法陣士→百剣の王
ファランドル武術大会!
国中の猛者を集めての武術大会が今年も開催されます! 魔法アリ、剣アリ、格闘アリ、反則ナシの戦闘の祭典! 数多の出場者を蹴散らして優勝を目指せ!
見事優勝に輝いた方には、賞金百万メリルに加えて飛行船での大陸横断ツアーが授与されます!
さらに今回は特別ゲストも……?
腕に覚えのある方、ふるってご参加ください!
×××
「……何コレ」
俺は目の前に突き出されたチラシを見て、率直な感想を漏らした。
「近々開催される武術大会のお知らせです。買い出しに行ったとき、町はこの話題一色だったんですが……お師様はご存知ないのですか?」
研究室に閉じこもっていた俺のところにやってくるなりチラシを突き出してこんなことを言っているのは、相変わらずロリ体型を卒業する兆しすら見せない銀髪幼女だ。
ついさっき町まで食料品の買い出しに行かせていたのだが、どうやらそこでこのチラシを貰ってきたらしい。
「あー……そういや何かそんなのがあったような気もするけど……」
基本的に俺はそういうイベントの情報には疎い。外出すること自体がまれな俺にとって、外部の情報を入手するのは難しいのだ。
ネット環境ないし。
俺はミアからチラシを受け取り、ざっと眺める。
「ふーん……」
……魔法アリ、剣アリ、格闘アリとか、それは果たして武術大会と言えるのか疑問だが、まあ異世界だからそのへんの認識の違いは置いといて。
「ま、面白そうではあるな。お前出るの?」
「あはは、お師様もそんな冗談言うんですね。私みたいな普通の子供が出ても勝てっこないですよ」
「……」
いや、七体の火熊を無傷で全滅させるような子供は普通とは言わないと思う。
「そんで、お前が出ないならどうしてこのチラシを持って来たんだ? 言っとくけど、俺は出ないし観戦もしないぞ」
何せ戦いなんぞ三年前に飽きるほどやったからな。つい最近も、おそろしい力をもったシャブ漬け魔王とドンパチやったばかりだ。しばらくは遠慮したい。
「いえ、そういうわけではなくて。ここにゲストって書いてあるじゃないですか」
「書いてあるな」
「これ、ゲストさんが大会に参加するということらしいのですが」
「ふむ」
「これ、リッカ様のことだそうです」
ん? リッカが大会に参加……
……ほほう?
「気が変わった。よし行くぞミア。冷やかしに」
「はい。応援に……あれ? お師様は今何て?」
ミアが不思議そうに目を瞬かせていた。
×××
そして、時は流れて武術大会当日。
俺とミアは、大会の行われる巨大な闘技場の中にある部屋の一つを前にしていた。
「……他の参加者は共用の控室なのに、何であいつだけ個室なんだ?」
「リッカ様は特別ゲストですから、きっと他の参加者さんにまだ顔を見せてはいけないんですよ」
俺のぼそりとした呟きに、ミアが横から答えてくる。
なるほど。
ミアの言うことが正しいことを示すように、目の前の部屋はネームプレートも何もかかっていない。まあ、リッカがここにいると分かればファンが押しかけて着たりもするだろうし、色々あるんだろう。
有名人も楽じゃねーな。
が、場所に関してはここで間違いない。何せ事前に本人に連絡して確認済みだ。
「ようリッカ。邪魔するぞー」
「あああお師様、ノックしないと!」
とりあえずいつまでも廊下にいても仕方がないので躊躇なく扉を押し開ける。
ミアは何か喚いていたが特に気にしない。
扉を開けた先の部屋は何だこの部屋広すぎだろと思うくらいの間取りで、調度品は洒落たテーブルに丸椅子があるくらいでわりと物は少なめ。とはいえ、見ただけでわかるくらいには高級品だし、床に敷かれた絨毯の踏み心地の良さが部屋全体のクオリティを物語っている。
……何というVIPルーム。
「あら、いらっしゃい」
部屋に入ってきた俺たちを見て、リッカが声をかけてきた。
どうやら今は備え付けのセットでお茶を淹れていたところらしく、手には白い陶器のポットを持っている。
「すみません、リッカ様。お師様が勝手にドアを開けてしまって……」
ミアが申し訳なさそうに言う。
「いいのよ、ミアちゃん。シグレにそんな気遣いができるはずがないもの」
「でもでも、それでもしリッカ様がお着換え中だったりしたら、」
「その時はあの男の記憶がなくなるまで頭を殴ればいいだけのことよ。何の問題もないわ」
「……」
世の中には不注意が原因で命を落とす人間が大勢いるという。俺がその中の一人にならなかった幸運を感謝するべきだろう。
「ま、とりあえず座ったら? 主催者側から差し入れでお茶とお菓子を貰ったんだけど、一人じゃとても食べきれないのよ」
「お、マジで?」
「ありがたくいただきます」
リッカに勧められて俺とミアがテーブルにつく。
リッカがポットから俺とミアのぶんのお茶を淹れてくれたので、なんとなく世間話をする雰囲気になってきた。
「あ、いちおう私からも差し入れを持って来たのです。レモンのはちみつ漬けなんですが、もらっていただけますか?」
「あら、ありがと。試合の合間に食べさせてもらうわね」
「はいっ」
「俺からはバナナだ。ゴリラの眷属であるお前の主食だったよな。半分くらい腐ってるけど、疲れた時にでも食ってくれ」
「あら、ありがとう。あとでゴミ箱に捨てておくわ」
そんなことを話しながらリッカか大会の主催者側にもらったという焼き菓子をぱくついていく。ふと思ったけど、リッカと会う時は最近いつも何かしら食っている気がするな。
「そういや、よくお前こんな大会に出る気になったなぁ。こういう見世物みたいなのに出場するのってお前あんまり好きじゃないって言ってなかったっけ?」
リッカの淹れたやたらと爽やかな風味のお茶をすすりながら言うと、リッカは肩をすくめた。
「私だって好きで出ているわけじゃないわ。これも仕事の一つよ」
「仕事、ですか?」
ミアが聞き返すと、リッカが頷く。
「この前の魔獣騒ぎとか、ヒガンがいきなり指名手配されたりとか、いろいろあって今市民の間では不安が高まっているらしいのよ。シャレアのあたりでは実際に魔獣の活発化って言う被害が出ていたわけだしね」
「ああ……だからイベントを盛り上げて、市民の気分をまぎらわせようってハラか」
「簡単に言えばそういうこと」
人々の不安が高まっている今、とりあえず楽しいことをやって気分を上向きにさせようというわけだ。通常の武術大会ならともかく、リッカのような有名人が参加するなら話題性はかなりのものになるだろう。
ついでに、リッカの強さを見せることで『どんなヤバい敵が出て来てもリッカ・タチバナがいれば大丈夫』と国民に思わせることもできる。このへん、政治的な意味合いかちょっと垣間見えるな。この国におけるリッカの立ち位置がわかろうというものだ。
「リッカ様は大人気ですから、きっと盛り上がりますね!」
「だな。戦闘といえばお前の十八番だしチョロいもんだろ」
「……ええ、そうね」
「……おい、何だよそのタメは」
俺が聞くと、リッカはやや力の抜けた笑みで虚空を見つめた。
「この大会、大貴族の息子なんかも結構出てくるのよね。……そういう連中が相手の時は、向こうに恥を欠かせないようにある程度苦戦してる演技をしないといけないのよね……しかも私が負けると国民が不安になるから、結局は勝たなくちゃいけないし……」
「……何つーか、色々と大変だなお前も」
珍しくげんなりした様子のリッカに、思わず俺も同情してしまいそうになる。
お偉いさんに花を持たせるとかまるで接待ゴルフだな。リッカの社畜感が年々増しているように感じるのは気のせいだろうか。
などと話している俺たちの前で、ミアがきょろきょろと周囲を見回していた。
「ミアちゃん、どうしたの?」
「いえ、あの、リッカ様。カレンちゃんは今日は来ていないのですか?」
ミアが尋ねるとリッカは「ああ」と思い出したように手を叩き、
「そういえばさっき、『うおー! すげー! 建物でっけー! 探検してくるぜ!』って言って出て行ったわね」
子供か。
「そう遠くには行ってないと思うけど……」
「なら、私がちょっと行って探してきます。カレンちゃんにも久しぶりに会いたいですし」
「そう? うーん……なら、悪いけどお願いできるかしら?」
「はいっ!」
ミアがぴしっと軍隊式の敬礼を真似して元気よく返事をしている。
そしてリッカはその仕草を見るなり心臓を射止められたように胸を押さえた。お前ほんとミアのこういうところ好きだよな。
「……い、行ってらっしゃい」
「? はい。お師様も、行ってきます」
「おう」
ミアが出て行き、扉がぱたんと閉まる。
「……私、またしばらくは頑張れる気がするわ」
「お前、ほんと一日くらい休みとったほうがいいんじゃね?」
疲労回復の栄養ドリンクがもしここにあれば迷わず勧めているレベルだ。
と、ミアがいなくなったことで一瞬の間が空きーー
「――で、何しに来たの?」
リッカが物凄い疑いの目で俺を見てきた。
「ははは。何言ってんだよリッカ。応援に決まってるだろ?」
爽やかに笑って受け流す。まったく、何をそんなに疑り深くなっているんだか。
「……そう。まあ、あんたがそう言うならいいんだけど。疑って悪かったわね」
「はは、いいっていって。気にすんなよ。間違いは誰にでもあるさ」
「あら。やけに紳士的ね」
「俺はいつも紳士的だろ? ーーおっと、リッカ。肩のあたりにゴミがついてるぞ? とってやるからじっとしてろよ」
俺がそう言って立ち上がり、リッカの方に手を伸ばすとーー
ガッ
「おいおいどうしたんだよリッカ。いきなり俺の手を掴んだりして」
「えっと、肘をこっちに曲げて……」
「いだだだだだだだだだた! おいバカやめろもげる! 急になんだよ、マジでやめてくださーー」
バサバサバサッ
俺の服の袖から感応紙の束が落ち、床に散らばった。
……やっべえ。
「さ、シグレ。何を企んでいたのか白状しなさい」
「ご、誤解だ! 俺は別にお前に魔法陣を仕込もうとしたわけじゃない!」
「そう。仕込もうとしたわけね。それで?」
まずい。さすがにまずい。いたずらが事前にバレた小学生のような気分だ!
「まったく……あんたはどうしてそう子供っぽいんだか。ご丁寧にこんなに魔法陣を用意して」
いや、待て。まだ何とかなるはずだ。回れ俺の脳。ここからでも誤魔化すことは不可能じゃないはずだ。
「あら? この魔法陣、何かしら。見たことないわね」
「あ、おいバカ勝手に触んな! それは組んだばっかの試作品でーー」
リッカが落ちた感応紙の一つを拾い上げ、そこに描かれた魔法陣をマジマジと見つめる。
俺はそれを奪い返そうと、リッカが持つ感応紙の端に触れて、瞬間。
魔法陣が発光した。
魔法陣の誤作動。試作品であるがゆえの、起動条件のバグ。俺とリッカが同時に触れた瞬間欠陥品の魔法陣は勝手に作動し、周囲一帯を薄青色の魔力光が染め上げる。
やがて魔力光は収まったわけだがーー問題はその後だ。
「……ん?」
「……え?」
俺とリッカはまったく同時に、まったく同じリアクションをした。
何があったのかだけ簡潔に記そう。
俺の目の前に、『俺の姿をした誰か』がいて。
リッカの目の前に、『リッカの姿をした誰か』がいて。
「「ああーーーーっ!!?」」
俺は俺自身に、リッカはリッカ自身に向かって指を差す。
鏡写しのようにまったく同じ姿勢をとったまま俺は理解した。
――俺とリッカが入れ替わってる!
よくある入れ替わりネタ。
更新、お昼には間に合いませんでした! というか、リアルの都合上、今後昼に更新を間に合わせるのがつらいのですがどうしましょう……また更新時間、変更するかもしれません。その時はよろしくお願いします。




