蛙の声を止めるのは
翌日。
「はい、それじゃあ第一回カエル抹殺☆計画の作戦会議を開始します」
朝食を終えた面々を前に、俺は宣言した。
「カエル?」
「げこげーこ」
ミアとカレンは不思議そうな顔をしている。
この二人は晩飯の騒動でダウンしていたようだが、朝になれば何事もなかったように普通に起きてきた。しかも酒を開けてからの記憶がないらしい。
「そういえば二人には言ってなかったわね。ヒガンを襲撃したモンスターのことよ。後でそのモンスターを退治しに行くの」
これは昨日酒に惨敗を喫した百剣の王(笑)さんの台詞。すでに昨日酔っぱらっていたときの醜態は影も形もなく、すっかりいつも通りの凛とした雰囲気に戻っている。
問題はもう一人だ。
「……ふぁ」
他の全員がすでに食後だというのに、いまだに半分も手が進んでいない指名手配犯である。
「おい、さっさと食えよヒガン。お前だって無関係じゃねーんだぞ」
「わかってるけどさあ……ちょっと寝不足なんだよう」
「あんなこと言われたら悩むじゃんかあ……」とよくわからないことを言いながら小さくあくびをしている。まあ、もともとこいつは朝が弱いタイプだったから仕方ないのかもしれない。
「『ひーちゃん』さんを襲った相手ですか……」
「魔王より強いのかー?」
ベルゲルについて前情報のなかったミアとカレンがヒガンのほうを向いた。
「あー……どうだろ。たぶん魔王とあのカエルがぶつかったら魔王が勝つだろうけど……ぼくを病気にした変な攻撃があるからなあ……」
例の『毒の霧』のことだろう。これの対策は必須だな。
と、ひとまずベルゲルの認識が全員にいきわたったところで。
「それじゃあ作戦を発表する」
と、俺が切り出した。
「腕が鳴るぜー!」
「カレンちゃん、私たちはお留守番してましょうね」
「で、具体的な作戦?」
俺は腕を組んで鷹揚に頷いた。
「まず分担だが、今回リッカはいらん」
「あ?」
「やーいいらない子ー☆」
「あ?」
俺とヒガンに対して、リッカが獲物に反撃を受けたライオンのような殺気を放った。
「言ってくれるじゃないシグレ。どうやら私の強さについてしっかり教えてあげる必要があるようね」
「知ってるからいい。知ってるから! 剣を出すな!」
最近どんどんリッカの沸点が低くなっている気がする。
「ま、まあ聞けリッカ。お前も今回の敵のことは知ってるだろ?」
「相手を熱病にする霧のことかしら?」
「そうだ。で、接近戦一本のお前はその霧のカウンターを食らいやすい」
「……」
「しかも一撃でも食らえばそれで終わりだ。お前がいくら剣の扱いがうまいからって、正面切ってやり合うのは分が悪いだろ」
「ねーシグレ、あたしはー? あたしなら勝てるー?」
「カレンちゃん、フルーツ牛乳作ってあげますから大人しくしてましょうね」
「わーい」
俺が言うと、リッカはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「……今更何を言い出すかと思ったら。今までだって相性の悪い敵はいくらでもいたわ。負けたことはないけどね」
まあそうだ。魔術が一般的に使用されるこの世界では、リッカ一人で魔法使いを相手取る機会も多い。遠距離戦闘メインの敵との戦いのノウハウは、この世界の剣士にとって必須事項。
まして目の前にいるのはそれらの剣士の頂点に君臨する化け物である。
これだけの説明だと、リッカを作戦から外す理由には不十分だ。
「それとも何かしら。シグレ、あんたは今回私をそのベルゲルとかいうのに引き合わせたくない理由でもあるわけ?」
じっと試すようにリッカが俺を見る。
「……まさかぁ」
こいつの動物的直観は侮れない。ここからは慎重に話したほうがいいだろうな。
「リッカには、それとは別で頼みたいことがあるんだよ」
「頼みたいこと?」
「ああ。ーー今日一日、ミアとカレンと一緒にいて欲しい」
「引き受けたわ」
俺の緊張感を返してほしい。
「へ? 私たちですか?」
「何か関係あんのかー?」
ミアが魔法陣によって瞬時に生み出したフルーツ牛乳を飲んでいた弟子組がそろって首を傾げる。
「言ったろ。あのカエルは魔王の死について探るために来てる可能性が高い。となると、魔王が死んだときにその場にいた人間は、誰が狙われてもおかしくない」
魔王が本当の意味で死んだのはつい先日のこと。
そのときこの場にいたのは、俺、ミア、リッカ、カレン、ヒガン、アリシアの六人。
「魔王と戦ってないこの子たちが狙われることってあるのかしら?」
「正確に魔王の匂いなり気配なりを探れるんなら、最初に襲われるのはヒガンじゃなくてリッカだったはずだろ。魔王が死んだときに一番近くにいたのはお前なんだから」
「……それもそうね」
リッカが納得したような顔で引き下がる。
魔王にとどめをさしたのがこの女だ。ベルゲルがどんな手段で魔王と関わりのある人間を探しているのかは知らんが、最初にリッカを狙わなかったあたり、あまり正確なサーチはできないんじゃないか、というのが俺の読み。
逆に言えば、実際に戦っていないにしてもミアやカレンが狙われる可能性があるということにもなる。
「だからこいつらと、あとアリシアか。その三人には護衛がいる。リッカにはミアとカレンを城まで連れて行って、そこでアリシアも一緒に守ってやってほしい」
「なるほどね。確かに城にいれば、万が一そのベルゲルがこっちに来ても守り切れるでしょう。鍛えた兵士もいることだし」
「そういうことだ。ってわけで任せるぞ、リッカ」
「そういうことなら了解したわ。けど、まだ大事なことを聞いていない気がするんだけど?」
「大事なこと?」
決まってるじゃない、と リッカは言ってちらりとヒガンの方を見る。
「そいつの処遇。どうするの?」
「盾」
「盾!? お師様それはあんまりじゃないでしょうか!」
「……どういう意味かしら?」
ミアとリッカが訝しむような反応が返してくる。
「ああいや、言葉の綾だ。実際のところ、こいつ以外にベルゲルの正確な居場所を知ってるやつがいないんだよ。だからこいつに近くまで案内させようと思ってな」
これは本当のことだ。
現状この場の戦力は主に俺とリッカの二人。リッカをミアたちの護衛のため置いていくとなると、自然、ベルゲルと戦うのは俺の方だ。
だが、俺一人ではそもそもベルゲルのもとまでたどり着くことすらできない。
「ってかこいつ、昨日からベルゲルの居場所だけは言おうとしねーんだよ。仕方ねーからもう連れてく」
「ヒガン、あんた……」
「やだなあ二人とも、怖い目で見ないでよ。か弱いぼくが保険で交渉カード一枚残したくらいでさ。それよりシグレ、盾って何? ぼく聞いてないんだけど」
ヒガンが怪訝そうな目で俺を見てくる。
「どうせお前の使役獣、何体か残してんだろ。俺一人だと前衛がザルになるからそいつらを貸してほしいんだ」
「……ふーん」
ヒガンはもともと用心深い性格なので、どんな時でも最低限の戦力は残そうとするクセがある。それはリッカも知っていることだ。
ヒガンは数秒のあいだ訝しげな表情のまま俺を見ていたが、すぐにため息を吐いて肩をすくめた。
「……はあ。わかったよ、協力する」
「決まりだな」
俺は息をついて、一度ぐるりと周囲を見回す。
「そんじゃ確認だ。まずリッカは、この後ミアとカレンを連れて城に戻る」
「ベルゲルが万が一こちらに攻めてきたとき、この子たちとアリシア様を守ればいいのね?」
「ああ。で、俺とヒガンはその間にベルゲルを殺る。いいな?」
「りょうかーい」
ヒガンが雑な感じの返事を寄越してくる。
というわけで。
「ーーそんじゃ、行くか。カエル退治だ」
前から気になっていた作品が書籍化決定したとのことで勝手にテンション上がってます。名前出してもいいんですかね? 無許可に宣伝っぽいことするのもアレかなと自重しているのですががが。
ああ、でも人の書籍化とか受賞とかって話はどうしてこうも浮足立つのでしょうか! 本出たら買いますよ!
次回更新は未定!




