ジルの場合(2)
昨日から色々準備をして南門の所でお爺様と一緒にマコト様達を待っている。
マコト様は昼頃と言っていたけど、正確な時間は分からない。
私達の考えでは、もう少し余裕があると思っていたのだけど、お爺様が「マコト様は人の考えの裏をかくのがお好きだ」と言われて、少し早めに待っているのだ。
「流石ですね。まさか、朝からずっと待っていた訳ではないのでしょう?」
「そのような事はしませんが、儂も歳をとってしまったのだと自覚していた所です」
マコト様達が来たのは、お爺様の予想と私達が経てた予想の丁度半ば頃の時刻だった。
私達の予想のままだとそのまま置いて行かれていたのかも知れない、だけど、お爺様の予想よりも遅かったためか、周りの人達から注目されてしまっており、今も何事かと盗み見をしている人達がいる。
私達は主人となる人の行動を妨げる事無く、周りの人達にも違和感を感じさせる事無く主人を支える事を第一としている。
それなのに、私達の予想では遅すぎで、お爺様の予想だと早過ぎてしまっていた。
だけど、その原因はすぐに分かった。
「あの~こんにちは。今日はよろしくお願いしますね」
「は、はい。こちらこそよろしくお願い致します。アルト様」
「え、何で僕の名前を」
マコト様の気配が大き過ぎてそちらに注意が向いてしまい、これから仕えるかも知れないアルト様の事に気が付かなかった。
慌ててアルト様に挨拶をするけど、本来であればこちらから先に挨拶をしないといけなかったのだ。
私は動揺する気持ちを抑えながら、これ以上の失敗はしないと思い質問に答える。
「メイドとして主人の名前を知っておくのは当然の事です」
「そう言うものなんですか」
「一流のメイドとして当然の事です」
呆気に取られているアルト様にノアが私に引き継いで答えていた。
と、言ってもアルト様の名前を知る事はそんなに難しくなかった。
何故なら、マコト様が店の人に話しかける時や普段の会話でもアルト様の名前を何度も呼ばれていたからだ。
その話の中で、アルト様の性格や好き嫌い等の話もちょくちょくされていて、それを元に時間も決めていたのだ。
すなわち、失敗の原因はお爺様と私達の予想の失敗の原因はどちらも主人の事しか考えていなかったのだ。
お爺様はマコト様を、私達はアルト様だけを考えて来られる時間の予想を立てていた。
だから、予想が外れたのだ。
それが分かると、私達の予想を裏切る様に張り切るマコト様をアルト様が必死になって止めるようにしている姿が目に浮かぶような気がしてくる。
「それじゃぁ出発するぞ。アルトは道は覚えているか?」
「何となくですが・・・あまり村から出た事がないですから」
「それもそうだな」
マコト様とアルト様が並んで歩いて行く後ろを私達もついて行く。
一応、アルト様達の目的地も知っている。
この街から少し離れた所にある小さな村に行くのだ。
その村は、数年前から人気になっている、宝石のような綺麗な石が多く掘り起こせる場所と有名になっている村だ。
その村がアルト様の故郷だという事、今回の目的は里帰りをすること。という事とは分かっている
だから、その村までの道も調べているし、その周りに出現するような魔物の情報も調べている。
だけど、それらを主人が聞かないのに関わらずこちらから言って出しゃばることなどしない。
あまりにも、無知で危険である場合は別ではあるけど
私達の役割はあくまでも主人の補助なのだ。
マコト様は勿論、アルト様も楽しそうに会話をしながらもしっかりと周りに注意を向けているから問題はないと思う。
だから、私達は緊急時に備えて心構えながら二人の後をついて行くしかないのだけど
「ジルさん達はこの辺に来た事はあるのですか?」
「い、いえ。私達も初めて来ました」
アルト様は時折私達の方を振り返って話しかけてくれる。
私は、何故かアルト様への返答だけ一瞬口籠ってしまう。
緊張?ではない
緊張で言うなら、アルト様の隣にいるマコト様の気配が大き過ぎてそちらの方に身構えてしまう。
アルト様の気配は、小さ過ぎず、大き過ぎずいたって普通の気配だ。
マコト様と並ぶと小さく感じてしまうが、アルト様の気配に気付けない程ではない。
だから、アルト様の気配に気付かず驚いていると言う訳ではない。
じゃぁ、何なのかと言われると、理由が分からない。
ノアに尋ねても分からないと言うし、そもそもノアはアルト様へに対して口籠る事はない。
お爺様もそうだし、私だけがアルト様に対して何かを感じているのだ。
その、”何か”が分からなく、ずっと考え込んでしまう。
「ジルさんは体調が優れないのですか?」
「い、いえ。そういう事ではないのですが」
そして、そんな私にすぐに気付いてアルト様が声を掛けてくれて、それに驚いてしまうという悪循環に囚われてしまっているのだ。
そんな感じで、アルト様に心配されたり、ノア達に呆れられたり、私だってどうにかしたくて頑張っていたけど、急には変われず、そのまま目的の村まで辿り着いた。
「師匠、ここが僕が産まれた村ですか?」
「何で俺に聞くんだよ。お前の故郷だろ?まぁ、ここ数年で変わったと言われていたからな、実感が沸かなくても仕方がないと思うが」
マコト様が呆れた様にアルト様に声を掛けているのを見ながら、私もそっと周りを確認する。
村と言うには大きく、街というには小さ過ぎる。
石を掘る為なのか色々な道具を担いで歩ている人達が多く、店も多く並んでいる。
道中のアルト様の話によると、人も少なく店なんかは一つもなく、自分達で育てた野菜か、狩りで取って来た獲物を食べて生活していたらしく、確かに、今のこの村の様子からはアルト様が説明してくれた村の様子ではない。勿論、いい意味であるが
ただ、それがアルト様にとって良いことなのかは分からないのだけど
発展途上の村の様子をみながら、不穏な気配がないかもしっかりと観て行く。
「・・あの山は」
その中で、今も人が出入りしている洞窟というかその山自体から微かに不穏な気配が感じられた。
「ノア、あの山か?」
「はい、お爺様。ただ、はっきりと感じる事が出来ません。もしかすると、反対側を観ているのかもしれませんけど」
「反対側か・・・少し調べてみるか」
私の気配を感じる特技は、自身に向けられている気配に関してはしっかりと捉える事ができる。
だけど、私ではない誰かや私がいるこの場所ではないどこかを観ている時には、気配は捉えることはできるのだけど、微かにか感じることが出来ないのだ。
特に、山や洞窟、遺跡などは出口も色々な所にある場合が多く、その不穏な気配がどちらを向いているのかが把握しずらいのだ。
「だから、頼むよ!俺見つけたんだ。大きな綺麗な石だった。それがあれば娘の薬代に充てられるんだ。許可を待っていたら他の人に取られてしまうかも知れない」
「そう言われても、許可されている範囲以外での採掘は認められていませんし。それ程大きな石であれば、しっかりと検査しないと落盤の危険性もあります。ちゃんと報告して下さったので、確認でき次第特別報酬が与えられますが・・・」
「それだと、間に合わないかもしれない!少しでも早く、娘を治したいんだ・・・だから頼む。あの石を掘る許可をくれ」
「困りましたね」
アルト様が戸惑ってしまって、これからどうするべきか考えていた時に、怒鳴り声ではない、だけど必死な声が聞こえて来て、自然とそちらの方を向いてしまう。
そこには、採掘道具を持った男性が杖を付いている男性に必死になって頭を下げている姿があった。
「貴方の気持ちは分かります。子供の命が掛かっているなら尚更です」
「じゃぁ!」
「だけど、許可はできません。そもそも、私だけに許可を貰っても仕方がないのですよ」
「それは知っている。だけど、あんたが首を縦に振ってくれなら残りの人達も・・・」
「・・・他の人達が私を信頼してくれるのは、私が簡単に許可を与えないからです。何故か?それは私も失敗したことがあるからですよ。攫われてしまった子供達を見つける為にお金が必要だった。丁度、私が掘り当てた石が有名になり、石を売ればお金になった。だから、私は毎日石を掘り続けた。その結果が、周りを巻き込んでの落盤事故です。幸い、死人はいませんでしたが、私は足に怪我をしてしまい杖がないと歩けなくなってしまい、その他にも私みたいに仕事が出来なくなってしまった人が沢山いました。だから、私は安全を確認できない限りは許可を出すことが出来ません。貴方がいま無理をして怪我をしてしまったら、その病気の娘さんや奥さんをどうやって養っていくのですか?」
「それは・・・・」
「私の方からも、調査を急ぐように口添えしますから、決して軽率な行動を取らないようにしてくださいね」
採掘道具を持っていた男性は気落ちしたように去って行き。杖を付いている男性が周りの人達に目配せをしたら、数人の男の人が去って行った男性の後をついて行った。
多分、あの男性が勝手な行動をしないように監視する人達なのだろう
二人の男性のやり取りを注目していた人達も、去って行き、杖をついていた男性も歩き出そうとしてこちらを向いた瞬間、男性は驚いた顔になりそのまま杖を落としてしまった。
「ん?」
「・・・あ」
その杖の音に、二人の男性のやり取りを見ていなかったマコト様とアルト様が振り向き、アルト様が驚いた表情でその男性を見ていた。
「ア、アルトなのか?」
「お父さん?」
二人の声が重なり、その言葉を理解した瞬間
「アルト!!!」
男性がいきなり走ろうとして、そのまま転んでしまった。男性はそれでも、アルト様の方に向かって這ってでも動こうとしている
「お父さん!」
そんな男性の所にアルト様が急いで駆け寄る
私達もすぐに二人の所に駆け寄り、男性を落ち着かすことにした。
「アルト、無事でよかった」
「お父さん・・・でも、僕は」
「いい、今は何も言わずにただ生きてまた会えた、それだけを喜ぼう」
「うん」
「それで、アルト。こちらの方達は?」
アルト様の父親が私達の方を振り向くと、マコト様が一歩前に出た。
「少し前にアルトを保護した者です。もっと早くお連れしたかったのですが」
「いえ、ありがとうございます。何てお礼を言えば良いのか」
「気にしないで下さい。運が良かったそれだけです」
「そう言う訳には・・・そうだ早く妻に知らせないと。是非、皆様も一緒に家に来てください」
そう言って、アルト様の父親は慌てて杖を拾い立ち上がる。
「父さん、その足は」
「・・・罰が当たったんだよ。アルト達を売ってしまった愚か者達へのね」
アルト様はそのまま父親の身体を支えながら一緒に歩いて行く。
私達もその後をついて行こうとして、マコト様が複雑そうな表情をしているのに気が付いた。
「やっぱり、本物には勝てないか」
「勝つ必要があるのですかね?貴方様はお師匠様なのでしょう?」
「・・・敵わないですね」
「はっはは!伊達に歳はとっておりませんから」
マコト様は参ったと言うように頭を掻いてお爺様と一緒に歩き出した。
マコト様のその姿は、”英雄”ではなくただ一人の人間だと感じる事ができた。
気配が大き過ぎても、英雄と呼ばれていても、ただ一人の人間だと
そう感じる事が出来ると、今まではその大き過ぎる気配に気圧されていたのが無くなり、逆にその気配で温かく包み込まれているような優しく感じるようになった。
英雄
その言葉に踊らされていた。
気配が敏感過ぎて、その大きさを感じる事が出来てしまった事で目を曇らせていたのかも知れない。
「しっかりと人を観なくちゃ」
マコト様もアルト様の事もだ。
今まで、能力に頼り過ぎていた事に反省して今一度しっかりと”二人”を見定めたいとそう思った。




