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エクスチェンジ➂

×××


「よし、ちょっと待っとけ猫娘」


「別にいいけど……結局もでるって何のことなんだ?」


作業台に向かう俺の背後で、ミアが作り置いていった俺の昼飯を(※勝手に)食べながらカレンが聞いてくる。


ふーさんがまだ寝ていたので軽くチョップを入れて起こしてやるとふーさんは大人しく作業台から飛び立ち、カレンのそばに着地する。カレンは「何だこいつ?」とふーさんの頭をつついていた。絶滅危惧種のモンスターだよ。


さて、質問に答えてやるか。


「モデルってのは、色んな服着てポーズ取って、それを写真にとられる人たちのことだ」


「しゃしん?」


「めっちゃ精密な絵みたいなもんだ」


「ふーん……」


いまいちわかっていないような声だったが、まあやってみれば嫌でもわかるさ。


さて、俺はやつを被写体にするうえで準備するものがある。

衣装だ。


「――【記憶再生】」


かつて地球にいたころの記憶を呼び覚ます。


そう、ヒマに明かして画像検索で調べたり、実際に触れたことのある衣装。それらの形状、縫製、生地の厚み。そういった情報をできる限り精密にすくい上げていく。


それらの膨大な情報をキープしたまま今度は別の魔法陣を発動。

脳内のイメージを、現実のものとして具現化させるための魔法陣――【記憶転写】。これによってただの空想に過ぎないものを実物として出現させていく。


要するに記憶の中にあるものを引っ張り出すコンボだ。記憶魔法マジで便利。魔王討伐の旅もこれがあればもっと楽だったんだろうなあ……と遠い目をしながらも術式を完成させる。


「【記憶転写】」


発動!


「……へ?」


突如、作業台の上に出現した様々な衣装を目にして、それまでふーさんと戯れていたカレンが目を丸くした。


「し、シグレ? そんなたくさんの服どっから……」


「企業秘密。さあカレンそこに立て、撮影スタートだ!」


「え? ……え、ちょっ、それあたし全部着るの!? 嘘だろ!?」


「大丈夫だカレン。お前の心配には及ばない」


戦々恐々とするカレンに俺は言い切った。


「そ、そうだよな。さすがにそれを全部着るってのは――」


「サイズはミアの服と同じだからお前でも問題なく着られると思う」


「そういう問題じゃねー!」


カレンの叫びが我が家に響き渡った。



×××



チャイナ服メイド服魔女っ娘セーラー服ブレザー着ぐるみパジャマナースドレスワンピース体操服スクール水着テニス服(以下略)。


「よーし。こんなもんか」


「……ほんとに全部着せられた……」


思いつく限りの衣装を着せ替えまくられ、様々なポーズで撮影用の魔法陣で写真を撮られまくったカレンが壁にもたれかかって座り込んでいる。


撮りも撮ったり百枚以上。これだけあれば資料には困るまい。俺は手元の紙片に撮影した写真を現像しながらほくそ笑んだ。


ちなみにこの世界に写真は存在しない。撮影までは写真のようなものだが、現像すると似顔絵っぽいイラストになって出力されてくる。まあカードゲームにするならそっちの方がいいかもしれない。


撮影は二時間に及び、ふーさんは途中で飽きて外に飛んで行ってしまった。


あいつは菜園で昼寝するのが好きらしく、多分今もそこにいるんじゃないだろうか。竜のクセに野菜を好むあいつは昼寝がてら菜園のものをこっそり食っているのだが、野菜は基本的に余っているので黙認している。


「いやあ、いいのが撮れたよ。協力サンキュー」


「ああ、うん……もう何枚撮ったかも覚えてねーや……」


ぐっと親指を立てる俺に対するカレンの反応が鈍い。どうやらかなりお疲れのようだ。


「ったく、お前ってそんな体力なかったか?」


「あたしジッとしてるのが苦手なんだよー」


「ふーん」


じっとしていて疲れるとは、変わってる。ああでも走り回るのとか好きそうだもんな、こいつ。


「なーシグレ、もう終わったんなら外行かねー? 組手か模擬戦やろうぜー」


カレンがそんなことを言い出した。何だか小屋に閉じ込められたチーターの子供のような切なげな表情をしている。


……ふむ。


「別にいいぞ」


「ほんとに!?」


「ああ。ま、いい絵が結構撮れたしな」


今度リッカに自慢してやろうと思う。

で、まあ長い時間拘束したカレンに少しくらい付き合ってもバチは当たらないだろう。


予想外だったであろう俺の同意に勢い込んで立ち上がったカレンだったが、何かを思い出したように「あ、でも」と呟いた。


「シグレって模擬戦とかできるの?」


ほほう。まるで運動不足の俺がバトルなんかできるのかと言いたげだな。

俺は不敵に笑ってこう言った。


「舐めんなよ、これでも魔王討伐パーティーだぜ?」



×××



「【ツリーフォーム・ソード】」


俺が呟くと、足元がひび割れ、そこから突如として二本分の剣の柄が生えてくる。


【ツリーフォーム・ソード】は【土】と【水】の魔力を主とする造形魔法の一種で、木剣を生成するというものだ。俺は足元に出現した木剣の柄を両方まとめて引き抜き、片方を手前に放り投げる。


「ほらよ」


「……なんつーか、シグレって何でもありだよなあ」


木剣を危なげなく受け取り、カレンはその木剣をしげしげと眺めながら言ってくる。


こいつの服装だが、今はコスプレ撮影大会の最中に着せたタンクトップ&ホットパンツという組み合わせのものに変わっている。動きやすくて気に入ったと言うのでプレゼントした。活動的な性格のカレンには抜群に似合っている。


現在地は庭の魔法陣実験スペース。以前初めてカレンと会った時に手合わせした場所だ。


時間は昼と夕方の中間くらいで、夏が近いせいか日差しが眩しい。徹夜の影響か眩しすぎて目がつぶれそうだ。


「それじゃあ始めるか」


「おうっ!」


カレンが威勢よく返事して剣を構えた。


模擬戦のルールは、旅の途中にリッカが他の剣士と何度もしているのを見ていたから俺も知っている。目と急所はなし、木剣を落としたらその場で中断。ダウン後追撃なし。


それじゃあルールを守って楽しく決闘といきますか。


「――りゃあっ!」


突っ込んできたカレンが俺の眼前で急ブレーキ、伸びあがるような軌道で右下から剣が向かってくる。

獣人特有の脚力、膂力。子供とはとても思えないような高速の初太刀。


――それを俺は、手に持った木剣を寄り添わせるようにして後方に受け流した。


「へ?」


そのまま勢い余ったカレンが俺の真横を通過する。ついでに前のめりになったカレンの木剣を手から弾き飛ばす。


くるくると弧を描いて空中から落ちてきたカレンの木剣を俺は開いた手でキャッチし、まったく同時にカレンが背後で踏みとどまる。


空っぽの自分の手を見てカレンが唖然とした表情を浮かべた。


「え、ちょ、あれっ? 今の、師匠の……」


「正解。一発で気づくとはさすが弟子だな」


俺はカレンから奪った木剣の柄を指先一本で支えつつ、にやりと笑った。


俺は世間で英雄視されている魔王討伐パーティーの一人だが、ジョブはバリバリの後衛だ。リッカに鍛えられているカレンの攻撃をさばくことは普通ならできない。


ならなぜカレンの剣を受け流すような真似ができたかというと、種を明かしてしまえば【記憶転写】によってリッカの剣技をパクったというのが正解だ。


リッカの剣技に限ればこの世界に来てから飽きるほど見てきた。そのイメージを自分に転写し、あいつの技を使う。付け焼刃だが、少しの間カレンの模擬戦の相手をするくらいできるだろう。


「シグレすっげー! もしかして師匠より強いのか!?」


カレンが目を輝かせて言ってきた。持ち上げられると調子になりたくなる。


「フッ……愚問だな。あんな脳筋に俺が負けるはずないだろう?」


「のーきん? よくわかんないから今度師匠にその言葉の意味聞いてもいいか?」


「すまん嘘だ。やめてくれ」


ぶっ飛ばされかねない。


ちなみに実際のところ、俺とリッカが本気で戦ったら勝者は状況次第で変わると思う。

お互いの位置が離れてたら俺が勝つ。近かったらリッカが勝つ。だいたいそんな感じだ。


「ま、そういうわけだから遠慮はいらないぞ。かかってこい」


俺が奪った木剣をカレンに投げて渡すと、カレンはそれを受け取って口の端を釣り上げた。

まるで獲物を見つけた肉食獣のようだ。


打ちかかってきたカレンをいなす。今度はカレンも素早く反応して剣を弾かれる前に二太刀目。それをかわすと、今度はその勢いのままに蹴り技を繰り出してきた。


「でやぁ!」


「っと……」


器用なやつだ。剣に頼らない、自由な攻撃パターン。このへんがカレンの長所なんだろう。


こいつを『伸ばす』ためにどうしたらいい?

剣だけではなく、こいつの柔軟性を活かしたまま強くするにはどうしたらいい?


知らず知らずのうちにそんなことを考えている自分に苦笑する。どうも、俺は畑は違えど何かの師匠であることは変わらないらしいな。


爽やかな午後、俺は将来有望な少女とともに彼女の気が済むまで汗を流し――

とは、ならず。


「いぃっ……!?」


ガラにもないことを考えた影響か、数度カレンの攻撃を剣で受け止めたあたりでどうも俺は自分の体に異常を感じ始めた。


びきりと体の節々が痛む。これは模擬戦によるダメージというより……!


「ちょっ、タンマだカレン! 何かヤバい! 俺の体がヤバい!」


どうして気づかなかったんだろう。

そうだよな。日ごろ部屋に閉じこもって魔法陣の研究ばっかりしてる俺が、あの社畜剣士と同じ動きをしたら体にダメージが来ないはずがないんだ。


「おい、カレン聞いてるか? 中断! 一回中断だ! おい!」


「にゃはっ、にゃはははははっ! どうしよシグレ、今すっげー楽しい! まだまだ行くぜ!」


「聞けやあああ! って痛てぇ! 叫んだら体が痛い!」


まずい。どうやらカレンに変なスイッチが入っている。長時間バトルしたせいで獣の闘争本能が呼び覚まされているようだ。


頬を紅潮させ、目をきらきらさせて木剣を振り回してくるカレンを落ち着かせることができず。


結局俺は、激しい筋肉痛を感じながらカレンが満足するまで相手することになった。


……いらん師匠風吹かせなければよかった。


うまい行間の取り方がわかりません。ご意見をいただきたいところですが、感想をいただくには実力が足りない。無念。


次回更新はきっと明日です。

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