わんにゃん
×××
ミアの誤解を何とか解いたあと、とりあえずリッカたちを客間兼居間に上げる。
席順は俺の隣にミア、テーブルをはさんで向かいにリッカ、その隣にカレンになっている。テーブルに乗っているのはリッカが持参してきたクッキーが盛られた皿と、ミアが淹れた紅茶が人数分。昼飯の時間帯にはまだ早いしな。
「で、いい加減説明しろよリッカ。その猫娘は何なんだ?」
リッカの隣の席でクッキーをひょいひょいと口に放り込んでいるネコミミ幼女を指ささしつつ聞いてみる。
「だから、私の弟子だってば」
「何でそんなことになってんだ? お前ついこの間まで家出王女の捜索してただろう」
リッカはティーカップに注がれた紅茶の水面を眺めながら、
「そうねー……簡単に言えば、この間第二王女捜索のために向かった王国東の街中でカレンが私に襲い掛かってきたのがきっかけかしら」
えらく物騒な出会いだな。
「カレンはもともと賞金狩りだったのよね。それで何となく私が強そうに見えたから、腕試しがしたかったらしいわ」
「ふうん……」
賞金狩りってのは国や各地の領主が懸賞金をかけてる盗賊なんかを捕まえて、その報酬で生計を立てている連中のことだ。
魔王討伐軍が解散されて以降は各地で傭兵くずれの盗賊が増えたため、賞金狩りは結構需要がある。腕っぷしさえ強ければ誰にだって務まる仕事だしな。
「けどあれって強いやつしかできない仕事だろ? あんなガキにできるのかよ」
「あら、小さいからってバカにするのは止めた方がいいんじゃない? あの魔王を倒したパーティーも、四人中三人が当時は十五歳の子供だったらしいわよ」
「それもそうか」
確かに俺たちが『子供=弱い』って言うのはブーメラン以外の何物でもないな。
しかしこいつが賞金狩りねえ……
俺は頬杖をついて斜め向かいに座っている金髪褐色ネコミミ娘を眺める。
金髪褐色ネコミミ娘、もといカレンは俺たちのほうなど見ていなかった。
じっ (ミアを凝視するカレン)
? (首を傾げるミア)
じっ (ミアを凝視するカレン)
へにゃっ (とりあえず笑みを浮かべるミア)
にぱっ (つられて笑みを浮かべるカレン)
ガッ (それを見て唐突に自分の胸を抑えるリッカ)
「……癒されるわ……」
「お、おう。よかったな」
リッカがうっとりと犬娘と猫娘のやり取りを見ている。仕事疲れの激しい社畜にはアニマルセラピーの効用は高そうだ。
「で、リッカ。話の続きは?」
「ああ、そうね。カレンは腕試しで私に襲い掛かってきたんだけど、返り討ちにしたわ」
その光景が目に浮かぶな。
「最初新手の盗賊かと思ったのよ。でもまあ子供だし、衛兵に突き出すほどのことじゃないかと思ったから厳重注意で済ませようと思って話をしてみたんだけど……そこでこの子が賞金稼ぎだってことがわかってね。強くなりたいって言ってたから、それなら弟子にしちゃうかーって感じで」
「随分気軽に弟子入りさせるもんだな。前に『仕事が忙しいから構ってあげらせない』とか言ってなかったっけ?」
何せ今のリッカは王国お抱えの顧問剣士にして国王の懐刀的ポジションという王国きっての要人だ。兵の訓練、貴族様の剣の指南、トラブル対応、要人の護衛などこいつの仕事は数え切れない。
こいつが以前言っていたとおり、弟子なんぞとっても教えてやる時間なんてないと思うんだが。
「その子は特別なのよ」
「あん?」
聞き返した俺に、リッカはさらりと告げてくる。
「試験を受けたわけでも手続きを受けたわけでもないから正規の軍人ではないけど、王国軍の兵士たちに混じって訓練させてもらえるよう国王に掛け合ったわ。個別に教えてあげられる時間は少なくても、それなら十分修行になるでしょ?」
「兵士たちに混じってって……このちっこいのが?」
むさくるしい男どもと一緒に走り込みやら剣術やらを学ぶネコミミ幼女。シュール過ぎて想像がつかない。
つーかついていけるのか? 軍人の訓練ってそんなぬるいもんじゃないと思うんだが。こんな子供が混ざってやっていけるようにも思えない。
「そうね。せっかくだし、試してみる?」
「にゃ」
リッカが隣に座るカレンの頭にポンと手を乗せると、カレンは猫みたいな声を上げてリッカを見上げた。やや鬱陶しそうにしつつもまんざらでもなさそうな感じに見える。仲がよさそうだ。
「お師様お師様」
「やらないからな」
「!?」
なお、そんな二人を見たミアが物欲しげにこっちを見てきたがそれはバッサリ断っておく。
ミアは何やら衝撃を受けたようだが、突っ込むのも面倒なので放置の方向で。
「で、リッカ。試すって何を?」
「決まってるじゃない。この子の実力よ」
リッカはそう言ってにやりと笑った。
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