最近、弟子の様子がちょっとおかしいんだが➃
×××
「はい、いらっしゃい」
リッカに紹介されてやってきた魔法素材の店で、俺は見知った顔と再会を果たしていた。
俺は目をぐしぐしと手の甲でこすりつつ、
「……おかしいな。疲れてんのかな俺。店の中にオークがいるのが見える」
「誰がオークだ……って、ああ! あんた、あの時の!」
店番をしていたらしいおっさんが大声を上げていた。
俺が転移魔法陣でやってきたのは、ラドルク樹林からほど近い場所にある村。
この村は現地から魔法素材を採集し、シャレアなどの別の場所に売ることを主な産業にしている。いわば魔法素材流通の発信源というべき場所だ。
リッカに指示されたのはその村にある問屋のひとつ。
で、そこに行ってみたら、なんとそこで店番をしていたのは以前火熊の件で知り合ったおっさんだったのだ。意外な縁もあるもんだな。
「久しぶりだな、オークのおっさん。元気だったか?」
「まず人を自然にモンスター呼ばわりするのをやめろ兄ちゃん。……ああ、まあ元気だったよ。おかげさまで」
おっさんがいるカウンター越しに社交辞令的な挨拶をかわし合う。
店の内部は店主の外見に似合わず清潔で、木造の壁際にはいくつも棚が並んでいる。
その棚にあるのは魔鉱石やらモンスターの素材やら、魔法技術研究に関するものばかりだ。ここは問屋――卸売業だったはずだか、どうやら商品の売買もいくらかはやっているようだ。
「で、何しに来たんだ兄ちゃん? まさかわざわざ挨拶ってこともねえだろう」
「ああ、そうそう。リッカに言われてきたんだけど、『シグレ・ジウ』あての魔法素材ってもう用意できてるか?」
「ああ、あれか。悪いな、わざわざ取りに来させて。すぐ取ってくる」
そうきまり悪げに言っておっさんは店の奥に引っ込んでいった。
「そういや手続きで何かミスがあったって言ってたけど、何かマズいことでもあったのか?」
店の品物を物色しつつ、店の奥に向かって声をかける。
「ああ、何でもここ最近山の様子がおかしいらしくてな。素材集めがうまくいってねえんだ」
「山の様子?」
「猟師の組合い連中から聞いた話なんだが、なんかモンスターの分布が崩れて来てるんだと。本来なら山の奥にしかいないような種類が山を下りてきたりしてるせいで、弱いモンスターは隠れちまってるらしい」
「は? おいそれ大丈夫かよ。火熊のときと状況が似てるってことだろ?」
「今回は大丈夫だ。領主様の兵がヤバいモンスターは間引いてくれてるからな」
「ふうん……」
物騒な話だな。ま、前回は対応が遅れてたみたいだが、ラドルク山脈はこの領地の重要な資源だし領主も本腰を入れて対処するだろう。俺の出る幕じゃない。
「……ん?」
そんなことを話しながら店内の商品を物色してると、何やら小瓶に入った薄茶色の粉末が目に止まった。
商品名は「竜鱗粉」。
竜由来の素材か。
「はいお待ちどう――って、兄ちゃんどうした? その商品が気になるのかい」
「まあ、色々な意味でタイムリーだからな」
店の裏から茶色の紙にくるまれた品物を持って戻ってきたおっさんは、その紙包みをカウンターに置いてから俺の手元を覗き込んできた。
「何かと思えば竜の素材か。まあ、ここ数年めっきり減っちゃいるが、入り用なら多少は融通するぜ」
おっさんの言葉に俺は違和感を感じた。
「減ってる? この商品がか?」
「いや、竜自体がだ」
「もともと生息数が少ないだけだろ?」
俺が言うと、おっさんは意外そうにこっちを見てきた。
「何言ってんだ。今や竜なんてめっきり数を減らしちまってほとんど市場に出回ってないんだぜ。なんせ魔王との戦いでほとんど死んじまったからなあ」
「大半が死んだ? そんな事件あったか?」
俺の家の周辺に少なくとも二匹いることが確認されているため、俺の声も半信半疑だ。
「何だ、本当に知らねえのか。ほら、竜って縄張り意識が強いしプライド高いだろ? だから魔王にも従わずに、むしろ歯向かってたんだが、いくら竜でも魔王なんて化け物に勝てるわけねえし、どんどん殺されていったわけだ」
「……へ、へえ」
「中でも風竜は一番減っててなあ……気性もおとなしく、頭が良くて人懐っこい。竜の中じゃあ一番荒事が苦手だったから、巻き込まれてたくさん死んじまったんだろうな。気の毒なことによ」
「ふ、ふーん。風竜ねえ」
……こういう話を聞くと、さっき見た風竜も邪険にしづらい。
いやまあ、だからって俺には関係ないけどね? ほら、悪いのは魔王だし。そうそう、だいたい何もかんもあれが悪い。
「あ、そうそう、風竜で思い出した」
まだ何かあるのか。
「べつにあんたを責めるわけじゃねえが、魔王討伐パーティーに追い詰められた魔王が一時期風竜のたくさんいるところに住み着いたらしいんだよ。その時にまたたくさん殺されたらしくてなあ……その後もたびたびあんたらの大規模な戦いに巻き込まれて、流れ弾で結構死んじまったんだと。今や風竜は絶滅寸前って話だ」
「……へえー」
……なんか申し訳ない気分になってきたなあ。
「ま、与太話はここまでだ。ほら兄ちゃん、これ持って帰った帰った」
そんな言葉に見送られ、俺は魔法素材店を後にした。
×××
「……ふむ、ミアはまだ戻ってねーな」
俺が自宅に戻るとミアはいなかった。
誰もいない庭にぽつんと残された犬小屋(?)がシュール過ぎる。
それにしてもあいつは本当にこの小屋で風竜を匿うつもりだったのか……? 我が弟子ながら末恐ろしすぎるな。
さて、あいつが風竜に乗って飛び去ってからそこまで時間は経っていないはずだ。そのうち戻ってくるだろうが、もう戻ってきたら風竜を飼う許可くらい出してやろうかなと俺は思いつつある。
あんな話を聞かされちゃなあ。
と、そんなことを考えている俺の鼓膜に派手な音が響いてきた。
俺は経験上こういうでかい音が何なのかすぐにわかるようになっている。
――戦闘音。
しかもけっこう大規模な。
「ったく……」
音のした方を見ると、上に向かって飛んでいく巨大な岩石の砲弾がいくつも見えた。
あれは見覚えがある。以前戦った地竜の魔法だ。
上に向けて撃っているとなると、地竜の標的は空を飛んでいるらしい。
トラブルの気配を感じて、俺は音のする方に向かう。
一日十五回更新チャレンジ達成率 → (14/15)
次回更新は一時間後です。




