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世界救済のハジマリ⑪


「くそっ、あのヤローのせいで計画が無茶苦茶だ……」


 チンピラたちのリーダー格らしきスキンヘッドの大男は、手下三人とともにリッカを取り囲みながら毒づいた。


 思えば半月前、この赤髪の女剣士が街にやってきたからすべてが狂い始めた。通行人を路地裏に引っ張り込んで財布を奪うのも、商店の品を搔っ攫うのも、それまでやり放題だったことがことごとく目の前の少女に邪魔される。今では表通りを歩くだけでもびくびくしなくてはいけない有様だ。


 こんな醜態をいつまでも続けるわけにはいかない。


 だから、計画を練った。慣れない頭を使い、目障りな剣客少女を自分たちのテリトリーに招き入れることに成功した。自分たちのほうが強いと、少女に刷り込む直前までやってきた。


 だというのに、今度はいきなりやってきた見るからに弱そうな男に横やりを入れられたのだ。


 大男はぎりぎりと歯を噛み鳴らして目の前の少女を睨みつけた。


「こうなりゃ、どっちも八つ裂きにしてやる……! まずはてめーだ、番犬女ァ!」



 大男の声に合わせてならず者たちが武器を構えた。


 相手の強さは身に染みているが、所詮死にかけの女一人。全員でかかればひねり潰すことはたやすい。


 そしてその大男の考えは、すぐに間違いだと悟らされた。


「……なるほど」

「ああ?」


 赤毛の少女はぽつりとつぶやいた。


 その右腕には、さっき闖入者の男から受け取っていた風変わりな腕輪を着けている。

 ならず者たちが眉をひそめる中、赤毛の少女はこう続けた。


「どうやってあの貧弱な男が扉を吹っ飛ばすような真似ができたのか気になっていたのですが……そういうことですか」


「はァ? てめえ、さっきから何言っーー」


 瞬間、赤毛の少女の姿が掻き消える。大男が狼狽する前で、赤毛の少女はーーリッカは。


「これは、確かに凄い」


「「「ぐぉあっ!?」」」


 霞むほどの速度で移動したリッカは、ただの手刀で、大男の取り巻き三人を瞬く間に吹き飛ばした。


「……は?」


 大男の目が点になる。当然だろう、立っているのがやっとのはずの少女がいきなり目の前から姿を消し、次の瞬間には仲間の男三人を素手で薙ぎ払っていたのだから。


 そしてその視線を受けながら、リッカは右手の腕輪を見る。


(身体強化の魔法具、ですか。おそらく腕力、脚力の強化……あの男が自信満々に渡してきただけのことはありますね)


 火竜の腕輪の効果。パワーとスピードの上昇。その恩恵を受け、リッカは感心を通り越して呆れるような感情を抱いた。


 火竜の腕輪によって身体能力が向上したとは言え、リッカの身体は依然としてぼろぼろのままだ。ではなぜ大の男三人を瞬殺できたかと言えば、それは紛れもなくその身体強化の賜だった。


 立っているのがやっと。問題ない。強化された脚力をもってすれば少し力を籠めただけで凄まじいスピードを発揮できる。


 腕に力が入らない。それも問題にならない。強化された腕力をもってすれば、撫でただけで相手が勝手に吹っ飛んでいく。


(まったく、反則級の魔法具ですね)


 リッカが内心でため息を吐くのと同時、大男が同じことに思い至ったように喚いた。


「ッ……くそ、ずりィぞ! 変なモン着けやがって!」


「人質を取ったうえ、女一人を男二十人で迎え撃とうとしたあなたにだけは言われたくありませんね」


「ぐっ……!」


 大男は歯噛みした。リッカが先制したことによって、大男はリッカと一対一の構図に陥っている。


 このままあの男も手刀で倒してしまおう。リッカはそう思いながら『異能』の示す道筋をたどろうとして、ここで駆け寄ってくる小さな足音に気付いた。


「お姉さんっ、これ!」


「アイラ?」


 駆け寄ってきたのはこげ茶色の髪を揺らす小さな女の子だった。


 リッカのそばまでやってきたアイラは、手に持っていた木刀を持ち主に返す。


「これは……」


「落ちてるのを見つけたの! お姉さんのでしょ?」


「それはそうですが、……アイラ、それにしてもよくこんなものを探せましたね。あの男の側にはまだ不良たちがいたでしょう?」


「ああ、それならーー」



『ふはははははははははっ! 食らえこれがジャパニメーションの力! ほとばしれ雷、【10まんボ○ト】ぉおお!』


『ぎゃあああああっ!』


『くそ、何なんだこいつ! こんな強い魔術師がいるなんて聞いてねェぞ!』



「なんか大丈夫そうだったから」


「何なんですかあの男は……」


 リッカの視線の先では、黒髪の少年が喜々として翡翠色の雷撃をまき散らしていた。逃げまどうチンピラたちを追い回すその様は、完全に最初に見た時と真逆である。リッカは自然と呆れるような表情になっていた。


「何ぐちゃぐちゃ言ってんだ番犬女ァ! 余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」


 リッカとアイラのやり取りを見て大男が激昂する。


 懐から大ぶりのナイフを取り出し、ぎらついた目でリッカを睨みつけた。


「……お姉さん、あんな奴に負けないで」


 アイラがリッカを見上げて言った。


 リッカはその自分を信じ切った目に微笑みを浮かべながら、頷く。


「もちろん」


 木刀をゆるやかに構えて。


「ーー格好いいところ、見せてあげます」


「ああああああああああッ!」


 大男が突進してくる。ナイフを振り上げて。きっと、生前の自分なら怯えてその場から動くこともできなかったであろう攻撃。


 それを、手にした木刀で真下から弾き上げる。


「……ッ!」


 時が止まる。大男の目が愕然と見開かれる。


 リッカは弱い男が嫌いだ。生前の自分は『女だから』という理由で強さに結びつく技術は何も学ばせてもらえなかったから。


 だが、それは世界で二番目。


「私が一番嫌いなのはーー」


 赤い髪が翻る。木刀が軌道を曲げ、右から横一文字に剣閃を描いた。


「ーー力の使い方を間違えている人です」


 一閃。


 火竜の腕輪で強化されたリッカの剣撃が大男を吹き飛ばす。


 五メートル以上も飛んでいった大男が地面に落下する。気を失っているのは明らかだった。


 それとほぼ同じタイミングで、離れた場所でもひときわ大きな不良たちの悲鳴が上がった。


 リッカがそちらを見れば、黒髪の少年もきっちりと自分に向かってきたチンピラたちを返り討ちにしたところだった。これでこの場の敵は全滅。


「……ドヤァ( ・´ー・`)」


 どんなもんだ、とばかりに口元をゆがめてくる少年にリッカは思わず肩をすくめ。


 そして、小さく口元だけで笑みを浮かべた。


 三日連続更新なんていつぶりでしょうか。何だかPVが増えるのが嬉しくてついついやっちゃいました。

 このなっがい短編も次回で最後です。

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