↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/88

蛙の声が止む頃に



「【ツリーフォーム・ハウス】!」


 俺が魔法陣を掲げて魔力を流すと、地面から木の根が這い出して、絡み合い、あっという間に二階建ての家に化ける。同じように二軒、三軒と木造の家が生成されていく。


 【ツリーフォーム・ハウス】は造形魔法シリーズの中でも建物を造るのに特化した魔法だ。ありあわせの材料で作った急造の魔法陣でも、これくらいはたやすい。


「「「おおおおおーっ!」」」


 それを見ていた村人たちがどよめく。

 俺はギャラリーを無視してそばにいるオークに話しかけた。


「おっさん、家のほうはこれで終わりか?」


「あ、ああ」


「そうか。じゃあ次は地面の埋め立てだな。【ランドフォーム・ロード】!」


 次は土木工事用の魔法陣。


 雷撃に爆撃、巨大岩石の落下などで酷いありさまなっていた地面がみるみるうちに均《なら》され、平らな地面に変わっていく。


 その光景を見ながら、おっさんはオークのような声で言った。


「兄ちゃん、マジで人間か……?」


「俺はちゃんと人間だよ。あんたと違ってな」


「俺も人間だよ! いや、そういう意味じゃねえんだが、何つーか、本当にとんでもねえなあ……まさかうちにあるインクと紙きれでこんなことができるとはなあ」


 おっさんが心底驚いたように言っていた。

 ベルゲルとの戦いが終わったあと、俺はまずおっさんに声をかけて店まで案内してもらった。

 理由は言うまでもないが、魔法陣の材料を提供してもらうためだ。


 俺はベルゲルとの戦いで魔法陣をポーチごとなくしてしまったので、家の建て直しやら地面の修繕やらのために新たに魔法陣を描かなければいけなかった。そのための材料が必要だったわけだ。


 本当なら【記憶再生】と【記憶転写】が使えればよかったんだが、あの二つの魔法陣を造るには特殊なインクと感応紙が必須になる。そして当然ここでは調達不可。

 そういう経緯から、俺はおっさんの店で一般的な魔力インクと感応紙をもらって建築用やら土木作業用の魔法陣を新しく描き、こうして村の復旧作業をしているのだった。


 俺は一通り村の景観を復活させてから、ふうと息を吐いた。


「こんなもんかな」


「お疲れさん。茶でも淹れるか?」


「今はいいわ。さっさと帰って寝たい。……あ、そういやさっきあんたが背負ってた人は?」



 俺がこの村に来たとき、おっさんは血だるまの青年を一人支えていた。おそらくベルゲルにやられたんだろう。俺たちがあのカエルを引き付けている間に、このおっさんがベルゲルの攻撃の届かない場所まで運んだはずだが、その後どうなったのかは知らない。


「あいつならうちの村の薬師に任せてるよ。……まあ、後で街まで行ってきっちり医者に診せる必要はあるかもしれんが」


「あー……」


 俺はがしがしと頭をかいて、


「そんじゃ、それ用の転移魔法陣描くか。またインクと感応紙もらうぞ」


「いいのか? ……もちろん、じゃんじゃん使ってくれ。何から何まで済まないな」


「……」


 いや、どっちかって言うと俺たちがすみません。


 あのカエルがここに来たのはそもそも俺たちを捜すためで、ここはたまたまその流れ弾に当たったようなものであり、要するに責任の一端は俺たちにある。というかそれ以前に村の建物やら道やらを滅茶苦茶にしたのも半分は俺たちだし。


 店まで戻る途中、おっさんがこんなことを聞いてきた。


「そういや兄ちゃん、『従魔姫』の姉ちゃんはどうした? さっきから姿が見えねえが」


「さあ? どこ行ったんだろうな」


「何でぇ、兄ちゃんもわからねえのか。彼女もうちの村の恩人だし、礼の一つくらい言っておきてえんだが、心当たりはねえのか?」


「ねーって」


 俺は昔からあいつの考えなんて読めないし、あいつが勝手にいなくなることなんて日常茶飯事だ。

 俺は肩をすくめて、


「案外その辺うろついてんじゃねーの?」



×××



「見ーつけた☆」


『……』


 ヒガン・カレギシはがさり、と落ち葉を踏んで前方の人影と対峙する。


 場所はシグレが復旧作業を進めている村のすぐそばにある雑木林の中。付け加えて言うなら、さっきシグレとヒガンがベルゲルと戦っていた場所からほど近い位置。


「初めましてだよね。ぼくはヒガン・カレギシ。魔獣を操るモンスター使いさ」


『……』


「できればきみにも自己紹介してもらえると嬉しいんだけどなあ」


 ヒガンは、無言を貫くフードの人物にあくまでにこやかに話しかける。

 フードの人物は、口元以外をすっぽりとフード付きの外套で覆っているが、体つきの線は人間の女性のものだった。

 フードの女性はちらとヒガンの方を見ると、そのまま重心をわずかに後ろにずらし、


「ーー動かないでね?」


 ヒガンの言葉に機先を制されてぴくりと肩を揺らす。

 ヒガンの手には、いつの間に呼び出したのか、額に赤い宝石を持つ小動物型モンスター『カーバンクル』が載っている。


『……そのカーバンクルは』


 それを認識したフードの女は初めて口を開いた。


『あと一度しか、転移を使えないのでしょう? その程度では脅しになりませんが』


「わお。ずっとぼくとシグレのことを見てたのは気付いてたけど……会話まで聞こえるなんて、きみは耳もいいんだねえ」


 ヒガンは驚いた様子もなく続ける。


 対照的に、フードの女は身を硬くした。ーーこの少女は、自分が見ていたことに、気付いていたのか。


「まあ、確かにカーバンクルの魔力は残り少ないよ。けどちょっと考え方が硬いなあ」


『……?』


「相手に危害を加えるのに、大した魔力はいらないよ」


 足元に落ちていた木の枝を拾い上げたヒガンは、長さ十五センチほどのそれをくるくると回して。


「今からこれを、君の体の中に【転移】させる」


『ーーッ』


「ほら、これなら魔力が残り少なくても関係ないでしょ?」


 今度こそ、フードの女が硬直する。

 異物を、体の中に直接転移させる。それは単純で、かつ極めて効率的な生物の殺害手段と言える。回避する手段もなく、ローコストで、尚且つ確実。


『……試してみますか?』


 フードの女はヒガンに向き直る。


『そう簡単に行くかどうかーー』


「あー、待った待った。そんな怖い声出さないでよ。ぼくはきみと話がしたいだけなんだ」


『……話?』


 ヒガンはあっさりと頷いた。


「うん。きみ、ぶっちゃけベルゲルの味方……じゃないか。監視員ってとこでしょ?」


『……どうして、そう思うのですか?』


「色々あるけど、一番大きな理由はベルゲルが馬鹿過ぎたから」


 ただ淡々とヒガンは言葉を紡いでいく。


「あれは確かに厄介な能力を持ってはいたけど、性格は短気で好戦的だし外見も目立ちやすい。ハッキリ言って、調査とか情報収集とかにはまったく向いてないよ。大方あれをぼくたちにけしかけて、ぼくたちが戦っているところを本命の調査員であるきみが観察するとか、今回の一件ってそういうことじゃないの?」


『…………』


「で、さっきはベルゲルがご主人様について喋ろうとしたからきみが殺した。だよね?」



 ヒガンの言葉は正解を求めてはいなかった。まるですべて真実であるかのような口ぶりでーーそしてそれは、寸分たがわず正鵠を射ていた。

 フードの女はベルゲルのサポートという名目で派遣されてはいるが、実際はベルゲルを当て馬にしてこの世界の戦力を測るための調査員。

 また、昨夜『治療』と称してベルゲルの身体に、爆薬を混ぜ込んだ傷薬を塗り込んだ張本人でもある。


『……仮に』


 フードの女は瞳を紅く光らせた。


『それが真実だとして、あなたはどうしますか? 私を殺しますか? なら私は抵抗せざるを得ませんが』


 ずん、と音がして女の腕が地面に落ちた。


 いや、『落ちた』という表現は適切ではない。

 二メートルほどにいきなり巨大化した腕が女の身長を超えて地面にこすりつけられたのだ。それは明らかに人間のできる行為ではなかった。


 ずる、と巨大化した腕を引きずってフードの女が一歩距離を詰める。


 それを見て、ヒガンは。


「あはは、落ち着いてよ。ぼくはきみと敵対するつもりはないよ」


『……?』


 ハッキリと告げる。


「ぼくはねーーきみと手を組みたいんだ。だからこうして会いに来た」


『そんな戯言は……』


「信じられるわけないって? やだなあ、きみと敵対するつもりなら物陰から適当に石ころでもきみの体内に『転移』させてるって。そうしないのは、きみと仲良くしたいからじゃないか」


『……だとしても、理由がない。あなたが我々に協力する理由が』


「ところがあるんだなあ、これが」


 ヒガンは笑った。くすくすと、心底楽しそうに。


 ずっとヒガンは自分を理解できずにいた。自分が何を望んでいるのかわからずにいた。


 ベルゲルとの戦いの前夜、ミアに言われた言葉が脳裏をかすめる。


 ーーぼくは、何をしたいのか。


 それが、さっきの戦いを通してようやく理解できた。自分を殺しかけたヒガンに対して、どれだけ追い詰められても最後まで味方であろうとしたシグレを見て、ヒガンはーーぼくは。


「確かめてみたいんだよ」


 ほの暗い笑みを張り付けて、ヒガンは告げる。


「どうすれば、どれだけのことをすればーー」


 妖精のように。毒を含んだ花のように。



「どれだけの罪を数えたら、シグレがぼくのことを嫌うのかってさ」



 どこか歪んだ笑み。


 フードの女は聴覚に秀でている。意識を集中すれば、相手の心音から言葉の真偽を見抜くことも可能だ。

 ヒガンの言葉にはここまで一つの嘘もない。

 だが、信用するまでには至らない。


『……仮に、あなたの言葉を信じたとして。それで我々に何のメリットが?』


「そりゃあいっぱいあるよ。例えばガリオを殺した連中の情報、この世界の各地への転移。あとはーー」


 ヒガンはちら、と茂みの向こうを見た。


「ーーずっと木の陰からぼくたちの様子を窺ってる、国王傘下の諜報員のこととかね」


 フードの女も言われて気づく。ヒガンの確信ありげな視線に気圧されてか、その視線の先で落ち葉を踏む音が鳴った。

 国王傘下の諜報員。各地の情報を集めるため、国王の独断で派遣される密偵。


 フードの女は頭に手を当てゆるゆると首を振った。


『……なるほど、諜報員ですか。どうりで村にけしかけたベルゲルがあっさり見つかったわけですね』


「そういうこと。いやあ、王城に行ってるはずの仲間から情報が来たときには何事かと思ったけどね。あの国王ならそれくらいの情報網は張っててもおかしくない」


 ヒガンとフードの女は同じ方角を向いている。


 その視線の先から、同様の気配が色濃く伝わってきた。


「どう? これで信用してもらえるかな?」


『悪くない手土産です。話くらいは聞いて差し上げましょう。ーーあの密偵を始末した後で』


 直後、誰の目も届かない雑木林の中で短い悲鳴が上がった。


 この場のやり取りは誰も知らない。


 この接触が導く未来も。



 久しぶりに一日の文字量が一万字超えました。まさかの一万五千字。普段の自分の三倍。

 何ですか。今日の僕はどうなっているんですか。何かよくないことが起こる前触れですか。

 

 次回更新は未定ですが、多分近日中にできると思いま(文字はここで途切れている)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。