幽世の少女
×××
小鳥のさえずりで目が覚めた。
寝ぼけた頭で周囲を確認し、ふと自問する。
俺は誰だ? ーーシグレ・ジウ。魔王討伐パーティーの一人で、元英雄にして現引きこもり。
ここはどこだ? ーー自室のベッドの上。今まで寝てたんだから当然だ。
それを踏まえて現状を確認しようか。
「……んぅ」
俺のベッドにもぐりこんでいるこの銀髪幼女についてだ。
いや、わかる。こいつは俺の弟子だ。名前はミア。年は本人曰く十二歳で、光を猛烈に反射する長い銀髪が特徴の犬系ロリ。
オーケー。そこまではいい。だがどうしてこいつが俺の隣で寝ているのか。
つい先日、俺がうっかりしていたせいで俺と元仲間のリッカの体が入れ替わってしまい、ミアにその解除術式を組んでもらった際の会話。
『あ、そうだ。ミアに術式くんでもらえばいいじゃん』
『うええ!? 私ですか!? ま、待ってください待ってください! お師様、私そんなの自信がーー』
『できたら今日の夜は添い寝だ』
『やりますっっ!』
……まああの日は思い出したくもないが元の体に戻った後も色々あって、この口約束も正直俺は忘れていたんだが、ミアは律儀に覚えていたらしい。しばらくしてこの件もほとぼりが冷めた頃、つまり昨日の夜、よし寝るぞとベッドに転がった俺のもとへやってきて俺の弟子はこう言ったのだ。ーー『いつになったら一緒に寝てくれるんですか!』と。
まあ約束は約束だし、なんかもう眠くて追い返すのも面倒だったので俺は特に抵抗せず、気が付いたら一緒に寝ていた。
決してやましい気持ちはないと明言しておこう。
「わふー……」
しかし気持ちよさそうに寝るなこいつ。
試しにほっぺを両手でつまんで引っ張ってみる。
超伸びた。まだ起きない。
こいつが俺より寝坊するとは珍しい。せっかくだし、起きるまで遊んでみよう。
「……ん」
猫にするみたいに顎の下あたりを指の背でこすってやると、喉をごろごろ鳴らしてすり寄ってきた。
抱きしめられた右腕から、生々しい体温が伝わってくる。とくん、とくんと脈打つ胸の音まで聞こえた。それはまったく警戒していない、安心しきった心音で。
ずっと思っていたことだ。
「何でお前はーー」
俺に対して、こうも懐くのだろう。
返事はない。寝てるんだから当然だ。ミアむーむーと唸りながら親鳥に甘えたがる雛のように体をくっつけてきた。
俺はため息を吐き、それに応じるようにさらさらのミアの髪を撫でてーー
「……」
……やばい。何か急に恥ずかしくなってきた。
待て待て。何してんの俺。冷静になれって。お前これ、ロリコンって言われても反論できねーぞ。
「むー」
「……っ!」
ミアが寝息じみた声を出す。俺は思わずびくりと震えた。とりあえずミアから離れようとしがみつかれた腕をどうにかしようとするが、どうにもならない。こうもしがみつかれるとミアを起こしでもしない限り俺が解放されることはないだろう。
……落ち着け。俺は何を慌ててるんだ。別に変なことをしてるわけでもない。まずは落ち着いて、
「……おかあさま」
俺は、さあっと血の気が引いたような気分になった。虚を突かれたと言ってもいい。
ミアの寝言は正確に理解できた。お母様。家族。
俺はミアの過去を知らない。
どうしてあんな盗賊まがいの連中に捕まっていたのかも知らない。
だが、こいつがどうして俺に甘えたがるのか。人に触れたがるのか。その一端が垣間見えたような気がして。
「……はー」
俺はベッドからの離脱を諦め、また体を横たえた。右腕に抱き着いたミアがまた規則正しい寝息を立て始める。
どうせ時間は山ほどあるのだ。二度寝したくらいじゃ罰も当たらないだろう。
「えへー……」
耳元から、やたらと幸せそうな寝言が聞こえた気がした。
次回更新は未定です。
多分そんなに遅くならないと思います。




