天癒上人?②
「…………………メルヴィ」
「お、おう。そうか」
一体どうしてこうなった。
俺は今、村にある家の一つで、さっきの少女と向かい合って座っている。
椅子はない。なぜか机はある。日本ではよく見たちゃぶ台風のテーブルだ。
家具と言えるのはせいぜいその日本風ローテーブルくらいで、あとは部屋の隅に畳んで置いてある毛布、水かめで打ち止め。生活感の欠如した部屋だと言わざるを得ない。
何でもここはちょっと前まで空き家だったようで、今は目の前の少女に貸し出されている状態らしい。
『治療師を探している』という俺の目的を村人に伝えた結果、村人に連れてこられたのがこの藍色の髪に琥珀色の目、という謎の組み合わせをした少女だった。
俺としてはセンのやつが連れてこられるもんだと思ってたから予想外もいいところである。色々言いたいことはあったのだが、俺を山の神の化身と勘違いしている村人たちにあれよあれよと言う間に少女を押し付けられ、いい加減疲れたので落ち着いて話ができる場所はないかと少女に聞いたらここまで案内された。
で、ずっと警戒心むき出しにしているこの少女に差しあたって名前を聞いてみたところ、十秒ほどの待機時間を経て返ってきたのがさっきの第一声というわけだ。
「メルヴィ、って呼べばいいのか?」
「……(こくり)」
頷いた。口数少ねー……。心を開いてくれる気がしない。
このメルヴィとかいう少女だが、色々と異質だ。
ここに来る前、村人に聞いたところ、こいつはこの村に生まれた子供ではないそうだ。
何でもふらりと訪れた旅人だとか。
メルヴィがやって来た当時、この村では高熱の出る病気が流行っていて、実は結構ヤバい状態だったらしいんだがーーそこにいきなりやってきたこの少女が患者全員を治療魔法であっという間に治してしまったそうだ。村人はそれに恩義を感じて住処や食料などを提供、メルヴィは居心地が気に入ったのかここに住み着き、村人と交流を続けていると。
今では村人の怪我や病気を治してくれる医療魔法使いとして、けっこう重宝がられているようだ。
ここまででおかしい点がすでに二つある。
一つ目、この見た目が十歳かそこらにしか見えないーーミアより年下にすら見えるーー少女が、どうやって一人で旅なんぞしていたのか。
二つ目。この年で、どうして流行り病を根絶するほどの破格の治療魔法を使えるのか、ということ。
特に二つ目に関してはかなり異常だ。
聞けばこのメルヴィとかいう藍髪ロリは、たった一日で五十人の村人を治療したらしい。そんな荒業は俺が昨日ヒガンのために誘拐してきた治療師たちの誰にも不可能だろう。ましてこの十歳かそこらにしか見えないくらいの幼女が、となるとなおさらおかしい。
まあ、その辺も含めて色々と聞きたいところだ。
「なあ」
「(ビクッ) ……なっ。なに?」
「いや、その……」
……色々と聞きたいところだ。
聞きたいところだが、警戒され過ぎてそれどころじゃない。どうしろってんだ。というか俺はどうしてここまで怯えられているんだ。
そもそも初対面のロリといきなり二人きりにされているという状況がおかしいと思う。
こんなに人見知りをするやつなら、せめてこいつと仲のいい村人の一人か二人、間を取り持つ要員がいてもいいような気がするのだ。ところがこの家(というか小屋)に来る前、村人は『ぜひあなた方二人だけで』と言ってきかなかった。理由は今のところ分からないが、確かなのはこのロリがまったく俺に心を開いていないということだ。
「……」
メルヴィは居心地悪そうに周囲に視線をさまよわせたり、かと思えば、ちらちらと俺を見たりしている。ちなみに俺が目を向けるとさっと視線をそらしてしまう。とても居心地が悪そうだ。なんか、ここまで怯えられると俺の方も申し訳なくなってくるな。
さてどうするか。
よくよく考えてみれば、俺の周りの女って基本的に向こうから話しかけてくることが多いんだよな。ミアとかカレンとか。そのせいで、俺はうまい話しかけ方を忘れているのかもしれない。
俺が悩み、つーかそもそもここにセンがいるってのは誤情報だったのか? と思考が脇に逸れ始めたところで。
――ガタガタッ
「……っ!?」
物音。メルヴィの肩がびくんと跳ねた。
音のしたほうを見ると、黒い塊が床を這い回っている。いや、変な表現したけどこれあれだ。ネズミだ。
「……あ。あ、ね、ねず」
こんな木造の小屋じゃあネズミなんぞ珍しくもないと思うが、メルヴィは見ていて哀れを誘うほどにびびっていた。すでに涙目だ。
これじゃあ話どころじゃない。俺は懐から魔法陣を取り出した。
「【不可視の右手】」
発動。見えない巨大な右手は、床をちょろちょろしていたネズミをひょいっと捕まえた。
そのまま侵入経路と思しき窓から外に放り捨てる。強く生きろよ。
「……え?」
メルヴィは目を白黒させていた。まあ、これは視覚的には何も見えないから、どんな魔法が発動したのか知らないとわけわかんねーよな。
オリジナル魔法陣、【不可視の右手】。
そのまんま見えない右手を空中に作り出す魔法だ。拳を作ってぶん殴ることも、何かをつまんで持ち上げることも可能というけっこう便利な術式である。
もともとは『触りたくない相手』を運ぶために創り出した魔法陣だ。いや、ほら。魔王討伐の旅とかしてると、結構グロいモンスターの死体とかも見る機会があるんだが、モンスターの素材は高値で売れるから店まで運ぶ必要があったりするわけだ。そういうものを運搬するために編み出したこの術式だが、今ではあのカサカサ動く黒くて平べったい虫なんかが出現したときに手を汚さずに叩き潰せるから愛用している。
欠点としては魔力消費がデカすぎて俺以外にはミアくらいしか使えないことだろうか。人間の手の動きを再現するためには膨大な量のプログラムを経由しなくちゃいけないんだよな。
魔法陣の読み方は『マスターハンド』。いちおう対となる【不可視の左手】も用意してあるんだが、そっちの読み方は想像に任せることにしよう。ちなみに握力は最大で二トン。ゴリラも真っ青である。
閑話休題。
「ほれ、もう大丈夫だぞ」
「……」
【不可視の右手】を解除しつつそう言うと、メルヴィがぎぎぎと油の切れかけたブリキ人形みたいな動きで俺の方を向いた。
あ、やべ。怖がらせたか?
「……今の」
「ん?」
「……魔力。すごく、綺麗な感じがする。あの人に、似てる」
メルヴィが何か喋り出した。俺は目を瞬かせる。どうやら怖がってる感じではなさそうだが。
「……名前。おしえて?」
メルヴィがじっと俺を見ていた。そこにはもう、怯えた色はほとんどないような気がした。
「シグレだ。シグレ・ジウ」
「……シグレ。シグレ・ジウ。……法陣士?」
「俺のことを知ってるのか?」
メルヴィは困ったような顔で言った。
「……見たことはない。けど、知ってる。聞いてた」
「誰から?」
「……わたしの。師匠」
メルヴィはこくりと頷いた。ネズミ、グッジョブだ。目の前の幼女はお前を撃退したことがよほど効いたのか、なんか会話をしてくれるようになったぞ。
「って、師匠?」
一体誰のことだろう。
藍髪の幼女は、小さく、しかしはっきりと言った。
「……セン。セン・オウギ師匠。あのひとから、シグレの名前を聞いたことがある」
遊戯王のスマホアプリがあるのですが、ステージを30超えたあたりから敵が強すぎてびっくりです。海馬社長が強い。ずるいくらい強い。フゥン。
ストックが切れそうなので次回更新は未定!
……すみません。十二月入ったらまた安定更新できると思うのですが……。




