立ち、静かに目を閉じた。
(私はもう戻れない)
胸元の赤い布が、静かに揺れる。
ミラがそっと隣に立った。
「アリア、次はどうする?」
アリアはゆっくりと目を開けた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
「もっと多くの人に、色を見せたい」
レオンも近づき、静かに頷いた。
「僕も協力します」
三人は互いに目を合わせた。
その瞬間、アリアの胸の奥で、確かな鼓動が響いた。




