第12話 ショー前夜
アリアは、自室の照明を最低限に落とし、机の上に広げた衣装を見つめていた。
半透明のオーロラレイヤーは、わずかな光を受けて淡く揺れ、虹色の影を壁に映し出している。
その光は、まるでアリアの胸の奥に灯った色彩の火そのもののようだった。
(明日、本当にやるんだ)
胸が高鳴る。
怖い。
でも、それ以上に期待が勝っていた。
アリアは衣装の裾を指先でなぞった。
光反射繊維が、彼女の体温に反応するように微かに色を変える。
(この服を誰かに見せたい。色を、世界に広げたい)
その願いは、もう抑えられなかった。
◆
同じ頃、資料室の奥。
ミラは古い端末の前で、ヘッドホンをつけて作業を続けていた。
「もう少し、風の音を柔らかくして……」
彼女が編集しているのは、地球の風の音のデータだった。
ショーのオープニングに使うため、何度も何度も調整を重ねている。
(アリアの服が揺れる瞬間に、この音が重なったら)
ミラは胸が熱くなるのを感じた。
「絶対に成功させよう。アリアの最初の光を、完璧に演出するために」
ミラの目は真剣だった。
彼女にとっても、明日のショーは夢の続きだった。
◆
技術部門の奥。
レオンはメンテナンスホールの照明ユニットを分解し、内部の配線を慎重に調整していた。
「これで、監視システムには引っかからないはずだ」
光量をギリギリまで落とし、電力の流れを通常のメンテナンス作業に偽装する。
少しでもミスをすれば、ショーは開始前に発覚してしまう。
レオンは額の汗を拭い、深く息を吐いた。
(アリアさんの舞台を守らなきゃいけない)
彼の胸には、技術者としての誇りと、アリアへの静かな敬意があった。
「明日は必ず成功させる」
レオンは工具を握り直し、最後の調整に取りかかった。
◆
管理局の監視室。
イーサンはアリアの行動ログを見つめていた。
「また通常と違う動き」
アリアは今日、資料室と技術部門を何度も行き来している。
ミラ、レオンとの接触も増えている。
(何をしている。アリア・セルフィス)
だが、胸の奥に生まれるざわめきは、警戒だけではなかった。
(あのとき見た彼女の表情)
資料室の扉越しに見た、アリアの光を宿した目。
あれは、規律に従うだけの人間の目ではなかった。
イーサンは拳を握った。
(私は彼女を止めるべきなのか? それとも……)
答えは出ない。
ただ、胸の奥で何かが静かに揺れていた。
◆
アリアは衣装をそっと畳み、胸元の赤い布に触れた。
(ここから……始まる)
明日、彼女は初めて"色"を世界に見せる。
それは小さな光かもしれない。
でも、その光はきっと――誰かの心を揺らす。
アリアは窓の外の宇宙を見つめた。
銀色の世界。
無音の闇。
その中で、彼女の胸の奥だけが静かに燃えている。
「明日、私は歩く。色を纏って」
その言葉は、誰に向けたものでもない。
ただ、自分自身の心に刻みつけるための言葉だった。
アリアは目を閉じ、深く息を吸った。
最初の光の夜は、静かに更けていく。
そして、革命の幕が――ゆっくりと上がろうとしていた。




