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20/88

最近、弟子の様子がちょっとおかしいんだが②

×××



 竜。



 魔法を扱う生物、つまり魔獣(モンスター)の一種だ。



 ゴブリン、オーク、キメラ、コボルト、トレント――この世界には数多くのモンスターが存在しているが、そんな有象無象とは比べものにならない知名度、戦闘能力を有しているのが竜という生き物である。



 なにせ硬い鱗による高防御、鋭い牙や爪による殺傷性能、おまけに【地】【水】【火】【風】いずれかの魔法を操る正真正銘の化け物だ。



 その爪や牙、鱗などは高価な魔法素材として取引されるため、実力のある冒険者や賞金稼ぎなんかは竜を狩ろうと試みることもあるが、常人のかなう相手ではないため大抵は返り討ちに遭う。


 

 性格は基本的に好戦的で縄張り意識が強い。うっかり竜の住処に近づこうものなら問答無用でデッドオアライフを彷徨うことになる。このへんの認識としては、日本の感覚で行くと熊とかに近いかもしれない。



 とまあ、普通の人々にとって危険生物以外の何物でもない竜だが、一般的には岩山や森、海の底、火山といった竜がもつそれぞれの属性に縁のある場所に棲んでいることが多く、人と居住区はほぼ被らない。


 

 この世界の人間でも一生竜なんか見ない人のほうが多いだろう。



 俺はといえば魔王討伐の旅路の最中に否応なく何度も戦う羽目になり、対抗手段を自作するまではえらく苦戦を強いられたものだ。



 竜の強さは割と洒落にならない。もっとも、魔王ほどじゃなかったが。



 以上、竜の説明終わり。



 今現在バカ弟子の横にたたずんでいる竜は、鱗の色合いや全体のシルエットを見るに、【風】属性の魔力を扱える風竜だろう。風竜だから、『ふーさん』とは、我が弟子ながらなんという安直なネーミングセンス。



 いや、問題はそこじゃない。



「で、なんでおまえはそんなもん連れてんだよ」



 ちらと風竜を見上げる。すると、そいつのエメラルドじみた鱗に覆われている体のあちこちに傷があることに気付いた。……傷?



 俺の質問を受けたミアは、気まずげな表情のまま口を開く。



「それはですね……」



 ミアはぽつりぽつりと話し出した。


 

 ――要するに。



 

 この森の中で風竜と地竜が喧嘩していたところにミアが通りかかった。


 風竜がやられそうだったので、思わず逃げるのに手を貸した。

 

 それ以来森の端っこにある洞窟で風竜の怪我が治るまで世話をしている。




「――というわけなんです。黙っていてすみませんでした」



 話し終えたミアは、どこかバツの悪そうな表情をしている。昔ドラマか何かで見た、庭で親に隠れて飼っていた子猫が見つかって捨てられやしないかとびくびくしている子供みたいだ。

 


「……ふむ」



 俺はそんなミアの話を反芻する。



 ……そういえばこの森、地竜が住んでるんだった。



 三年前のことだ。



 住む場所を求めてこの森に俺がやってきたとき、縄張りを侵されたと勘違いしてもともとここに棲んでいた地竜が襲ってきたことがある。


 

 あのときは(武力で)和解して俺の力を認めてもらい、縄張りの中に家を建てることを許してもらったんだっけか。懐かしい話だ。


 

 いちおう俺がこの一件を今の今まで忘れていたのにも理由があって、というのもあの地竜という生物は普段地中に潜ったまま出てこないのだ。


 

 土中の魔力を食事代わりにする、という地竜の特殊な生態によるものだが、おかげで普段目に見える範囲に地竜が出てくることはほぼない。忘れていても仕方ないと主張させてもらう。



 で、先述のように竜というのは基本的に縄張り意識が強い。



 人間でもアウトなのによそ者の竜なんかが来たら、そりゃあ喧嘩にもなるだろう。どこか別のところからこの森にやってきた風竜が地竜に負けそうになって、そこにミアが介入したわけだ。



 と、ここまで考えて俺は違和感に突き当たった。



「……ん? 待てバカ弟子。ここのところお前の様子がおかしかったのは風竜の世話をしていたからなんだよな? なら、お前がたびたび泥だらけになってたり血まみれになったりしてたのって何だったんだ?」



 野菜は風竜にやっていたとして、泥や出血の理由がわからない。



 話を聞くかぎりミアは地竜から逃げるときも遠くから魔法を撃ってただけのようだし、ダメージを負う場面なんかなかったはずなんだが。



「それは多分、ふーさんと遊んでいたからだと思います」



「は?」



「えっと……つまりこういうことです。ふーさん!」



 ミアが唐突に傍らにいた風竜の胴に抱きついた。



 すると風竜もそれに応えるように首をもたげ、まるで子犬同士がじゃれあうように顔を近づけ――



 ガッ



「と、こんな感じでちょっとかじられたりすることがあるのです」



「俺はたまにお前ってすげー大物なんじゃないかって思うことがあるよ」



 流血沙汰のコミュニケーションを『遊び』と呼べるこいつはある意味凄いと思う。



 仲が良いようで何よりだが、話を進めよう。



「で、ミア。お前がそいつを連れてきたってことは、何か俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」



「そうでした!」



 頭をかじられたまま話を進めようとするお前に俺は感心すら覚えるよ。



「ふーさんの怪我はだいたい治っているのですが、このまま外に置いていたら、またいつ地竜にまた襲われるかもわかりません。ですのでお師様、お願いします! この子をここで保護する許可をください!」



『キュー』



 ミアが勢いよく頭を下げてきた。それを見た風竜もミアの頭を噛むのをやめて一緒になって頭を下げてきた。……礼儀正しい竜だな。



 俺は特に考えることもなく答える。



「よし、捨ててこい」



「即決!? ま、待ってください待ってください! どうして駄目なのですか!?」



「うちではもう犬を一匹飼っているからな。ペットはもういらないんだ」



「あれ? お師様、犬って誰のことですか? も、もしかして私のことですか?」



 ミアがびっくりしたように聞いてきた。



 今さら何を言っているのだろう。お前はペット枠だろうに。



「まあ冗談は置いといてだ。風竜がここにいるって知ったら地竜が寄ってくるだろ? それが面倒なんだよ」



 俺は言った。



 いくら周囲を柵に囲まれているといっても風竜を隠せるほどの高さじゃない。


  

 柵の上から出た風竜の頭を見つければ、喧嘩の途中だったという地竜が寄ってきて魔法をぶっ放してきてもおかしくないわけだ。


 

 で、抱えていて火種になるとわかっていて匿ってやるほど俺もお人よしではない。



「それなら大丈夫です!」


 

 何がだろう。というかお前が大丈夫か。風竜にかじられた出血がまだ止まっていないように見えるんだが。



「私に考えがあります」



「は? 考え?」



 聞き返す俺に、バカ弟子が自信ありげな表情を浮かべていた。


※サブタイトルの付け方を変えました。毎回考えるのがしんどくて……


一日十五回更新チャレンジ達成率 → (12/15)


次回更新は一時間後です。

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