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第10話 服のデザイン

 アリアは、レオンから渡された光反射繊維を手のひらに乗せたまま、しばらく動けなかった。


 淡いピンクと青が混ざり合い、光の角度で虹色に変わる。

 まるで生きているように、繊維そのものが呼吸しているようだった。


(これで服が作れるの……?)


 胸の奥が熱くなる。

 前に見た地球の映像が、鮮やかに蘇る。


 色彩。

 自由。

 笑顔。

 風に揺れる布。

 光を反射するアクセサリー。


(私も作りたい)


 アリアは深く息を吸い、資料室の奥にある小さな作業スペースへ向かった。


 ◆


「アリア、来たね」


 ミラはすでに資料を広げて待っていた。

 机の上には、地球のファッション史から抜き出した画像が並んでいる。


「今日はね、アリアにデザインの基礎を教えるよ」


 アリアは椅子に座り、ミラの言葉に耳を傾けた。


「まずは、シルエット。服の形が人の印象を決めるの。地球では、Aライン、Hライン、オーバーサイズ……いろんな形があった」


 ミラは画像を指しながら説明する。


「次に、色。色は感情を動かす。赤は情熱、青は静けさ、黄色は希望。アリアが作りたい世界の色は、どんな色?」


 アリアは胸元の赤い布をそっと押さえた。


「心が震える色。見た人が息を呑むような、そんな色」


 ミラは微笑んだ。


「じゃあ、それを形にしよう」


 ◆


 アリアは紙を取り出し、ペンを握った。

 手が震える。


(私にできるのかな)


 ミラがそっと言った。


「アリア。あなたが見た色の世界を、そのまま描けばいいんだよ」


 アリアは深呼吸し、ペンを走らせた。


 最初の線はぎこちなかった。

 だが、描き進めるうちに、心の中の色彩が少しずつ形になっていく。


 半透明のレイヤー。

 光を受けて揺れる裾。

 淡いピンクと青のグラデーション。

 胸元に小さな赤い布。


(これが、私の最初の服)


 描き終えた瞬間、アリアは胸が熱くなった。


 ミラは絵を見て、息を呑んだ。


「アリアすごいよ。これ、本当に綺麗……!」


 アリアは照れくさくて視線をそらした。


「まだ形だけだよ」

「形ができたら、あとは作るだけ」


 ミラは力強く言った。


 ◆


 その日の夕方。

 アリアはデザイン画を持って技術部門へ向かった。


 レオンは作業台の前で工具を片付けていた。


「レオンさん。これ、見てほしいんだけど……」


 アリアはデザイン画を差し出した。


 レオンは受け取り、じっと見つめた。


 数秒後――

 彼は小さく息を吸った。


「アリアさん。これ、本当にあなたが描いたんですか?」

「うん……下手かもしれないけど」

「下手どころじゃない。これは紛れもなく服だ。ちゃんとしたデザインになってる」


 アリアの胸が熱くなる。


 レオンはデザイン画を机に置き、光反射繊維を手に取った。


「光反射繊維なら、この色の揺らぎを再現できるかもしれない」

「本当に……?」

「はい。ただし、スーツの機能を損なわないように調整が必要です。監視システムにも引っかからないようにしないと……」


 レオンは真剣な表情で言った。


「でも、やってみる価値はある」


 アリアは思わず笑顔になった。


「レオンさん。ありがとう」


 レオンは照れくさそうに視線をそらした。


「僕も見てみたいんです。あなたが作る色の世界を」


 ◆


 その夜、アリアは自室で試作を始めた。


 光反射繊維を慎重に縫い合わせ、半透明の布を重ねる。

 針を通すたびに、布が淡く光る。


(綺麗……)


 時間を忘れて作業に没頭した。

 気づけば、外の照明が夜モードに切り替わっていた。


 アリアは完成した試作品を手に取り、そっと広げた。


 淡いピンクと青が混ざり合い、光の角度で虹色に変わる。

 裾はふわりと揺れ、まるで風を纏(まと)っているようだった。


「できた」


 アリアは胸元の赤い布を押さえた。


(これが私の最初の服)


 その瞬間、胸の奥で何かが強く脈打った。


 アリアは、創造者としての第一歩を踏み出した。

 そして、この服が革命の象徴になることを、この時はまだ知らなかった。

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