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治療師を求めて



 さて、見事にヒガンに丸め込まれたような気もするが、それでもヒガンを襲ったモンスターというのは気になる。


 理由は色々あるが、まずそんなモンスターの情報が出回っていないことがデカい。


 魔王討伐パーティーを倒せるようなレベルの化け物なら、まず間違いなく国が討伐隊を組むだろう。そんでかなりスケールの大きい討伐戦が起こるはずだ。


 だが、そんな話は聞いたことがない。


 俺がヒガンの話を真っ先に疑ったのはそのためで、ぶっちゃけ今でもヒガンの言ったことはだいぶ怪しいと思っているのだがーー困ったことに、『情報が一切ない状態でいきなり現れた超強いモンスター』には前例があるのだ。



 言うまでもない。魔王のことだ。



 ヒガンの言っていることが万が一正しければ、あいつを襲ったのは魔王に近い存在であることになる。無視するには少しばかり大きすぎるネタだ。


「……ふーむ」


 研究室に設置された自分のベッドに腰かけつつ、俺はそんなことを考えている。


 つーか治療ってどうすんだよ。あのバカ指名手配されてんじゃねーか。


 言うまでもなく俺は素人なので治療なんぞ不可能だ。よって医者に診せる必要があるのだが、それをすればヒガンはおそらく即通報。治療どころじゃ……


「……ん? 待てよ?」


 俺はふと思いついた。


 逆転の発想ってやつだな。よし、とりあえずやってみっか。



×××



「な、何なんだあんたは!? 私をどうするつもりだ!?」


 目の前にいるのは、小太りのいかにも善良そうなおっさん。


 俺は極めてあくどい笑みを浮かべて、


「どうするつもりかって? ははは、心配すんなよ。悪いようにはしねーから。お前はただ、俺の言う通りに動けばいい」


「ひいっーー」


「……あの、お師様、これは一体……」


 状況を説明しよう。


 場所は俺の家だ。そして目の前にいるおっさんは街で有名な治療術師。

 なぜこんなところにそんな人物がいるのか。

 それはもちろん俺が拉致してきたからである。


「ま、あんまり難しいことは考えなくてもいい。あんたはそこで寝てる女を治癒魔法で治してくれればいい。言う通りにすれば普通に元の場所に戻してやるから」


「ほ、本当か?」


 街中でいきなり転移魔法陣を使われ、おそらく何が何だかわからないまま拉致されたであろう哀れなおっさんが子羊のように怯えながら返事をしてくる。


 言うまでもないが、俺がわざわざこのおっさんを誘拐してきたのはヒガンの治療をさせるためだ。

 医者のところに行けないなら、医者を家に連れてこればいいという発想である。


「そんじゃよろしく頼むぞ」


「それは構わないが、それなら普通に治療院に来ればいいんじゃーーひいぃっ! こ、こいつは『従魔姫』じゃないか! 指名手配中の!」


 ソファに寄るなり腰を抜かしてビビる治療術師のおっさん。だいたい予想通りのリアクションだ。俺はすかさず背後からおっさんの首元に感応紙を突き付ける。


「ヒッ!?」


「騒ぐな。いいから大人しく治療しろ。悪いようにはしない」


 まあ騒いだところで俺の家があるあたりには誰も住んでいないので何も困ることはないんだが、せっかくなので気分を出していこう。やるなら何事も徹底的にって何かで読んだし。


「お師様、どうしてそんなにノリノリなんですか……?」


 こういうのに反対しがちなミアも、今はヒガンの治療という名目があるため大人しい。


「さあ、早く治療だ! 命が惜しいんならな!」


「はっ、はいいいいいっ!」


 おっさんの裏返った悲鳴が、静かな森に響き渡った。

 


×××



「す、すみません。私の力ではどうしても……」


「そうか。助かった。とりあえずこれ謝礼金な」


「ですが私には妻がいるのです! ど、どうか命だけはーーえ? 謝礼?」


 手間賃代わりの金を握らせ、目を白黒させているおっさん。


 俺はそのおっさんに対して、手に持った魔法陣を発動する。


「それからここであったことは忘れてもらうぞ。【記憶消去】」




 ――と、そんな感じで治療師を拉致、脅迫、記憶を消してリリース、という流れをおよそ四セット繰り返したわけだが。


「……さすがに予想外だな。まさか専門家に診せてもどうにもならんとか」


「そうですね……」


 俺とミアは、やかましいおっさんのいなくなった居間で唸っていた。


 というのも、連れてきた医者や治療師たちは誰一人としてヒガンの体調を回復させることができなかったからである。

 いや、回復させることができないというだけならまだいい。

 だが、まさかヒガンの病状に誰一人として見覚えがない、と言うのはさすがに参った。これでも有名な連中を選んでさらってきたつもりだったんだがな。


「……『ひーちゃん』さん、大丈夫でしょうか……?」


 ミアの声も不安げだ。


 ちなみにヒガン本人はというと、俺との交渉以降ずっと意識を失ったまま眠り続けている。

 呼吸も浅く、発汗や発熱が酷い。正直、ついさっきまで俺と会話していたなんて思えないほどだ。


 ……さて、どうするか。

 俺とヒガンの取引は、『俺がヒガンの体を治療する代わりに、ヒガンから謎のモンスターの情報をもらう』というもの。まずは俺がこいつを回復させる算段を立てない限りどうしようもない。


 そのためにわざわざ治療師を連れてきたのに、ここまで全員空振り。比較的評判のいい連中でさえどうにもならないとなると、これはもう普通の医者じゃあ手に負えないような病気なのかもしれないな。


 手詰まりだ。


 最後の手段として、ヒガンの身柄を国王に引き渡すことも考えた。


 そうすれば、いかに指名手配犯といえどヒガンは高水準の治療を受けられるだろう。何しろ戦力として申し分ない英雄の一人、ただ死なせるのは惜しいはず。あの打算深い国王のことだから代償に色々条件をつけられることになるだろうがーーそんなもんヒガンの自業自得であって俺の知ったこっちゃない。


 が、この手段は取りたくない。


 取引上、ヒガンを牢獄にぶち込むのはあくまで治療の後だ。もし俺が約束を破って先にヒガンを国王に突き出したりしたら、あいつは絶対に自分を襲ったモンスターについて口を割らないだろう。それくらいのひねくれ方はしているやつだ。


 となると、別の手段が必要になる。フリダシだ。


 ……いや、この際はっきり言ってちまうか。



 ぶっちゃけ俺は最初に思いついておきながら、一つだけ実行に移していない案がある。



 ただなあ……これはなあ……


「はー……」


「お師様?」


 まったく気が進まないが、これ以上頭を捻っても他に建設的な発想は出てこなさそうだしなあ……


「……しゃーねーな」


 俺は通信用の魔法陣を取り出した。



×××



「では、事情を聞かせてもらおうか」


 俺の目の前にいる人物が淡々とそう言った。


 緑色の髪を首のあたりでくくって前に流した髪型。

 感情の読み取れないぼんやりとした表情。

 十四歳にしてはやたらと発達した胸部ーーそんな特徴を持つ少女は一人しかいない。


 アリシア・メア・ファラディオール。ファランドルの第二王女にして、先日ヒガンと組み俺とリッカに薬漬け魔王をけしかけてきた張本人。


 場所は王城にある応接室の一つ。


 時間は昼に近い午前中。


 そんな状況で、俺がアリシアと向かい合っている理由を説明するためには、およそ十二時間前までさかのぼる必要があるのだがーー



×××



『――』


「くそ、出ねーな」


 医者をキャッチ&リリースすること四回、このやり方に限界を感じた俺は別の手段を取ることにした。


 だが、そのために連絡をつけようとした人物ーー元・パーティーメンバーのリッカが通信に応じない。


 今回に限っては、あいつの協力を得るのが一番手っ取り早いんだが……


『――』


 連絡を始めて三分待っても応答なし。どうしたもんかな。


「あの、お師様……?」


 ミアが訝しげに俺のほうを見てくるがとりあえず放置だ。


 時間は夕方。 この時間帯なら、あいつも普段の仕事だけなら終わっているはずなんだが。


 俺は疑問に思って通信用の魔法陣の紙面を改めて見てみる。



 To:キングコング → 『圏外』



「……」


 どうやらリッカは通信用魔法陣の範囲外にいるらしい。


 この魔法陣、俺が改造して作った範囲拡張型だから大概のエリアは連絡が通じるはずなんだが……これ、下手したらリッカは国内にいないかもしれないな。


 まあ、やつの仕事上外交の場に出るのも珍しくはない。ないがーー間が悪いなあいつ! よりによって今かよ!


「ったく、あの社畜剣士……」


 いい加減有給の一つでも取ればいいのにな。この世界の勤務形態知らねーけど。


 ともあれ、連絡がつかないならどうしようもない。

 プラン2に移行しよう。

 俺は通信用魔法陣を再起動。


『……誰だ?』


 おお、今回は通じた。むしろこっちの方が意外だ。


「ああ、俺俺。俺だよ」


 俺が鼻をつまんで言うと、魔法陣の向こうで唸るような声が聞こえる。


『む……これは巷で噂の『オレオレ詐欺』というものか。実際にかけられたのは初めてだ。貴重な体験を感謝せねばならないな。よし、せっかくなのでいくつか質問をさせてもらおう。まず、『どうして誰もが知っているこの手法でいまだに市民を騙せると思っているのか』ということからーー』


「……いや、それ聞いたら詐欺師も凹むと思うぞ」


 あまりに斜め上のリアクションに俺が素に戻って言うと、通信相手は『む?』とわずかに驚いたような声を出した。


「その声は、まさかシグレか?」


「ああ。で、急で悪いんだがーー今ちょっと時間ないか? アリシア」



×××



 アリシアは王族の一人だが、魔法薬学を専門とする俺の研究者仲間でもある。


 先日の一件以降もたまに連絡を取り合っているのだが、さすがに急に『今会えるか?』と聞いても無理だった。アリシアの口から『議会に参加しなくてはならないんだ』なんて聞いたときにはさすがに驚いたが。


 というわけで、翌日。知人というコネを生かしてアリシアの面会予約を取り付けた俺は、昼間から王城にやってきたというわけだ。


「昨日はすまなかった。私も色々と立て込んでいてな」


 アリシアがそんなことを言ってくる。わかりづらいが、これはおそらく少し申し訳なさそうにしている顔だと思う。


「いや、急に言った俺が悪い。……まあ、ぶっちゃけアリシアが議会に参加してるってのは意外だったけどな」


 アリシアは、政治には無関心で魔法薬学の研究ばかりしていることから『薬物王女』なんて呼ばれていたはずだ。つい先日まで政務は嫌いって言ってたような気もするしな。


 俺の言葉に、アリシアは苦笑したような雰囲気で言う。


「……少し、心境の変化があってな。それよりシグレ。早速だが、私に頼みたいことというのが何なのか教えてくれないか? シグレが私に頼み事とは、どんなことなのか興味があるんだ」


 と、研究者気質の人間っぽく好奇心をのぞかせながらアリシアが尋ねてくる。


 もちろん。俺はそのために来たんだからな。


 俺は口を開き、


「――『セン』の居場所を知っていたら教えてくれ」


 俺は初めてアリシアが意表を突かれた顔を見たかもしれない。



 昨日更新するはずだったぶんです。

 どうして昨日は更新がなかったのか。それはひとえに私の不徳の致すところであります。

 関係ありませんが、昨日はポケモン最新作の発売日でしたね。いえ、昨日更新がなかったこととはまったくこれっぽっちも関係ありませんが。


 ……次回更新は未定です。


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