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フラグ回収

※2017.2.1

 すみません、修正しました……!



「シグレー」


「何だよ」


「ひまー。遊んでー」


「あー?」


 明けて、翌日。


 以前の約束通りついさっき、カレンを連れてリッカが遊びに来た。

 現在時刻は昼過ぎで、ミアとリッカは恒例になりつつある通り厨房で昼飯を作っている最中だ。


 俺は料理に関しては完全に戦力外なので大人しく研究室に引っ込んで魔法陣をいじっていたのだが、十分くらいしたらミアたちの料理風景を見飽きたカレンがやってきて、開口一番放ったのがさっきの一言というわけだ。


「俺はいま忙しいから無理だ」


「えー。シグレ今何してんのー?」


 何ってお前。


「見たらわかるだろ。TCG《トレーディングカードゲーム》の開発だ」


 そう言って、俺は手に持っていた一枚のカードをカレンに見せた。


 手のひらよりもやや小さいサイズのカードだ。一番上の欄にはカードに描かれたキャラの名前、その下にはイラスト、さらにその下にはカードの持つ効果が書かれている。

 イラストには【記憶再生】で俺の記憶から引っ張り出したモンスターたちを採用しており、しかもイラスト部分に刻まれた魔法陣に魔力を流せばイラストが実体化する。『着せ替えリッカ人形』の技術を流用した結果だ。


 実際に魔力をごくごくわずかに流してやると、俺の手元でキャラクターが浮き上がる。


「何それー……熊?」


 カレンが俺の手元を凝視しながら聞いてきた。


「正確には『火熊』って名前のモンスターだな。ちなみに魔力をもう一度流すと動くぞ」


「へ? 動くって何がーーうわあああああすっげえー! 熊が火ぃ噴いた! 何だこれすげー!」


 このカード、実はイラスト部分の魔法陣に魔力を二回流すことでキャラクターの映像がちょっとしたモーションが発動するという試作品なのだ。まあ、現状だと燃費が悪すぎるのでそのへんを改良する必要はあるのだが。


「な、なあシグレ! それあたしも遊べるー?」


「いちおう魔力があるなら誰でもできるように作ったつもりだ。ほら、これ初心者用デッキ」


 うまいこと興味を引けたことにほっとしつつ、俺は作業台の上に置いていたカードの束をカレンに放り投げる。カレンはさっそくカード一枚一枚に魔力を流してイラストの立体映像をぽこぽこ出してはしゃいでいる。


 ……しかし本当かわいいな、こいつ。ここまで嬉しそうにされると作者冥利に尽きると言うかなんというか。


「よし、遊び方説明するからこっちこい」


「おー!」


 作業台の前に置いてある椅子に座りつつカレンを呼ばわると、大喜びで走り寄ってくる。

 走り寄ってきてーーそのまま俺の膝の上に飛び乗ってきた。


「さ、教えてくれよ!」


「色々言いたいことはあるが、なぜお前は当然のように俺の膝の上に座っているんだ」


 十八歳、つまりこの世界において大人として認識される年齢の男の膝上に十二歳の少女がまたがってるという状況。見る人が見れば通報されてもおかしくないようなシチュエーションだ。


「え? だって師匠に文字とか算学とか教わるときはこうやれって言われてるぜ?」


「あいつ……」


 いや、まあ別にいいけどさ。

 ちなみにカレンは自分の後頭部を俺の胸あたりにこすりつけて遊んでいた。注意するのも面倒なので好きにさせておこう。


「そんじゃ説明するぞ。文字は読めるか?」


「いちおう師匠から簡単なのは習ったぜ」


「ほー」


カレンは確か、リッカと出会うまでは路地裏暮らしだったはずだ。文字何て習ってる余裕もなかっただろうから、つまりリッカと出会ってから十日余りで簡易的とはいえ習得していることになる。素直にすごい。こいつ、もしかして頭の回転は速かったりするのだろうか。


「全部忘れちまったけどな」


俺の感心を返せと言いたい。


「ったく、じゃあ教えてやるからちゃんと聞いとけよ」


「あーい」


興味のあるもので釣っているせいか、見たまま勉強嫌いらしいカレンの返事も素直だ。


俺は膝上に乗ったままの猫娘相手に文字の手ほどきを始め――



 ガチャッ



「お師様、カレンちゃん、ごはんができま――あああああああっ!」


部屋に入ってくるなり銀髪ロリが絶叫を上げた。


「ミアどしたー?」


カレンが膝立ちになって俺の肩越しに入り口の方を見て言う。


すると弟子はずんずんと歩いてきて、カレンに言い放った。


「カレンちゃんはずるいです!」


「へ? 何が?」


カレンはミアの反応の理由がイマイチわかっていないようだ。

ちなみに俺も心当たりがない。


……あれ、マジでないぞ。何かやったかな俺。以前の家出騒動の件もあるし、ミアが機嫌を損ねないうちに何か言った方がいいだろうか。


「私だってお師様の膝の上になんて乗せてもらったことがないんですよ!」


どうやら俺が口をはさむ必要はなさそうだ。


「そうなのか?」


「そうです!」


「じゃあこうしようぜ! あたしが右側の膝に座るから、ミアは左側に座るんだ!」


「それは名案ですねっ」


そして有言実行とばかりに俺の膝を占領するロリ二人。


「何だか落ち着きますね」


「だよなー」


「重てえ!」


俺は容赦なく弟子コンビをまとめて抱えて放り投げた。


「「何するんですか(だよ)!?」」


「こっちの台詞だこのチビども! 片方ならともかく両方いっぺんに来ると支えきれねーんだよ!」


抗議の声を上げてくるミアとカレンに心からの本音をぶつける。片方が三、四十キロだとしても二人合わせたら倍だ。定員オーバーと言わせてもらおう。


「何してるのよ、あんたら……」


ミアより少し遅れて入ってきたリッカが、そんな俺たちに呆れた声でそう言っていた――



――これが、俺たちの日常。



 森の中で隠居して、弟子を取って、たまに昔の仲間が遊びに来て、そいつの弟子とも仲良くなって、一緒に飯食ったり会話したりして、そうやって過ごす穏やかな日々。


 退屈で、平和ボケして、のんびりとした毎日。


 俺はこの三年間でそんな生き方に慣れきっていた。


 だから気づかなかった。


 思えば予兆はいくつもあったのだ。


 ラドルク山脈のモンスターが活発化したのはなぜだったのか。


 どうして、絶滅危惧種の風竜がこの森にやってきたのか。



 アリシアが、あれほど打ち込んでいたシャレアでの『研究』とは何だったのか。



 そういった違和感や、抱いて当然の疑問をいくつも見逃して、見過ごして、無意識のうちに意識の外へと追いやっていた。


 だから、俺はとうとうその時まで気づくことができなかった。



 ――準備完了だ。



 ――そうかい。じゃあ、始めよう。楽しい楽しい戦いを。



 ここから離れたどこかでかわされた、そんな会話などつゆほども知らず。



 次の瞬間、真上から叩きつけられた『攻撃』によって俺の家は粉々に砕け散った。


更新遅くてすみません! ちょっと課題に手こずってました……!

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