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7 ルーレアートの便り、それからセレナの便りも届きました

ラシアスは、ルーレアートからのいつもよりは厚い便りを受け取った。

 おのれが今、仕えている草原の部族、アルーサの汗エルラスの娘セレナを、アル・ラーサ殿に紹介したい、ということ。

セレナは十五歳で、アル・ラーサの女性に関する有名な信条の、その条件に合致する娘であること。

そして以前よりアル・ラーサに憧れており、その妻となりたいと希望していること。

 そして、ルーレアートがセレナ、さらにはその同母兄エルサーナ、異母弟エルラシオン、エルサーナの妻、マンドハイとともに都を訪れることが書かれていた。


 さらには、この便りが届く頃には一行五人は、既に草原を出発しているので、返信はブルクシャフト(その地は都ラグーンから概ね二週間の旅程を要する場所であった)、の北都館にルーレアート気付で届けておいてほしいこと。

都到着後の一行の宿の手配、また今回は長く滞在するつもりなので、セレナ様のアル・ラーサ殿への紹介だけでなく、貴公が会うべきと判断する人物と、今回の一行との面談を取り計らってほしいことが書かれていた。 

追伸には、エルラス汗から託された、ラサリオン殿下の九宝玉のひとり、リセラ殿へのファンレターのことも記されていた。


 これはこれは随分と面白い便りが届いたな、

ラシアスは思った。

 セレナという草原の娘をアル・ラーサに紹介するということ。そして草原に行ったきりで一向に戻ってこないルーレアートと五年ぶりに再会するということだけではない。

 これまでのルーレアートの便りの中で頻繁に登場し、ラシアスがその人物に興味を持っていたエルサーナ、エルラシオンの兄弟がやってくる、ということも楽しみだった。

 

 そのエルサーナの十一歳年上の妻マンドハイも、ルーレアートのこれまでの便りで記されていたことがあった。

特に美しいというわけではないが、エルサーナ様のお世話をしている姿が実によい。妻にするならこういう女性がよい、そう思わせる、と書かれていたことを思い出した。


 またその女性が、エルサーナの母が亡くなったあと、エルサーナ、セレナの兄妹の日常の世話をした女性であり、草原の他の部族の若者に嫁ぎ、ふたりの子を成したあと、夫がこの世を去った未亡人であり、嫁ぎ先のセイルーンという部族が居住する場所まで迎えに来たエルサーナの懇願によりその妻となったということも、ラシアスには既知のことだった。


 十一歳年上の未亡人か。

エルサーナという人物、ラサリオン殿下とこの面では同類のようだ。いや彼にとってはその未亡人がただひとりの女性であり、子供もふたりいる、ということになれば、ある種、殿下を超えている。

 殿下は、執事のガーランドに、未亡人に対する依頼を行った際、子どものあるなしには特に言及はなかったそうだが、ガーランドの配慮により、九宝玉で子のある女性はいない(幼少時に亡くした、という女性はふたりいた)。


 美女、若い、子供がいない。この条件を満たす未亡人を一年間で九人探しだしたガーランドの手腕と情報収集能力は凄いということになる。


 ルーレアートの便りにあった依頼、宿の手配については長期滞在するというのであれば、思い付く場所はひとつしかない。

滞在中、一行五人は、その館の住人にもみくちゃにされるであろう。


 ルーレアートのこの便りには「親展」の文字はなかった。

これは他者への披露可を意味するので、ラシアスは、直ちに隣の官舎で暮らしているアル・ラーサに見せに行った。

 アル・ラーサの官舎の居間で、執事のロイとの、いつも通りの挨拶代わりの会話。

出されたコーヒーの銘柄について述べ、いつも通りに外したあと、ラシアスは、


「今日、届いたルーレアートからの便りだ」

とのみ言って、アル・ラーサに渡した。


 セレナという娘のことは、エルサーナ、エルラシオン同様、ルーレアートのこれまでの便りにもしばしば登場していた。


 今回の便りにも繰り返されていたが、努力家タイプではないが、明晰な頭脳を持ち、騎乗能力、剣技に勝れ、今年、女騎士百人隊の隊長となり、統率力にも勝れた生気溢れる娘である。


 これが、ルーレアートが描くセレナという娘の人間像である。がラシアスは、その容姿に対する言及がないことには以前から気付いていた。

 母親は草原一の美女と名高い女性だったそうだが、あまり美しいと言える娘ではないのかな、ラシアスはそう感じていた。


 アル・ラーサは便りを読み終わった。


「どうだ、アル・ラーサ。このセレナという娘に会ってみるか」


「会う」


アル・ラーサはただそれだけを答えた。心なしか顔が赤くなったような気がした。


 アル・ラーサは、セレナの容姿については、何も言わず、何も訊かなかった。

ラシアスの気付いていることに気付かなかったのか、気付いていても訊かなかったのかは、ラシアスには分からなかった。

おそらく後者であろう。

ラシアスはそう思った。


 二日後、ラシアスはまた便りを受け取った。セレナからラシアス宛に初めて届いた便りだった。「親展」となっていた。


 そこには、今回の件に関してのラシアスの労に対する感謝の言葉が述べられていた。

 そして、アル・ラーサをずっと思い続けていたという、その気持ちが記されていた。

 さらには、自分は美少女ではないのでアル・ラーサ様に気に入っていただけるかどうか、自信がないとも綴られていた。


 この便りは、ラシアスの心を蕩けさせた。

何とも素直で愛らしい娘ではないか、ラシアスはそう思った。ルーレアートが魅力的な娘だ、と評していたのもよく分かった。


 便りの文章も見事である、とラシアスは思った。その内容であるにも関わらず情緒過多でも感傷的でもなく、それでいて気持ちがよく伝わってくる。


 こんな便りを貰ってしまっては。

ラシアスは思った。

 この話、この参政官ラシアスが必ず成就させましょう、セレナ様。


 先ずはラサリオン殿下に報告と相談だな。

ラシアスは九宝館に向かった。


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