殺してでも奪い取る!!
醜い争いがあった。
たった一つの物のために、彼女達は容赦なく刃を振るう。
そこには仲間も、姉妹の絆も存在しない。全員を蹴落としてでも手に入れたい欲求に駆り立たせたそれは、魔性を秘めていた。
快晴の下、悠は庭へと足を運んでいた。
手慣れた動きで落ち葉をさっさと集め、そこに火を灯す。時間立たずして赤々と燃え上がる炎の前で、彼はハンカチを取り出した。かつては美しい刺繍が施されていたであろう、模様は酷く薄れてしまっていた。そればかりか、ところどこに穴が開いている。これではハンカチとしての機能は果たせそうにもなく、同時に見た目的にもみすぼらしい。
「今日でこいつともお別れだな」
物とはいつかは壊れるもの。ハンカチとて例外には漏れない。
特に思い入れもなく、これより焼却することにも悠は何の感慨も抱かない。また新しく買うか、拵えれば済むのだから。
ハンカチを燃え盛る炎へと投入しようとして――次の瞬間。何者かの妨害にあった。捨てようとしたハンカチを強引に奪い取られてしまう。はて、こんなぼろぼろになったゴミを一体どこの誰が欲しがるのやら。悠は視線を動かす。
「はぁ……はぁ……な、なんてことをするんだい君は!?」
必死の形相でハンカチに頬擦りしている小狐丸がいた。
あれはゴミだ。町に出さえすればどこでだって簡単に調達することのできる、いわば数打。後生大事そうにされるほどの価値などない。
ひとまず、ゴミをいつまでも持たせておくのは忍びない。悠は返すように、小狐丸に要求する。
「今から捨てるから返してくれ小狐丸」
「断る! 捨てるんだったらこの私が貰ったって問題ないよね? はい決まり、今日からこれは私ので決定したから」
「いや、確かにそうだけど……そんなボロボロの使わなくてもいいだろ」
「わかっていないね悠は……。君からすればこの“はんけち”、確かにゴミかもしれない。だけどね、君が使用していたという事実があるからこそ価値があるんだよ」
「…………」
そういえば、と。ずっと前の記憶がここにきて甦る。
悠の脳裏に映し出されるのは、彼が桜華衆に所属する前のころ。汗を拭いた手ぬぐいで激しく奪い合っていた御剣姫守達がいた。この事実に基づいて、ハンカチが小狐丸に奪われたことも悠は納得できた。
(俺のハンカチを……いや、よそう)
何に使うつもりなのか、と思わず尋ねそうになった自分を制止させた。
どうせ、よからぬことに使われるのは目に見えている。聞くだけ無駄であり、嫌悪感を抱きたくなければ知らない方がまだ軽い。
欲しいというのなら、別に拒む理由も悠にはない。くれてやることにした。
「そんなにそのゴミが欲しいのならどうぞ」
「よしっ!!」
「そうはさせませんよ!」
「むっ!?」
喜びを身体で表現していた小狐丸に反感を示す者らがやってきた。
屋根の上にわざわざ移動する必要があったのだろうか、と尋ねるのは野暮というやつであろう。ともかく、屋根から軽やかに着地した四人の少女に悠は目を向ける。
姫鶴一文字、微塵丸、狐ヶ崎為次、九字兼定――以上四名の視線は小狐丸、が手にしているハンカチを鋭く捉えて離さない。彼女らの目的もアレであることが発覚し、またしても何に使われるのか、悠は酷く気になった。
ともあれ。四人が隊長に物申す。
「お兄様の“はんけち”を独り占めするなんて許せません!」
「横暴だー! 隊長を許すなーっ!」
「それは吾がもらう!」
「兼定にちょーだい!」
「これは悠が愛する私にってくれたものだからね、誰にも渡せないよ!」
「言ってないぞ。捏造するなよ小狐丸……」
「あーっ!! 小狐丸が兄貴の“はんけち”を口の中に入れやがった!」
「もごごもがもがもぐぉごぉ!」
「いや何言ってるかわからないし……って聞いてないか」
既にチャンバラを始めていて、声など聞こえそうにもない。激しく太刀打ち合っている五人を横目に、悠は溜息を吐いた。
「あ、悠よちょうどよい。実は賭博で一儲けできそうなんじゃがワシにちょっと預けてみんか? 倍になって返ってくることを約束してやろう」
「…………」
もう一度、今度は大きな溜息をこぼした。




