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第七十一話:確実に訪れる闇

 本部はこの日、殺伐とした空気と化していた。緊迫した面持ちでうんうんと唸る天下五剣を、呆れた様子で楓が眺めている。


「これは非常にまずいな……」

「えぇ、ですからなんとしてでも私達は全力を賭してこの事態を打破せねばなりません」

「いや、悠を引き留めるだけでしょ?」


 重々しく口を開いた三日月宗近と童子切り安綱に、楓の冷静なツッコミが入った。

 彼女の言うとおり、結城悠が弥真白やましろに帰ろうとしている。彼にしてみれば、とうに用件は果たしているわけで、となる彼には長居をする理由もないし、天下五剣が悠を縛っておく口実りゆうもない。


 ではお疲れ様でした、と言わないのが天下五剣である。せっかく自分達の下に来てくれた黒一点を、みすみす逃がすはずがない。従って今回、こうして作戦会議を開いているのも、いかにして悠を耶真杜やまとに縛り付けておくかという、各々の欲求から始まっている。


「やはりここは重要な任務があるといって引き留めるのはどうだ?」

「でもさぁ、それじゃあどんな任務だって絶対につっこまれるじゃん」

「では、ここは運命だからというのは――」

「却下だね」

「右に同じく却下ですね。う~ん……」

「うわぁ……」


 わいわいと盛り上がる面々を、冷ややかな目で見る楓。


「付き合ってらんない……」


 嘲笑を含んだ捨て台詞を吐いた彼女が出ていこうとしていることすらも、天下五剣はまったく気付かない。保護観察対象も、結城悠という一人の男の前ではその価値もなきに等しくなる。我が目を以て理解させられた楓の顔は、部屋を出てからも呆れ顔を維持している。こんな連中に今後も保護されるのかと考えれば、彼女がげんなりしても誰も咎めまい。


 本部を出てからの楓は、町並みに身を置いていた。本部に留まっていてもやることがない、のんびり自由気ままにすごせるのはよくても、一人で発散させる方法を彼女は知らない。一人よりも二人の方がいい。そういう意味合いから、先に町へと行ってしまった悠を探していた。


 早ければ、悠が弥真白やましろに戻ってしまうのは明朝。残された時間も僅かで、その間に天下五剣がどうにかしてくれる、などと楓も最初から期待なんてしていない。どんなに策を練ろうとも、まっすぐな剣のような彼の意志はそう簡単に折れやしない。付き合いが浅いながらも結城悠がどのような男であるかを自分がわかって彼女達が知らぬはずがないのに、と楓は頭を悩ませる。あんなにも頭の悪い会議を目にしてしまった後だ、彼女の疑問は尽きない。


 それはさておき。


「もう! 悠ってばこの私様わたくしさまを置いてどこに行ったんだろ……」


 彼是かれこれ一時間が経過する。件の男に、楓はまだ会えていない。

 道行く人に尋ねてもみた。あっちの店に入っていった、先程すれ違った、本当に素敵すぎる早く結婚して幸せにしたい――それはそっちの願望だろうに、とつっこんでおく――などなど。いずれにせよ、有益な情報となっていないから未だに楓は悠を探して彷徨さまよっている。


「は~……今日を逃したら悠とも手合わせできないし、早く見つけなきゃだけど……本当にどこほっつき歩いてんだろ」


 愚痴をこぼしつつ、楓は脳裏に一つの記憶を呼び起こす。

 悠と道場で仕合をした時の記憶えいぞうが鮮明に再生られる。とても楽しかった。月並みな言葉であることは否めない。しかしながら、あの高揚をどうやって言葉にして表せよう。楓は思いつかない。いや、言葉にしようとしていることが愚かしい。

 剣を交えたものにしかわからない高揚を、他者に説明して共感を得ようとしていることがそもそも誤りであり、楓もこの幸福感を誰にも明け渡す気などない。あれは私様わたくしさまだけのものだ。


「本当に楽しかったなぁ」


 楽しかったからこそ、せめてもう一度。次はどんな仕合へと展開してくれるだろう。真剣で殺りあっても面白そうだ。そうすると彼の真っ赤な血が見れる。とてもきれいに違いない。肌に触れればきっと温かな感触が優しく包み込んでくれる。


 あぁ、早く。早く結城悠を感じていたい。今すぐにでもはらわたを引きずりだして――


「って、あ、あれ?」


 ――楓は酷く狼狽した。どうして、と自問を繰り返す彼女に怪訝な目が向けられたが、誰も声を掛けようとするものはいない。各言う楓も自身のことで手一杯で、周りに気を掛けていられるほどの余裕は皆無だった。

 楓が好きなのは、あくまで強者との戦いであって血肉が見たいわけではない。けれども、さっきのは……。


「……ううん、違う。さっきのはちょっとした気の迷いってやつ。私様わたくしさまがそんなことを考えるはずが、ないもん……」


 力なく言葉をもらす彼女に、一つの声がかけられる。

 とても優しい声色。聞いているだけで相手が心配してくれているのが伝わってくる。楓は顔を上げた。

 あぁ、やっぱりだ――安堵を浮かべる彼女の瞳に、手を差し伸べる一人の青年が映し出されていた。

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