最近、弟子の様子がちょっとおかしいんだが➄
×××
地竜の周囲に魔法によって膨大な岩石が出現する。
狙いは上空。
『ガァァァァァァァアアアッ!』
咆哮とともに岩石が打ち上げられる。
「よけてください!」
ミアが風竜に指示を出す。風竜――ふーさんはそれを受け、ミアを背に乗せたまま空中を急旋回。はためかせた翼のすれすれを打ち上げられた岩石がかすめていく。
逃げるか。反撃するか。ミアの判断がわずかに遅れる。
その間風竜は絶え間なく飛んでくる岩石砲を回避していたが、やがてそれにも限界が訪れる。風竜はもともと先日の地竜との戦いで万全ではなかった。駆動に体がついてこず、致命的な隙をさらしてしまう。
衝撃が風竜とその背のミアをおそった。
『キュアッ……』
「――ッ」
風竜はその場にとどまった。
だが、その背からミアが放り出される。
足場を失い、落下運動に入る直前のミアが時を止めたように表情を硬化させ――
「あっぶね!」
「あうっ」
間一髪、その場に間に合った俺が空中でミアの首根っこを捕まえた。
足場には自作魔法陣【空歩】を使っている。
「お、お師様っ!?」
ミアは呆然とした表情を浮かべていたが、自分を自由落下から救ったのが俺だとわかると驚いたような目で見てきた。
「ああそうだよ。ったく、ちょっと目を離した隙に何やってんだお前――っと」
足下から砲撃。それは俺やミアというよりもすぐそばにいる風竜を狙っていた物らしかったが、まとめて【重力操作】ではたき落とす。
『ガァァアッ……』
するとはるか下方から低いうなり声が響いてきた。
見れば、そこにいたのは地竜だ。
現在地が地上十五メートルくらいなのにやたら大きく見える。というか、あいつが四つん這いでなければここまで届きそうだ。相変わらずでかいやつだな。
とりあえず、状況は理解した。
俺の家から出たこいつらは運悪く地竜に見つかり、攻撃を受けていたと。
縄張り意識の高い地竜のことだ。以前追い出したと思っていた風竜がここにいたら怒りもするだろう。
さて、その地竜だが、さっき俺が【重力操作】で岩石砲を防いで以降攻撃の手を止めている。
……ふむ。
俺はいちおう持ち直している風竜めがけてミアを放り投げてみた。
「わあぁ!」
『キュー!?』
ナイスキャッチ。風竜がミアの首根っこを見事にくわえて支えるのを確認してから俺は地竜に近づいていく。
風竜もミアをくわえたまま俺の後ろに隠れるようにしてついてきた。なかなか賢い。
風竜の盾代わりになったまま地上に降り、俺は懐からとある魔法陣を取りだした。
通信用の魔法陣を改良した物で、その名も【念話】。言語体系の違う相手でも心の中で念じるだけで意思疎通ができるようになる、まさにテレパシー的な魔法陣だ。
「よう、久しぶりだな」
『うっす。お久しぶりです兄貴』
「待ってくださいお師様。私には地竜がお師様に頭を下げているように見えるのですが」
「ああ。昔物理的にいろいろあったからな」
俺は適当に応じつつ、過去を回想する。
そう。あれは俺がこの森に住むことになったときのことだ。
あのときは縄張りを侵されたと思ったこいつがいきなり襲いかかってきたので、びっくりして竜に特効のある炎を生み出す【ドラゴンキラー・ファイア】というえげつない【火】属性魔法陣で返り討ちにしてしまった。
さすがにやりすぎてしまったと思い応急処置を施し、それ以来どうも懐かれているのだった。
というわけで、すぐ目の前に風竜がいる状況でも地竜は話を聞く姿勢を見せてくれている。
「単刀直入に言うが、とりあえずこの場はこの風竜は見逃してくれ。うちのバカ弟子がやたらと気に入ってるみたいなんだよ」
『それは兄貴の頼みでも聞けないッスよ。俺ら地竜にとって風竜は敵ッスからね。俺らが地面を這いずってるのを尻目に悠々と飛んでいくこいつらを見てると腹が立って仕方ないんス……!』
そう言って(念じて?)地竜はふーさんをギロリとにらんだ。地竜の風竜に対する恨みは深そうだ。
ならまあ、ここは譲歩してやるか。
「心配すんな。こいつはうちで飼うよ。お前はうちに近づかないでいてくれたらいい」
『けど、ここはもともと俺の縄張――』
「地竜の肉って焼くとうまいらしいな」
『――りッスけど、兄貴の頼みとあらば断れないッスね! わかりました! それでいきましょう!』
「はっはっは、俺は話のわかる弟分をもって幸せだよ」
『そッスか! それは光栄ッスよ! あっはっは!』
俺につられるようにして地竜が半ばヤケクソっぽく地響きのような笑い声を上げている。
「い、一体どんなやりとりをしてるんでしょう……?」
『キュー……』
そんな俺たちを見て、ミアと風竜が若干引いていた気がする。
×××
というわけで、なし崩し的に風竜を飼うことになった。
まあ一度言ったことだし、そう言ったときのバカ弟子の喜びようを見たら今更ナシとは言えない。
今の我が家では風竜なんぞ飼うスペースはないし、この際また家を増築してやろうか。
土地はいくらでもあるし、建築用の魔法陣も作ればいい。乗りかかった船だ、この際それくらいやってやる――と、まあ、俺はそんなふうに思っていたわけだが。
「……なあ、バカ弟子」
「何ですか? あ、声は小さめでお願いします。ふーさんがせっかく寝てるのに起きてしまいます」
「ああ、おう、わかった。で、これ何?」
俺はすぐ目の前にいる生物を指さして訊いた。
ミアが作った犬小屋モドキに入って、すうすうとかわいらしい寝息を立てている――子犬サイズの風竜を見て。
ミアは俺の質問に『何を言っているんだ』と言わんばかりの表情を浮かべて、こう言った。
「何って、小型化したふーさんです。ふーさんは自分の体の大きさを自由に調節できるのですよ」
「先に言え!」
一日十五回更新チャレンジ達成率 → (15/15)
ミッションコンプリート! 次回更新は僕の体力が回復したときに。




