第13話 集まる観客たち
メンテナンスホールの空気は、ひんやりと静まり返っていた。
廃棄された設備が並ぶその場所は、普段なら誰も足を踏み入れない。
だが、今夜だけは違った。
ミラは入口近くに立ち、薄暗い通路を何度も見つめていた。
(来てくれるかな……)
胸が高鳴る。
緊張と期待が入り混じった感情が、喉の奥で震えている。
そのとき――
「ミラおねえちゃん!」
小さな声が響いた。
ノアが友達を三人連れて駆けてきた。
皆、目を輝かせている。
「ほんとに色が見られるの?」
「アリアおねえちゃんの服、きれいなんでしょ?」
「ぼく、昨日からずっと楽しみだったんだ!」
ミラは微笑んだ。
「静かにね。ここは秘密の場所だから」
子どもたちは口に手を当てて頷いた。
その無邪気さが、ミラの胸を温かくする。
(アリア。あなたの色は、もうこんなに届いてる)
◆
しばらくすると、若い作業員たちが数人、恐る恐る姿を見せた。
「ここ、だよな?」
「子どもたちが"色が見られる"って言ってた場所……」
「本当にそんなことが?」
彼らは半信半疑の表情でホールに入ってくる。
だが、ミラが微笑んで迎えると、少しだけ緊張が解けたようだった。
「席は自由だよ。もうすぐ始まるから、静かに待っててね」
作業員たちは頷き、壁際に腰を下ろした。
その後も、噂を聞きつけた市民がぽつりぽつりと現れた。
仕事帰りの女性、疲れた表情の男性、好奇心に満ちた若者たち。
誰もが、どこか何かを求めている目をしていた。
この世界に、色があるのかもしれない。
そんな期待が、空気の中に静かに満ちていく。
ホールの奥では、レオンが照明ユニットの最終チェックをしていた。
「電力の流れ、正常。監視システムにも、まだ引っかかってない」
彼は深く息を吐いた。
(アリアさん。あなたの光を、守らなきゃいけない)
レオンは照明の角度を微調整し、舞台中央に柔らかな光が落ちるように設定した。
その光は、まるで夜明け前の一筋の光のようだった。
◆
舞台裏の狭いスペースで、アリアは衣装を抱きしめるようにして立っていた。
(こんなに人が来てくれるなんて)
ミラからの通信で、観客が増えていることを聞いた。
腕が震える。
怖い。
でも――嬉しい。
(私の色を見たいと思ってくれる人がいる)
アリアは胸元の赤い布をそっと握りしめた。
「……大丈夫。私は歩ける。色を纏って」
その言葉は、震えながらも確かな決意を帯びていた。
◆
観客は最終的に二十数名ほどになった。
子どもたちの小さな笑い声、若者たちのざわめき、作業員たちの緊張した息遣い。
廃ホールの空気が、ゆっくりと熱を帯びていく。
レオンが照明を落とし、ホールはほぼ真っ暗になった。
ミラが音源の再生準備を整え、アリアは舞台裏で深呼吸を繰り返す。
(いよいよ、始まる)
胸元の赤い布が、静かに揺れた。
最初の光を待つ観客たちの息遣いが、闇の中でひとつに溶けていく。
そして、革命の幕が――今、上がろうとしていた。




