拠点2(浜辺)
「う~~~み~~~だぁ~~~!ってな感じでもないな」
「とか言いつつ、しっかり叫んでいるんじゃなぇか」
「望もやるか?結構癖になるぞ」
「俺はやめとく、興味はあるが嫁さん達の目が怖い」
「・・・・おう」
師匠が周りにいる人達の視線に気付いて、身体を小さくしているのを見ながら、ケント達が昨日解放した浜辺を見渡す。
師匠達が僕達を連れて来たかったのは本来はここらしくて、砂浜には今の拠点として使っているノゾムおじさんが急遽作った家よりも立派な屋敷が建っていた。
昨日ケント達が浄化する範囲にこの場所はなかったのらしいが、森を歩いているとこの屋敷が見えた事で急遽進路を変更したらしいのだ。それで、ミリルさんが浄化の魔法を使い過ぎて、ケントに背負われて帰ってきたのだ。
その甲斐もあってか、屋敷を中心とした浜辺は浄化で綺麗になっていたが、少し森に入ると浄化しきれていない瘴気が漂っているのが分かるし、海の方もなんか変な風になっていた。
「手前の方と、奥の方で海の色が違います」
「その境界線で結界のようなものを感じるわ」
僕と同じ所を見ていたのか、ミヤとマリルがそう呟いていた。
師匠が、叫ぶことを途中で止めたのもこの光景があったからだ・・・・と思いたい
手前の海側は、瘴気によってどす黒い色になっているけど、マリルが言った境界線の向こう側は綺麗な色をしている。
「お父様、これだと浜辺の方は使えますが、海の方は・・・」
「すみません、お師匠様。流石に海まではまだ浄化できていないのです」
リースとケントの二人が師匠にそう伝えると、小さくなっていた師匠が気を取り直して、元気よく立ち上がった
「大丈夫だ!海の方は今から浄化すれば問題ない。それにケント、昨日も言っただろ?確かに、お前達がこの場所を解放してくれたことは嬉しいが、無理はするな」
実は、昨日ケント達は師匠達に一度怒られている。
予定の経路を外れたばかりではなく、独断で別の場所を浄化したからだ。
島全体を浄化するためには、ノゾムおじさんが創った杭を規則的に地面に打ち込まないと、マリー様の浄化の魔法が島全体に行き渡らないのだ。
だから、昨日の僕達はシェルムのお陰で早く進んだのにも関わらず、皆と足を揃える為に途中で止めたのだ。
幸いこの場所は、ケント達が予定していた所よりそれ程離れていない場所だった為、何とか修正は効くらしい。
そして、一番師匠達が怒ったのは、危険な事をケント達が独断でしたことだ。
この島は、まだ何が起こるか分からない危険な場所なのだ。安易に行動してしまって、何かあってしまったら命を失う可能性だってあるのだ。
その事を、ケント達はみっちり教えられ、ついでと言わんばかりに、僕達もその話を聞かされることになったのだ。
まぁ、師匠達も僕達の事が心配で言っている事だし、ためになったのだけど、疲れて早く寝たかった僕には少しきつかった。
「でも、お父様、海の中の浄化なんて一体どうすれば良いのですか?海の中にはまだ魔物がいるみたいですし、海の中で戦うとなるとかなり危険だと思うのですが」
一応、僕達も色々な場所で戦えるようにと師匠の修行で連れ回されていて、海の中は流石になかったけど、水中の中での修行はしたことがある。
だけど、陸の上でも満足に戦えない僕が水中で動ける訳もなく、リース達もかなり苦戦していた様子だった。
師匠なら、海をカチ割ってどうにか出来そうな気もするけど・・・・
そう思いながら、師匠を見ていると師匠は何も迷う素振りもなく、ある一人を指さした
「いるだろ、水中のスペシャリストが」
「え?私?」
師匠に指さされた本人は、皆が一気に注目された事で驚いていたけど、周りのみんなは納得したように頷いていた。
「確かに、クーナなら水龍の加護というか憑依すれば問題ないと思いますけど、まだ力の調整が出来ていないのではないですか?」
憑依能力という特殊な能力を持っているクーナは、師匠に連れ去られて、海で暴れていた水龍の魂を己の身体に宿している。その魂を、自分に憑依させる事で、物凄い力を発揮することが出来るのだけど、まだクーナはその力を完全に自分の物にしていない。
「確かに、クーナさんはまだ思いっきり殴り飛ばすしかできないよ。でも、マコトが言うなら何か考えがあるんだろうね」
ミリアとクーナと一緒に浄化して回っているルックさんも、少し心配そうな表情をしている。
「あのな、お前達忘れていないか?水龍は本来海の中にいるんだぞ?陸地で力をコントロール出来なくて当たり前だろうが」
「じゃぁ、私は何でずっと陸地で修行をさせられていたのよ・・・」
クーナが少し肩を落として落ち込んでいる。
確かに、今まで師匠はクーナに対して水中戦の修行はさせていなかった。
もし、師匠が言う事が正しいのであれば、水中で修行させてから力の使い方を学んだ方が早いような気がするけど・・・
「水龍の力を使うのが人間で陸地で生活しているからだ。そして何より、王都の周りに水辺はない。まぁ川はあるけどな。力を使いやすい環境で修行をしても良いが、その戦い方が癖になって、”強力な力を持っているけど戦う場所を選んでしまう”ってことになるぞ?それじゃ、意味がないだろ」
「・・・まぁそうですけど」
師匠が言った事に一理あると思ったのか、クーナは少し気を取り直したようだ。
「でも、流石に一人で任せる訳にはいかないからな、どうすっか・・・・・やっぱりミリアとルックが適任か」
「まぁ、そう言うと思ったけど」
ルックさんは師匠が自分を指名すると分かっていたのか、少し苦笑しながら水の大精霊を顕現させていた。
「何で私まで」
ミリアは師匠に呼ばれたことが不満なのか小さく呟いていた
「お前の中に”魚か水中が得意な種族の血”が混ざっているだろ?だからだよ」
「何で、貴方にそれが分かるのですか。いい加減な事を言わないで」
「混ざっていないのか?お前の母さんを滅茶苦茶にしていた奴らの中に、そう言う系の魔族がいたんだがな」
「貴方はっ!」
「勘違いするなよ。俺達はお前の母さんを助けた事は忘れていない。それ程、胸糞悪い光景だったからな」
「だったら」
「お前の婆さん当時の魔女がこれ以上関わるなと言ったからだ。まぁ、その言葉に甘えて呑気に暮らしていたのは本当だけどな」
「っ!もういいですわ!」
ミリアは師匠の言葉を遮って、一人でズンズンと海に向かって歩いて行く。
師匠の言葉や僕達に見られるのが嫌だったのだろう
「ちょ、ちょっと待ってよ。私も行くんだから」
「マコト、そんなに彼女を煽らないで下さいよ。フォローするのはこちらなんですよ」
慌ててミリアを追いかけるクーナとルックさん。
師匠はルックさんの言葉に苦虫を嚙み潰したようは表情になって
「俺には、そのフォローする資格すらないんだよ」
小さく呟いた。ルックさんはそんな師匠の肩を軽く叩いて
「そんな資格は、私達の誰も持っていないんですよ。持っているとしたら、私達の子供でしょうか?」
そう言って、僕達から離れて行った。
一足先に海に辿り着いたミリアは、躊躇なく着ていた服を脱ぎ捨てって!
「ミリア何しているの!」
「海に入るのに服が邪魔だから、脱いでいるのです」
「だからって、皆が見ている前で」
「・・・この私の姿をみて欲情する人がいればですけどね」
クーナが慌てて、ミリアの姿を隠そうとするけど、ミリアはそんなクーナを無視して海の方を振り向く。
その際に、一瞬だけ僕と目が合ったような気がするけど確信はない。
その目が、恐れや憎悪、覚悟といった色々な感情が乗っているような気がしたのだけど・・・
「あ」
そんな下着姿になったミリアの姿が徐々に変化していくのをみて、驚いて声を出してしまった。
白く柔らかそうな肌が、徐々にくすんでいき鱗の様な物が浮き上がってくる。
手と足に刃のようなヒレが現れ、顎の下らへんが徐々に出っ張り、エラみたいなものも現れた。
顔も魚みたいに少し出っ張り、目もぎょろりとしたようなものになった。
刃魚人族
全身を刃の鱗やヒレで覆われている魚人族の一種。
元は亜人族として認められていたが、姿が人とかけ離れている為、迫害対象になり魔族が住んでいる地まで逃げるしかなく、そのまま魔族として迎え入れられた種族。
実物は初めて見たけど、師匠が渡した本(本来は貸出禁止)や話から聞いていてその種族の存在は知っていた。
確かに、人とはかなり違った姿をしていて、ミリアの面影もあまり感じないようになったけど、嫌悪感は全く感じなかった。
ミリアはそのまま海に入って行こうとしたから、慌てて僕はミリアに声を掛けた。
その姿が、僕達から変わってしまった姿を隠そうとしているようで、僕達から否定の言葉を聞きたくない様なそんな弱いミリアの姿に見えたのだ。
「ミリア!気を付けて!」
「っ」
僕の言葉に反応したのか、少し肩をびくつかせてからミリアは海の中に入って行った。
「・・・女は度胸!」
「そんな事しなくても、ちゃんと隠してあげるから」
クーナもミリアに続こうと、服を恥ずかしそうに脱ごうとしたら、ルックさんが苦笑しながら砂の壁を作って、僕達からクーナを隠した。
それから、少しして顔を赤くしたクーナが水着を着て水龍の憑依状態で出てきた。
髪が綺麗な青になり、肩までの長さが膝まで伸びて、頭から角が生えていた。
水龍の憑依状態の恩恵なのか、クーナの周りに薄いベールの様な物が浮いていて、元のクーナの可愛さもあって凄く神秘的で可愛らしい姿になっていた。
「わ、私も行きます!」
僕達の視線が気になったのか、慌てたようなに海に入って行くクーナ。
海の中でミリアと合流して何やら話しているようだけど、流石にここから声を聞くことは出来ない
「じゃぁ、そろそろ行こうかな」
ルックさんも水の大精霊と共に、そのまま海の中に入って行った。
その後の事は、僕達から見える事はなかったのだけど、凄い戦いがあったという事だけは分かった。
何故かと言うと
「うぉ!今度は鮫みたいクジラが吹き飛んで来たぞ!」
「これはイカか?クラゲか?」
偶に海面から吹き飛ばされる、海の魔物が見えたり
倒されて海に浮かび上がってくる魔物の数が異常だったり
「ま、また津波が!」
「今一瞬、海が割れなかった?」
大きな津波が押し寄せたり、海が割れたりと僕の想像以上の事が起こったからだ。
「ふん、この姿はもう二度となりませんわ」
「まぁまぁって、ミリアはまだ下着なんだから、着替える前にその姿を解いちゃダメ!」
不機嫌そうなミリアと水龍の力を思った以上に使いこなすことが出来たのか、上機嫌なクーナが海から上がってきて
「一応、杭を打ち込んできたよ。これでこの周辺だけは大丈夫でしょう。水の精霊も放ちましたし」
徐々に綺麗な色に戻ってくる海から、最後にルックさんが戻ってきて海の浄化が限定的とはいえ済んだのだ。
そして、僕は嬉しいような困ったような状態になっている。
森、砂浜、海を浄化したと言っても、この島全体を完全に浄化した訳でもなく、危険はまだ去っていない。
特に、この現象が人の手によるものだという事で、犯人を捕まえるまでは油断はできない。
というのもあって、師匠達大人組は見回り兼緊急時の対応をする為に今回は海で遊ぶことはしない。
まぁ、放置されていた屋敷のチェックや掃除をする為に何人かは屋敷の中に入って行ったけど。
僕達も、師匠達が見守ってくれているとはいえ、完全に油断することができなくて、チームに分かれて遊ぶチームと警戒するチームに分かれる事になったのだ。
チーム分けをするときに少し揉めたが、結局は島を浄化するチームで別れる事になり、昨日一緒のチームだった、リース、シェル、ファルと一緒になったのだ。
初めは、ケントチームとサヤチームが遊び、僕達のチームと海を解放したクーナとミリアが警戒することになった。
クーナとミリアは休憩という意味もあり、二人の分まで僕達が頑張る事になったけど、師匠達もいる中で大きな事件はなく、そのまま僕達が遊ぶ時間になった。
そこで、少し問題というか困った事になったのだけど
「私は運動はちょっと・・」
「シェルムがいるなら私も・・・それに遊ぶと言っても何をすればいいのか分からないしな」
「私は、さっきまで海の中にいましたのでまだゆっくりしていたいです」
「私もミリアと同感。まだゆっくりしていたい」
「私も遊ぶよりは、ゆっくりしていたいけど・・・・」
シェルは運動が苦手、ファルは遊び方が分からない、ミリアとクーナは疲れたから休みたい、リースもあまり体を動かすのは嫌みたいで、僕もどちらかと言えば、ゆっくりしたかったのである意味、纏まったチームになったなぁと思っていたのは最初だけで
「では、皆さんで一緒にお話をしましょう」
とシェルが言った事で女子会が隣で始まったのだ。
その話の中で、ちょくちょく僕の話が出て来て、恥ずかしい気持ちになりながらも楽しんでいたのだけど、海を解放するために力を使っていたクーナとミリアが睡魔に負けて眠ってしまったのだ。何故か、僕の方に寄り掛かってだ。
二人とも水着に着替えていて、肌の露出は多い。海に入らず浜辺で座っているだけだから、薄い上着を着ているけど、それでもかなり気になってしまう。特に、ミリアの姿には目が引きつられてしまい、慌てて目を逸らしてしまう。
「あら、お二人とも疲れてしまわれたようですね」
「ま、あれだけ暴れていれば仕方がないような気もするが」
「だからって、何でアルトの方へ倒れるのかしら」
シェルが頬に手を当てて微笑ましいような顔で見て来て、ファルが仕方がないように首を振り、リースが少し嫉妬したような声で小さく呟いていた。
だからと言って、僕が何かできるかと言われるとそうでもなく、二人が倒れないように支える事も出来ずに、身体を固くして手足も動けない状態なのだ。
「ん~」
「む~」
「うわぁ!」
僕が二人を支えなかったのが原因なのか分からないけど、自分の身体を安定させたいのか寝ている二人が小さく唸りながら僕の身体に抱き着いて来て、徐々に下へ下がって行く。
僕の身体のあちこちに、腕や胸が当たり女性の身体の柔らかさを意識してしまうと同時に、徐々に二人の水着がずれて行くのがかなり気になる。
「あら~」
「うむ」
「はぁ~」
見ていた三人も困ったような表情になり、助けてくれるのかと思えば、三人は僕の後ろに移動してきた
「あの、出来れば二人を離してくれると嬉しいのだけど」
僕は勇気を振り絞って三人に声を掛けるが、三人は反応してくれなかった。
そして
「うぁ・・ちょっと三人とも!」
「静かにしてくださいね。お二人が起きてしまいます」
左の肩に寄り掛かっていたミリアが僕の太腿に頭を乗せた事で、自由になった左腕にシェルが抱き着いてきた。
僕の腕がシェルの胸に挟まれ、凄く緊張してしまう。
シェルも恥ずかしいのか、水着から見える肌が段々と赤くなっている。
「アルトがいけないのよ。勇気を絞って告白した私達を放置しているから」
「そ、それは」
右の肩に寄り掛かっていたクーナをミリアと同じように僕の太腿に移動させたリースが、自由になった右腕に抱き着いてきた
シェルにも負けない柔らかい肌を感じで、それが特に初恋の人だと意識してしまい、頭の中がグルグルと回り出す。
「アル殿にも考えあるのは知っているが、偶には私達も構って欲しいって私は何を言っているだろうか」
徐々に、後ろに倒れてしまっていた身体を後ろから抱きしめるように支えてくれたファルが少し拗ねたように言い、慌てて誤魔化そうとしていた。
「ははは・・・」
皆の好意は嬉しいし、僕の我儘に付き合わせている事は悪いと思っているけど、だからと言って、これはやばい
魅力的な女性が、僕に好意を抱いてくれる人達が、好意をままに抱き着いて来たのだ。しかも、露出が多い水着を着てだ。
嬉しいような、申し訳ないような、ドキドキして、身体が熱くなってきて、そしてとうとう
「も、もう無理だ」
我慢の限界を超えて、リース達に・・・・・
おまけ
「このまま、魔力の補給をしてしまいましょうか?・・・あら、アル様が寝てしまったわ」
「寝たと言うか、気絶が正しいと思うのだけど」
「アル殿も疲れていたのだろう」
「・・・二人とも少し鈍過ぎないかしら」
「?」
「?」
「いいえ、何でもないわ。それに二人の無垢な行動がきっかけになるかもしれないね」
「ところで、先程から動きたくても動けない二人に何で動かないのか聞きたいのだが」
「は、恥ずかしいからよ」
「一生の不覚ですわ」
「まぁ、お二人とも疲れていたのでしょうから」
「だ、だからと言って、アルト君に寄り掛かってなんて」
「そうよ、何かの間違いなのよ。私が人前で隙をみせるとか、何より男に寄り掛かるなんて」
「はいはい、そう言うのはいいから、恥ずかしいのであれば、すぐにどけばいいでしょう」
「と、言いつつ何故、私達を抑えるの」
「浜辺は風が吹いて少し寒いですからね」
「り、理由になってない!」
おまけ2
「何あれ!?けしか羨ましい状態は!」
「本音がただ漏れだな」
「欲望には素直に!・・・まぁいいさ。ところでこの結界はどうなんだ?望が創ったんだろ」
「誠も一緒に弄ったじゃねぇか。ちょっと待てよ・・・・結界自体の能力は変わっていないな。周りから察知されないのも、魔力を循環させるのも変わらない。ただ、新しい能力を”追加”されただけだ」
「それが瘴気だと」
「周りから見えない、感知されない、魔力を循環させる結界があるとなると、まぁ瘴気を使って魔獣を産み出すのにはうってつけの場所だわなここは」
「それにしても”追加”か・・・考え方によってはこの結界に瘴気を産み出す能力を”譲渡”したとも考えられるな」
「じゃぁやっぱり新しい”魔王”か」
「”魔王”かただの”対象者”かどうかは知らんけどな」
「ま、瘴気をばら撒く奴だ。俺達とは違った立ち位置なのは確実だな」
「ああ、だから対となる者、対象者なんだよ」
「さてと、その余計なものを”消去”で消して・・・」
「気付くかな」
「まぁ、気付くと言うか、気付いていたんだろうな・・・結界内に異分子を見つけたぞ」
「成程、じゃぁお邪魔虫を追っ払うことにしようか」




