第11話 秘密の計画
アリアは完成した試作品を抱えたまま、資料室の奥にある小さな休憩スペースに座っていた。
半透明の布は、照明のわずかな光を受けて淡く揺れ、虹色の影を落としている。
(これを誰かに見せたい)
胸の奥で、強い衝動が渦巻いていた。
そのとき――
「アリア、来て」
ミラが顔を出した。
いつもの柔らかな笑顔ではなく、どこか緊張を帯びた表情。
「どうしたの?」
「見せたい場所があるの」
ミラはアリアの手を取り、資料室を出た。
◆
ミラに連れられて辿り着いたのは、居住リングの外れにある古いメンテナンスホールだった。
扉は半分壊れ、内部は薄暗い。
だが、広い空間が広がっている。
「ここ……?」
「うん。昔は設備点検に使われてた場所だけど、今は誰も来ない。監視カメラも壊れたまま放置されてる」
アリアは息を呑んだ。
(こんな場所が……)
ミラはホールの中央に立ち、両手を広げた。
「ここならできるよ。アリアの服を見せることが」
アリアの胸が跳ねた。
「ミラ、まさか……」
「そう。ファッションショーをやろう」
アリアは言葉を失った。
地球の映像で見た、あの光景。
ランウェイを歩くモデルたち。
観客の歓声。
色彩が空間を満たす瞬間。
(私が、それを?)
ミラはアリアの手を握った。
「アリア。あなたの服は、誰かに見せるために生まれたんだよ」
アリアの胸が熱くなる。
「……やりたい。私、やりたいよ、ミラ」
ミラは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、レオンにも手伝ってもらおう」
◆
技術部門の奥。
レオンは作業台の前で、光反射繊維の調整をしていた。
アリアとミラが駆け込むと、レオンは驚いたように顔を上げた。
「どうしたんですか、そんなに急いで」
ミラが息を整えながら言った。
「レオン、協力して。アリアの服を見せるために」
レオンは一瞬だけ固まった。
「……見せる?」
アリアは試作品を広げた。
淡い光がレオンの顔を照らす。
「レオンさん。私、この服を誰かに見せたい。色を、広げたい」
レオンはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「わかりました。やりましょう」
アリアの目が輝いた。
「本当に?」
「はい。ただし、いくつか注意点があります」
レオンは真剣な表情で言った。
「監視システムに絶対に引っかからないこと。照明も音響も、最低限に抑える。そして観客は少人数に」
ミラが頷いた。
「場所は確保した。あとは、演出と観客をどう集めるか」
アリアは胸元の赤い布を押さえた。
「子どもたちが、見たいって言ってた。あの子たちなら、きっと来てくれる」
レオンは苦笑した。
「子どもは正直ですからね。でも、それが一番危険でもある」
アリアは強く言った。
「でも、色を見せたい。あの子たちに、世界は銀色だけじゃないって伝えたい」
レオンはアリアの目を見つめ、静かに頷いた。
「わかりました。僕も協力します」
ミラが手を叩いた。
「じゃあ、決まりだね。ファッションショーの準備を始めよう」
アリアは胸が熱くなるのを感じた。
(私たちの、最初の一歩)
◆
アリア、ミラ、レオンの三人は、廃ホールに集まり、照明の位置を確認し、音響を調整し、ランウェイの位置を決めた。
アリアはホールの中央に立ち、深く息を吸った。
(ここから始まるんだ)
胸元の赤い布が、静かに揺れた。
アリアの色彩の革命は、ついに形を持ち始めた。
そして、世界は静かに――しかし確実に――揺れ始めていた。




