魔法都市リターンズ②
※2017.2.1
すみません修正しました! 展開上不都合はないかと思われます……!
×××
アリシア・メア・ファラディオール、十四歳、王族。
現在家出記録更新中――らしい。
「久しぶりだな」
「そうだったか? ……ふむ、確かに最後に会ったのはだいぶ前だった気がするな。研究中は時間間隔が狂っていけない」
中央広場の真ん中に位置する噴水を背に、アリシアは顎に手を当ててそんなことを言った。
「それには同意するが、不用心過ぎるのはよくないと思うぜ。いつ身元がバレて連れ戻されたっておかしくねーんだから」
「身元?」
「その心配には及ばない。私は人前にはあまり出ていないからな。私の顔を知っているものなど、王城に出入りしたことのあるあなたのような人物くらいだ」
「王城?」
時折ミアが不思議そうな顔で俺とアリシアの会話から単語を拾っている。
「あの、お師様。この方、以前もシャレアでお会いしたことがありますよね。お知り合いですか?」
自分以外の二人が友人同士の雰囲気で話しているのに自分だけ置いて行かれつつあったミアがこんな問いを発するのも至極当然の流れだっただろう。俺も、俺以上にアリシア本人も特に人目をはばからず話しているためミアが『聞いてもいい話』と感じたのも無理はない。
……実際のところ、俺が防音用の魔法陣を使っているため他の人にはこの会話はほとんど聞こえていなかったりするのだが、まあそれはそれとして。
アリシアに目で聞くと、こくりと頷いてきた。
許可も出たことだし、ばらしちまってもいいか。
「よしバカ弟子、心して聞けよ。こいつの名前はアリシアだ」
「アリシア様ですか。……アリシア?」
「ああそうだ。アリシア・メア・ファラディオールだ」
「……アリシア・メア・ファラディオール……?」
ミアは俺の言葉をそのまま反芻している。
数秒後。
「どひぇえええええ!? だってそれ王族のっ、えええっ、えええええっ!」
今ほど防音の魔法陣を張っておいてよかったと思ったことはない。
「落ちつけバカ弟子」
「そっ、そんなこと言われても!」
「お手」
「……(スッ)」
肩で息をしたまま流れるような仕草で右手を俺の差し出した俺の手の上に置いてくるミア。
「お代わり」
今度は左手。
「【アクアウォール】」
「はい、【アクアウォール】――ってわあああああああああ!? びっくりしました! 本当にびっくりしましたよ! いきなり【ブレイズキャノン】なんて撃って来ないでください!」
「どうだ? 落ち着いたか?」
「こんなことされて落ち着けるわけないじゃないですか! 命の危険を感じました!」
ミアが涙目で食って掛かってくる。二割くらいは善意でやったのにひどい言われようだ。
ところで、限界まで威力を弱めたとはいえ、王国軍魔法兵の主力攻撃魔法である【ブレイズキャノン】が街中でぶっ放される事態に周囲の人たちがそろってぎょっとした目でこっちを見ている。
……いかん、いらん注目を集めてしまった。魔法陣使いの師弟である俺たちにとってこういったやり取りは日常茶飯事なのだが、どうやらこのコミュニケーションは奇異に見られるようだ。
「魔法陣の起動速度が生半可ではないな。二人とも、素晴らしい腕だ」
ちなみにアリシアは何やら感心したように俺たちを見ていた。こいつの感覚は一般人とはズレている気がしてならない。
周囲からの視線にそそくさと移動する俺たち。
場所を移し、中央広場の隅にあるベンチに腰掛けて話を再開する。
まずは初対面の二人による自己紹介から。
「お、お会いできて光栄です、王女様。わた、私はシグレ様のもとで魔法陣の勉強を……」
がっちがちのミアにアリシアは真顔のまま言った。
「そう緊張しなくてもいい。私は今、心境的には王族でも何でもないんだ。気負わず、ゆっくりでいい」
「は、はい。……始めまして、アリシア様。お師様のもとで魔法陣を学ばせていただいている、ミアといいます」
「私はすでに聞いての通り、アリシア・メア・ファラディオールという。立場は第二王女だが、それはひとまず忘れてくれ。よろしく頼む」
「は、はい」
俺はその二人のやり取りを横から見ながら内心少し感心していた。
アリシアって本当に堂々としてるよなあ。さすが王族というべきか、十四歳とは思えない落ち着きっぷり。うちの弟子と二つしか年が違わないとは思えない。
「まあ、元気そうで何よりだ、アリシア。連絡もなかったからこれでも心配してたんだぜ」
ミアとのファーストコミュニケーションに区切りがついたところで横から口を出す。
俺の言葉に、アリシアは神妙な顔つきで小さく唸った。
「ふむ……それは済まない、気が回っていなかった。研究もいよいよ佳境に差し掛かっている。他ごとに気を割く余裕がなかったんだ」
アリシアの台詞は俺にとってわりとなじみ深い感覚を伝えてきた。思わずうなずく。
「あー、あるある。飯とか忘れるよな」
「ああ。もっとも私は三日以上食事を抜くと意識が保てなくなるため、定期的には何かしら口には入れるようにしているが」
「わかるわー……昼か夜かとかもわからなくなるしなぁ」
「それも同意するぞ、シグレ。一度気絶してしまえば日付の数字など些細なことだ」
「つ、突っ込みがおいつきません……!」
ミアが何やら衝撃を受けている気がする。
「……なんというか、お二人は仲が良いのですね。お付き合いが長いのですか?」
俺とアリシアは目を見合わせた。
「いや、この間初めて話したとこだよな?」
「ああ。もあ半月ほど前になるか。シグレがいきなり私を路地裏に連れ込んだのが最初だ」
「何してるんですか! 本当に何してるんですかにお師様!?」
感慨深く当時の出会いを思い返す俺とアリシアにミアが食って掛かってくる。
あの時は色々とテンパっていたのだと弁明したいところだ。そら王女が無防備にうろついていたらびびるって。
「……って、あれ? 半月?」
と、ここでミアが何か気づいたようにびきりと硬直し眉根を寄せた。
「お師様、つかぬことをお聞きしますが」
「言ってみろ」
「……アリシア様のこと、リッカ様はご存知なんですか?」
「いいえ。リッカはこのことを知りません」
「何ですかその口調! っていうか、やっぱり! やっぱり知らないんですね!? 何を考えているんですかお師様は!」
何を考えている、と言われても。
「俺は……同じ研究者としてシャレアに残りたがるアリシアを止めることなんてできなかったんだ」
「お、お師様……」
そう。専門にする分野こそ違えど俺とアリシアは同じく魔法技術をより深く知ろうと日々努力する研究者だ。俺がアリシアを庇うことには疑問の余地すらない。
「あとはリッカへの嫌がらせだな」
「一体何がお師様をそこまで駆り立てるのですか」
あの脳筋剣士は俺のことを『引きこもり』『ニート予備軍』などと見下している節がある。俺がささやかな反撃に出るのも仕方ないことだろう。
「ふむ。シグレはリッカと仲がいいのかな」
アリシアが横から口をはさんできた。
「いや全然」
「お二人はとても仲良しです」
「そうか。それはいいことだな」
「あいつと仲がいいなんて冗談じゃない。ただの腐れ縁だ」
「この間はお師様の家まで来て料理を作ってくださったんですよ?」
「ほう、リッカは料理をするのか。知らなかった……親しい者の前でだけ出す彼女の素顔ということかな」
「お前ら俺の言葉聞いてる?」
ミアとアリシアは共通の知人の話で盛り上がっている。確かにミアからしてみれば仕事中の、アリシアからしてみればプライベートのリッカはそれぞれ興味の対象になるのかもしれないな。あいつ、公私はきっちり分けるタイプだし。
「ところでアリシア様。今日はどうしてここへ?」
「ああ、魔法薬の実験のための材料を買いに来たんだ」
アリシアが手に持っていた小さな紙袋を見せてくる。その動作に合わせて紙袋の中身がかちゃかちゃと揺れる音が聞こえる。
「そういや、今は何かの実験の最中って言ってたっけか。順調か?」
「順調だとも。ふふ、そろそろお披露目することができるかもしれないな」
珍しく、本当に珍しくアリシアが口元をほころばせた。こいつも好きなことをしてるときはちゃんと楽しそうな顔をするんだな。
「そりゃよかった。面白いものができたらぜひ俺にも見せてくれよ」
「ああ、もちろんだ。シグレには真っ先に見せることになるだろうし、期待していてくれ」
「……? お、おう」
あれ、何か今アリシアの言い回しが変だったような……気のせいか?
「じゃあ、私はそろそろ失礼する。シグレ、今日は会えてよかった。ミアとも話ができて楽しかったよ」
「おう」
「はいっ」
アリシアが立ち上がり、俺は座ったまま、ミアは立ち上がって挨拶を済ませる。
アリシアはくるりと踵を返すと、すっかり慣れた足取りで人ごみの中を歩き去っていった。
その堂々たる後ろ姿を見てミアがぽつりと呟く。
「……何だか大人っぽい人でしたね。リッカ様と同じくらいのご年齢でしょうか?」
確かにあいつは大人びた外見をしているかもしれない。実年齢は十四歳なんだがな。
俺はアリシアの容貌、体型を思い出しつつ、二年後は今のアリシアと同じ十四歳を迎えるはずの隣の銀髪ロリを見た。
あと二年で、今のアリシアと同じ……。
「…………そうだな」
「お師様。どうして私を憐れむような目で見ているのですか?」
隣のドラム缶が心底不思議そうに俺を見上げていた。
えっと……なんかもう、すみません。筆が進まなさすぎて、筆どころか心がへし折れかけていました。
これからは心の安定を図る意味でも身の丈にあった更新をしていこうと思います。




