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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
これまで、そしてこれから(過去編)
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ノアの場合(2)

私達が仕える筈だったご主人様であるイノウエマコト様に出会ってしまい、最後の悪足掻きとして仕える筈のご主人様に対して不機嫌さを隠さないなどあるまじき行為をしてお爺様に叱られてしまう。

だけど、心の準備がまだ出来ていない時に出会ってしまったのだから少しは許して欲しいと思う。


マコト様が私達の事を必要ないと言われた時は、嬉しいと思う反面、少し悔しい思いもしたけどどうやら私達が仕えるという話が無くなりそうで少しホッとする。

だけど、そうなればフィーナ姉様達の事が本当に無駄になってしまう為、凄く複雑な気持ちになってしまう。

お爺様もその事を懸念しているのか、今までにない位私達をマコト様に売り込んでいるけど、マコト様は私とジルの反応をみてやはり首を横に振っている。

思っていたよりも良い人かもと思っていたら、マコト様の後ろにいた私達と同じぐらいの男の子を前に押し出して


「俺の弟子一号です。っていう事で今からお前がこの二人のご主人様になったから」


と言って来た。


「それは・・・」


それにはお爺様も驚いてしまい、言葉に詰まっていた。


「師匠!何してんですか!」

「何って、この人がどうしてもそこの二人を引き取って欲しいと言うから」

「だからって、何で僕なんですか。師匠がダメならリース達でもいいじゃないですか」

「リース達は強くて自分の身は守れる、お前は弱い。それが理由だ。どうやらこの二人は結構強いみたいだぞ?俺から見てもお前よりは強いと断言できる。」

「ぐっ・・で、でも、僕なんかが・・・」


お爺様は慌てて考えているのか無言になったので、目の前の二人の会話が聞こえてくる。


「やっぱり、僕には必要なと思います」


ただ、名前も知らない男の子が言ったこの言葉には少しムッとしてしまう。

私達の一族の事を知らないとしても、専属の従者やメイドが付くことは一種のステータスみたいなものだ。

マコト様みたいな有名の人が私達を要らないと言っても、まぁ仕方がないと思う事が出来るけど、

マコト様の弟子と言われる男の子からは何も感じる事が出来なくて、そんな人にまで要らないと言われると私とて持っているプライドが傷付いてしまう


「分かりました。ではこう致しましょう。これから数日マコト様のお弟子様に二人を仕えさせます。それで問題ないようでしたら引き取って頂くという事で」

「初めに言っておきますよ。俺には必要ないですからね。引き取って欲しいならちゃんとアルトを主人として扱って下さいよ」

「・・・分かりました。では、少し私共も準備がありますので今日の所は」

「分かりました。俺達は明日の昼には少しこの街から離れますので、ついて来たかったら門の所に来てください。南門の所ですよ」


マコト様は未だにブツブツ文句を言っている男の子を促しながら、店の中に入って行き、私達はお爺様に促されながら宿屋に向かう。


「はぁ~まさか拒否されるとは・・・」


宿屋に付くとお爺様は椅子に深々と腰掛けて大きなため息を着いた。

お爺様は頭を振って気持ちを切り替えたのか、私達の方を見た。


「儂もまだ納得はしていないが、フィーナ達の事を考えてもマコト様にお前達を引き取ってもらう必要がある。少し予定とは違うが、マコト様の弟子だというあの少年の傍にいれば、自然とマコト様の目に入る事になる。お前達がどれ程優秀なのか分かれば、マコト様も気持ちが変わる筈だ」

「・・・お爺様は何故それほどまでにマコト様に拘るのですか?英雄様にお仕えさせることが目的であれば、他の方もいらっしゃるのですが」


今までも疑問に思う事があり、何度か聞いて来たけど「お世話になった恩返し」としか答えてくれなくはぐらかされたみたいに感じていたのだ。

だけど、今ならしっかりと答えてくれると思ったのだ。


「・・・お世話になった恩返しと言うのは嘘ではないが、儂は小さい頃から夢があった。困難に立ち向かう主人を陰から支えるそんな仕事をしたかった。今までお世話になった所に不満はないが、それでもそんな小さい頃みた夢は常に胸の中にあった。そんな中、マコト様と出会ったのだ。儂はすぐにこの人だと直感した。だが、儂はもう主を決めており歳も老いていた。だから、次の世代に託したのだ。」


その話を聞いて、何を勝手な事を思ってしまう。

私達はお爺様の夢を叶える為の道具ではないのだ。


「何を勝手な事をっと思っているとは思うが、儂はお前達を育てている内に儂と同じ気持ちがあると感じた。違うか?」


すぐに違うとは言えなかった。

何故なら私達の理想のご主人様像はフィーナ姉様達の影響もあって「誠実で努力家でこちらが支えてあげないといけない人」と「私達の力を必要としてくれる人」であり、具体的には「真っ直ぐに一直線で努力を忘れず、困難な事には私達が力を使ってでも思わず支えてあげようと思う人」なのだ。

だから、困難な事に対して主人を私達の力で支えていきたいという気持ちは理解することができる。

だけど、お爺様の気持ちと私達の気持ちでは決定的に違う部分があった。


「確かに、お爺様のいう事は理解することは出来ます。主人を支える立場の人から見ればそれは確かに夢のような物なのでしょう。ですが、やはり納得できない事もあります」

「分かっている。儂も急ぎ過ぎた。だから、数日間という期限を設けたのだ。これは、マコト様にお前達の優秀さを気付いてもらう為と、お前達がマコト様を見る為だ。数日でもマコト様と一緒にいればお前達も気付くことが出来る筈だ。一度、主と決めた者なら何があっても仕えるという一族の業ともいえる性格。その身で感じる事が出来れば・・・」


確かに、修行中も今も別な所で仕えている先輩達の話でも、自分達が心の底からその人を主だと決めたのなら、何が何でも仕えさせてもらうと一種の執念みたいのが湧き上がってくると言うのだ。

私達はまだ経験はないけど、お爺様のこの執念をみるとあながち間違いではないと思う。


「では、私達は明日の為に準備をしたいと思います」

「・・・そうだな。我が一族の優秀さをぜひマコト様に感じて貰わなければならない。失敗は許されないぞ」

「分かっております」


フィーナ姉様達の事もありますしと心の中で呟いて、ジルと二人で部屋を出て行く。

今から調べる事は沢山あるのだ。

宿屋に籠っている暇はない。


「取り敢えず、マコト様達が何をしにここまで来たのかを調べないと」

「店屋にいたから、何かを探しているのかも。あそこの店の人に聞いてみれば・・」


ジルの提案でマコト様達がいた店に向かって歩いて行く。

それだけではない。

マコト様は昼頃に街を出ると言っていた。

南門とは言ったけど、時間は言っていない。

だから、これは一種のテストなのだ。

私達がこれらの意図に気付いて、しっかりと対応できるのかマコト様は見ている。

望む所だ。

私達の力がどれ程か認めさせてやる

そう言う気持ちで、私達は街へと繰り出した。


そうそう、一つだけでもとても重要な事をお爺様は勘違いされている。

お爺様と私達の理想は近い所があるけど、途轍もなく大きな違いがあるのだ。


お爺様は、「困難な事にも立ち向かい、それを突破することが出来る人の傍でそれを支える」というもの

私達は、「困難な事にも立ち向かい、それを突破できなくても頑張り、それを支え自分達の力をも一緒に使いそれを突破する」というもの


そう、私達は元々なんでもできる「英雄」を求めていない。

私達の力を使って「英雄」になるような人であれば「英雄」でも構わない。

だけど、最初から「英雄」な人には興味はなかったのだ。

だから


「そう言う点では、一つ目は合格ですね」


丁度同じような事を考えていたのか、隣で歩くジルが話しかけて来た。


「そうね。だからこの数日で見極めましょう。マコト様ではなく、その弟子であるあの男の子を」


あの男の子からは強者としての雰囲気を全く感じる事が出来なかった。

だけど、マコト様はあの男の子の事を弟子だと言う。

そのあべこべ差がとても興味を引いていた。


「期待に応える事が出来るのはどちらか・・・」


マコト様が期待するのは、あの男の子に私達が相応しいかどうか

私達が期待するのは、お爺様には悪いけどマコト様ではなく、あの男の子が私達の理想にどれ程近いのか

こうして私達の今後が決まる、数日間が始まった。

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