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エピローグ

※2017.2.1 

 修正ラッシュもこれで打ち止めです。何というか、色々とすみません。

 な、内容にはあんまり違いはないはずですので!



「あー……」


 俺は椅子の背もたれから伝わってくる慣れた感触に心地いい安心感を覚えつつ呟いた。


「……自宅ってやっぱいいなー」


 俺が今いるのは、すっかり元通りになった自宅の研究室だ。


 ヒガンが企んだ魔王の再襲撃から、一週間が経過していた。



 満身創痍ながらも何とか魔王を倒すことに成功した俺とリッカは、まず真っ先に王城に転移して国王に事の次第を報告、その後国王の手配によって王族お抱えの治療魔法士から治療を受けた。

 そして三日くらいしてから何とか自由に動けるくらいには回復したので、俺は自宅のあった場所まで戻ってきて我が家の再建に取り掛かった。魔王にぶっ壊されてそのままだったからな。


 それから一日かけて外装をよみがえらせ、さらに三日をかけて調度品やら研究室の設備やらの内装を整えた。菜園なんかも作り直し、ようやく家が元通りになったのが今日というわけだ。ちなみにここまでの費用はすべて国王持ち。王女であるアリシアもこの惨状の原因だったので当然と言える。


 そんなわけで、俺はおよそ一週間ぶりに心安らぐ自宅での一日を過ごしているのだった。


「あー、しばらく動きたくねえー」


 もはや研究すらやる気も起こらず、椅子にもたれたまま天井を見上げた。窓から差す日は明るく、そろそろ夏が近いことを思い出させてくる。平和そのものだな。


 そんなことを考えていると、研究室のドアがノックされた。


「お師様、おつかれさまです。そろそろお昼を作り始めてもいいですか?」


 わずかに開いたドアから顔をのぞかせてきたのはやたらと顔だけはいい犬弟子である。


 この弟子も、自宅を再建するにあたってはなかなかいい働きをしてくれた。棚とかテーブルとか、大雑把な調度品なら俺も場所を覚えているのだが、キッチン周りやら衣類などの生活雑貨やらは俺はさっぱりわからなかったので、そのあたりを受け持ってもらった。もはやこの銀髪ロリはどこに出しても恥ずかしくないハウスキーパーと言えるだろう。


 一週間前は死にかけの俺を見て大泣きしていたが、今はすっかり調子を取り戻している。

 俺は椅子にもたれたまま答えた。


「おー。頼むわー」


「はい。それじゃあお師様、何か食べたいものとかありますか?」


「食べたいものか……」


 そういえばここ一週間、王城でベッド暮らしをしたり家を建て直したりとバタバタしていたため、落ち着いて飯を食うのは久しぶりだ。


 せっかくだし何かリクエストしてみるか。けど何がいいかな。昼だし、あんまり重たいものが食いたい気分でもない。うーむ……。


 などと考えていたら、


「しーぐーれー、ミアー! 遊びに来たぞー! 師匠も一緒にー!」


 玄関のほうから、やたらと威勢のいい声が響いてきた。

 あいつはインターホンの存在を無視し過ぎだな。

 俺とミアは顔を見合わせた。


「昼飯、何か大人数で食えるものがよさそうだな」


「はいっ」


 ミアが楽しげに笑った。

 今日は賑やかな昼食になりそうだ。



×××



 で、俺とミアは客を出迎えるために外に出たわけだが、そこで予想外の人物に遭遇した。


「おっすー」


「久しぶりね。シグレ、ミアちゃん」


 カレンと、その師匠にして昔の俺の仲間であるリッカはいいとしてーー問題はその横で張りつめた表情をして立っている緑髪の少女だ。


「……アリシア?」


 え、何でこいつここにいるんだ? 先日の一件で所在がバレて、王城に連れ戻されたって聞いてたんだが。


 やや面食らう俺とミアに向かって、アリシアはいきなり頭を下げてきた。


「先日はすまなかった!」


「は?」


「は、はいっ?」


「シグレは言うに及ばず、ミアにも迷惑をかけた。本当に申し訳ない……」


 アリシアは恐縮したように深々と腰を折ったままそう続けた。何だこいつどうした。


「リッカ、これどういうことだ?」


「見てわからないの? アリシア様は、あんたとミアちゃんに謝りたいからと、ここまで足を運ばれたのよ」


 リッカはさらりと言っているが、普通に考えて王族の一員が頭を下げにわざわざ遠出してくるって結構一大事なんじゃなかろうか。


「ま、そのあたりの話は中でしましょう。色々とあんたには話しておきたいこともあるしね」


 リッカはそう言って肩をすくめた。



×××



「ミア、今からなにすんのー?」


「お昼ごはんの用意ですよ。カレンちゃんは何が食べたいですか?」


「ハンバーグがいいー!」


 キッチンの方からミアとカレンの和気あいあいとした話し声が聞こえてくる。

 席を外してくれたのは、あいつらなりに気を利かせてのことなのだろうか。


「で、話したいことって?」


 俺は居間のソファに座るなり、正面に座るリッカにそう尋ねた。ちなみにリッカの隣にはまだ申し訳なさそうな顔をしているアリシアがちょこんと腰かけている。


「先日の一件の顛末よ。興味あるでしょう?」


「ああ、まあな」


 そういえば、リッカは俺が家の再建をしている間、普通に仕事していたんだった。死にかけたんだからしばらく休んでいればいいのに、どこまでも社畜適性の高いやつである。


「じゃあ、まずヒガンのことから話ましょうか」


「ああ、あいつどうなった?」


「指名手配されたわ」


「……だろうなあ」


 まあ、仕方ないことだろう。家出中の王女をたぶらかした挙句、魔王をまた野に放とうとした。この世界の基準に合わせれば、一般人なら余裕で死刑。いちおうあれでも三年前に世界を救った英雄の一人だし、捕まったら即死罪ってことにはならないだろうが、一回あいつは牢屋にでも入って反省したほうがいいような気もする。


「それに、あいつが潜伏してた場所のそばでは、魔王を怖がって魔獣が活発化したりもしてたみたいだしね。ほら、前に火熊が山を下りてきて暴れた一件があったでしょう? あれもその影響らしいわよ」


「あれもか。あいつそろそろ一回シメといた方がよさそうだな」


「どうせしばらく見つからないわよ。あいつ、逃げたり隠れたりするの得意だし」


 リッカとそろってため息を吐く。ヒガンに関しては相変わらず、としか言いようがないな。放っておくとすぐにろくでもないことをやらかす。さっさと捕まってしまえ。


「で、アリシアの方は? 説教くらい食らったか?」


 ちらとリッカの隣に座る少女に視線を投げると、アリシアはどんよりと表情を曇らせた。


「……その通りだ。父上には叱られ、しばらく謹慎を命じられた。研究室にも、ここ一週間は足を踏み入れていない……」


 謹慎か。まあ、あんまり大っぴらに罰を与えるといらん風評を招きかねないからな。今回の一件も王族が関わってたからって国王も秘密にしたがっていたし、そんなもんだろう。


「改めて、二人には特に迷惑をかけたこと、謝罪させてくれ。本当にすまなかった」


「……」


 心から申し訳なさそうな顔でまた頭を下げてくるアリシアにどう答えたものかと悩む。リッカに視線を送ると、小さく肩をすくめていた。

 アリシアは顔をしたに向けたまま続ける。


「昔から私は、研究に夢中になると周りが見えなくなってしまうんだ。自分でも悪い癖だとは思っているんだが、なかなか直らない。許してくれとはとても言えないが、どうしても謝りたかった」


「アリシア……」


 俺は複雑な気分でその言葉を聞いていた。


 まあ知っていたことだが、こいつって別に悪い奴じゃないんだよなあ。バカなだけで。


 ……ああ、そういやこいつって、大人っぽく見えるけど十四歳の子供なんだっけ。十四歳って言ったら俺やリッカはまだ地球にいて学生やってた頃だ。今ではもうずいぶん昔のことに思えるが。


「だからシグレ、リッカ。私のことは煮るなり焼くなり好きにしてくれ。何をされても文句は言わない」


 と、まっすぐな目で言ってくるアリシア。

 え? いいの?

 俺はリッカと目を見合わせた。そしてどちらからともなく頷き合うと、



 ガッ

 ゴンッ



 まあまあいい音を立てて俺とリッカの拳がアリシアの脳天に炸裂した。


「……いたい」


 だろうな。さあここからが説教タイムだ。


「アリシア様。僭越ながら言わせていただきますが、今回の件はやり過ぎです。私やシグレが死ぬ可能性もありましたし、そうなったらあの魔王を止めることはかなり難しくなったでしょう。人的被害が出なかったのは奇跡というほかありません」


「……ああ」


 リッカが涙目で頭を押さえるアリシアに淡々と語りかける。


「本当にわかっていらっしゃいますか? ……そうですね、では聞き方を変えましょう。アリシア様、あなたは私やそこのシグレのことがお嫌いですか?」


「そんなことはない!」


 アリシアは慌てたように、焦ったように顔を上げて答える。


「私は、リッカのこともシグレのことも断じて嫌いなんかじゃない! 国のために力を尽くしてくれているリッカも、素晴らしい娯楽を市場に提供してくれるシグレも、私にとっては尊敬の対象だ。……嫌うなど、私にはとてもできない」


「身に余る評価です。では、そんな私たちを、あなたは殺そうとした。その自覚はありますか?」


「それは……いや、そんなつもりは……」


「なくとも、そういうことなのです。軽はずみな行動が、取り返しのつかない結果を生むことは、決して珍しいことではありません」


「…………ああ」


 アリシアはまたうつむいてしまう。対してリッカは、どこか優しげな表情を浮かべていた。


「ですが、アリシア様はまだ十四歳。失礼を承知で言わせていただきますが、まだ子供です。そして子供とは、間違いを学ぶ時期でもあります。アリシア様は頭がいい。そして素直だ。あなたはきっと、今回の間違いを忘れないでしょう」


「……リッカ……」


「今回のことが、アリシア様の成長を促すのなら、私たちとしても体を張った甲斐があります」


 リッカはくすりと微笑んでそう言った。アリシアは、目を見開いて、そんなリッカを凝視している。


「なあリッカ。あんまりいい話をされると俺が話す時に困るんだけど」


「今大事なところなんだから黙ってなさい」


「ウス」


 そんなやり取りをする俺とリッカの前で、アリシアは真剣な表情で言った。


「……確かに、覚えた。今後二度と、研究で他人に迷惑はかけないようにする」


「はい。アリシア様ならそれができるでしょう」


 と、リッカは優しく微笑んだまま頷いた。

 で、アリシアが俺の方を見てくる。やっぱり俺も何か言う流れだよな。


「あー……そうだな。じゃあ、一つだけ」


「聞かせてくれ」


 あーあ、俺はこういう真面目な話とかは苦手なんだけどなあ。

 俺は慣れない感覚を後頭部をかくことで誤魔化しつつ、


「俺は何つーか、お前と似たところがあるからな。面白い研究テーマを見つけたら周りが見えなくなるって気持ちもわかるよ。ああいうのって理性でどうこうなるもんじゃねーってのもわかる。多分今後アリシアが何か面白いネタを見つけたとして、それが人様の迷惑になるからって理由で我慢するのはかなり難しいと思うぜ」


「……そうかもしれない」


「アリシア様?」


「だ、大丈夫だ。ちゃんと我慢する」


 リッカの笑顔が圧力を増した気がする。というか、アリシアがびくついてるのが何か新鮮で笑える。

 俺は話を続けた。


「だけど自重は必要だ。だからコツを教えてやるよ」


「コツ?」


「ああ。楽しく研究をするためのな」


 とか言いつつ、俺はやや恥ずかしさを感じ始めた。こういう信条というか、モットーを語るのって何というか羞恥心が邪魔をするよな。今は耐えるしかない。


「研究テーマを決めるときは、誰のためにするかってことを考えるんだよ。誰を喜ばせたいか、って言い換えてもいいだろうな。とにかく誰かを幸せにすることを考えろ。そうすりゃどんだけ研究に没頭しても大抵大丈夫だ」


 重要なのは、人を考えることだ。研究ってのは、効率化とか効力の上昇とか、数字ばっか気にしてるとだんだん周りのことが見えなくなる。


「誰かを、幸せにすること……」


「そうだ。目の前のことだけにとらわれず、研究の結果を届けたい人のことだけ考えろ。研究が終わった先のことまできちんと想像しろ。……そうすれば誰かを喜ばせるために、別の誰かを犠牲にしようなんて発想にはならねーだろ」


 アリシアが呆けたように俺を見ていた。俺は気まずくなって目をそらした。


「……以上だ」


「……あんた、まともなことも言えるのね」


「今の俺に話しかけるな。正直羞恥心がヤバい」


 わりとクサいことを言った自覚がある。俺は本気で意外そうな目で見てくるリッカから顔を背けた。


「これでも褒めたのよ? ふふ、さすが研究者としては一家言あるわね」


「そうだろう。さあ敬え」


「本当にためになった。……やはりシグレ、あなたは尊敬すべき人だ」


「やめろ……」


「あんたは何がしたいのよ……」


 顔に片手を当てて俯いた俺を見て、リッカが呆れたように言った。


 本当に敬われると、それはそれでもきつい。やっぱりこういうのは苦手だ。普段好き勝手に生きてるだけに。


「ま、まあこの話はこれで終わりだ。そんでリッカはまあ当然として、アリシアもうちで飯食っていくだろ?」


「む? い、いや、私は……」


 アリシアに話をふると、アリシアは答えを詰まらせた。


「アリシア様さえよろしければ、ご一緒しませんか? ミアちゃんの料理は美味しいですよ」


「そ、そうか。いや、興味はあるが……私はあなたたちを、その、殺しかけたのだぞ? それなのに今更食事を共にするというのは……」


 と、アリシアは目をそらしながら居心地悪そうに肩をぎゅっと抱いた。


 ……。


「なあリッカ、俺たちってアリシアに殺されかけたらしいぜ」


「さあ? もう覚えていないわね」


「!?」


 アリシアがぎょっとしたように俺たちを見た。


「俺も覚えてねーなあ」


「ええ。まったく記憶にないわね。ところでシグレ、何か遊ぶものはない? トランプでも何でもいいけど」


「任せろ。我が家はその手のアイテムはすべて完備されている。退屈なんかさせねーぞ」


「し、シグレ? リッカ? どうしたんだ急に……」


 会話に置き去られたアリシアが動揺し始めた。俺とリッカは同時に小さく笑った。


「もう気にしてねーってことだよ。そんじゃ、ミアが飯作り終わるまで遊んでようぜ」


「お付き合いいただけますか、アリシア様?」


 と、俺から【カメレオンカード】の束を受け取ったリッカがカードを器用にシャッフルしながら尋ねた。アリシアは何が何やらわかっていないような顔で、なしくずし的にトランプの手札を受け取る。


 しばらく遊んでいると、ミアとカレンが作り終わった昼食を運んできた。


 俺たちはそれを囲んで騒ぎながらそれをみんなで食べた。和気あいあいと、のんびりと、穏やかな昼下がりに似つかわしく賑やかに。


 それは傍から見れば、友人たちの和やかな昼食風景にしか見えなかっただろう。



 そんな感じで、俺たちの『日常』は今日も過ぎていく。

一段落。続きはどうしよう、と悩み中です。

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