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年越しは二人っきりで(フラグ)

超久しぶりの更新ですw

年越し特別SSなので超短めです(汗)

 しんしんと降る雪を見上げれば、白い湯気が鉛色の空へと昇っていく。おちょこの酒をくっと飲めば、愛刀が注いでくれる。温まった肌はとても健康的で、いつになく艶めかしい。悠はふいと顔を背けると、ほぅと息を吐いた。


「やっぱり温泉っていいね悠」

「あぁ、そうだな……」

「温泉で年を越す……最高と思わない?」

「同感だ」


 年越しを温泉ですごしたい――この提案をした千年守鈴姫ちとせのかみすずひめと悠は神威にある温泉へと足を運んでいた。いささか贅沢な気がしないでもなかったが、たまには豪勢にしようという愛刀のたまのワガママに、彼も拒まなかった。

 ちなみに、今回の旅行は二人っきりで計画されている。仲間内には誰も知らせていない――一応、旅行に行くからしばらく戻ってこないとだけは書置きしてはいるが……。


(今頃大慌てだろうなぁ……)


 帰ってからが大変なのは、最初ハナから覚悟している。そうでなくてはこうして旅行に出たりなどしていない。悠は後のことを考えないように努めた。今は現在いまこの時を精いっぱいに楽しむ。悠はもう一度、酒をくっと仰いだ。


「ねぇ悠」

「お、おいくっつくなよ鈴」

「タオルでちゃんと隠してるからいいでしょ?」

「お前……酔ってるな?」

「酔ってないよ……」

「いや絶対酔ってるだろ。ほらっ、いくら混浴可能とはいっても周囲の目があるのを忘れるな」

「……ボク達以外に誰かいる?」

「…………」


 千年守鈴姫の指摘に、悠は押し黙ってしまう。混浴可能な温泉旅館を選んでいるわけだが、悠らのように異性で訪れる客が皆無であることから、この旅館の経営状態ははっきり言って芳しくなかった。そういう意味では、悠達は貴重な客であり、逃がさないとばかりの御もてなしは料金よりも過剰すぎる。

 もらえるものはもらっておけ、と実休光忠じっきゅうみつただであったなら遠慮の欠片もなかろうが、良識ある悠は悩ましくはあった。


(後でこっそり、チップ渡しておこう)


 未だ離れようとしない愛刀への対処に悠は努める。

 その時。がらりと背後で音が鳴った。誰かがやってきたらしい。自分以外に混浴を楽しまんとする旅行者に悠は興味を持った。挨拶ぐらいはしておこうと目線をやる――とても知った顔がいたから、悠の顔は険しい表情ものへと変わる。

 何故、ここにお前達がいる――本来であったなら入ることさえも許されない面々は、やけに得意げな顔をしている。実に人の神経を逆撫でさせる顔に苛立ったのは、自分だけではなかった。


「なんで皆がここにいるの?」


 いつの間にか離れていた千年守鈴姫が招かれざる客へ問う。既に己が半身たる刀を抜き終えていている。相手の出方一つで今にも斬り掛からん剣気を、悠は手で制した。せっかくの温泉旅行を血の雨で終わらせるには、あまりにも忍びなかった。

 まだ余地はある。そう信じて、悠は招かれざる客と対峙する。途端に彼女らの視線が下方へ集中した。タオル一枚と言えども、気恥ずかしさが込みあがってきたので湯船に深く浸かった。


「混浴って意味をご存じですか?」

「もちろんだ。だからこうして入っているではないか、悠よ」


 まったく悪びれる様子を見せない長曾祢虎徹ながそねこてつがからからと笑う。


「今日こそウチの物にしたるでぇ悠ぁ。それからちーやん、久しぶりに隊長として教育したるわ……羨ましいことしくさりよってからに、隊長のウチを差し置いて許さへんで!!」

「元隊長でしょ! ボクだってもう悠――主を誰かに渡したりする気はないんだから!」

「時は来た――それだけだ。つまり悠よ、自分のものとなれ」

「寝言は寝て言ってもらえますか和泉守さん」

「こ、混浴してる……今私は悠さんと夢の混浴をしています! だ、だとすると次に待っている展開といえば温泉に浸かりながら湯船の下では……ぶぶはぁぁっ!!」

「加州さんが鼻血を出した!」

「加州さんに謝って悠きゅん!!」

「またこの流れか!!」


 前にもやったことのある展開に、悠はげんなりとした顔で空に叫んだ。

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