アルトの場合(1)
「アルト、少し話がある」
リースさんと一緒に魔大陸で修行をした日から数日が経った時に、師匠が凄く真面目な顔で話し掛けて来た。
「何でしょうか」
僕はそんな師匠の態度から、とうとうこの時が来てしまったのだと思った。
師匠に拾われてから、とても恵まれた環境で生活できて凄く嬉しくて楽しかった。
師匠が突発的に思い付く、迷惑な修行さえも僕には楽しく感じていた。
僕が元奴隷だと知られてから、村の人達から距離を置かれることもあったけど、今では少しずつ受け入れてくれる人も出て来た。
特に、師匠達「英雄」の家族とは、とても仲良くさせて貰い、その子供であるリース、マリル、サヤ、アヤ、ミヤとは友達になって、一緒に修行もすることになった。
奴隷として生きて来て、今までにない程楽しく過ごせて嬉しい気持ちと同時に、自分がここにいて良いのかという不安があった。
師匠は僕を弟子だと言ってくれるけど、僕はその言葉に自信が持てなかったのだ。
師匠が教えてくれたことをリースがすぐにできる事を、僕は一か月経っても出来ない事があったし、
サヤ、アヤ、ミヤとの体術の修行ではいつも負けてしまい、自分が成長出来ているのか不安だったし、
マリルとの精霊魔法の勉強や、外部の魔力を感じる修行も行き詰っている感じもあった。
だから、この頃僕はいつ師匠から弟子を止めると言われるか不安だったのだ。
「お前の家族が見つかった」
だから、師匠が言ったこの言葉の意味を僕は最初理解出来なかった。
「・・・家族ですか?」
だけど、徐々にその言葉の意味を理解することが出来て
「それは本当ですか!?」
気付いたら身体を乗り出していた。
「あぁ、本当だ。お前を拾ってからずっと探していたんだが、サヤからお前の故郷から綺麗な石が出ると数日前に聞いてな。条件に合いそうな場所を片っ端から探してきた。そしたら、見つけたんだよ」
「そうですか」
「でだ」
乗り出した僕の身体を落ち着かすように苦笑しながら叩いてから、師匠はこれが本題と言うように真面目な表情に戻り
「会いに行くか?」
と言った。
だけど僕は咄嗟に「会いに行く」という言葉が出てこなかった。
僕の両親は普通の人だった。
特に秀でている事もなく、その日その日の生活をしていくことに精一杯だった。
僕がいた村の人達も皆そんな感じで、お互い支え合って過ごしていた。
だけど、僕が10歳の頃村で育てていた植物が魔物に荒らされて、冬を越す事が困難になってしまった。
冬を越す為に備蓄など揃えようとしても、お金がない。
このままだと、冬の間に何人かが死んでしまい、下手をすれば村が壊滅するぐらい危険な状態だった。
だから、村の人達は苦渋の選択をして、数名の子供達を奴隷として売る事にしたのだ。
でもこれは強制ではなかった。
自分達の村の人を奴隷として売るなら死んだ方がましだという人達もいたのだ。
だからこそ、そんな人達を守れるならと立候補した子供達がいたのだ。
その中に当然僕もいた。
両親は始めかなり反対したけど、母親のお腹には僕の弟か妹がいた為、それを守りたいと言ったら渋々納得してくれた。
立候補した数人の子供達は村長が信頼しているという、奴隷商人に引き渡すことになった。
その人もとても良い人で、馬車で移動中僕達の話を聞いてくれて、ちゃんとした主人を探してくれるとも言ってくれていた。
だけど、その移動中に数人の盗賊達に襲われて、人の良い奴隷商人は殺され、僕達は違法の奴隷商人に売られてしまったのだ。
だから、村の人達や両親は悪くない。
僕が自分から立候補して奴隷となったと理解しているのに言葉がでないのだ。
どうしても、違法の奴隷商人の元でいた頃の記憶が蘇り、売られた場所での過酷な仕打ちも思い出してしまうのだ。
「・・・会いに行きたいです」
それでも、何とかその言葉を言う事ができた。
一旦、その言葉が出ると次から次へと両親に会いたい気持ちが溢れてくる。
「分かった。少し準備があるから明日出発しよう。焦る気持ちは分かるが、しっかり準備をしておけよ」
「はい」
その後は焦る気持ちを抑えながら準備をしたり、リース達に説明したりして過ごした。
リース達も一緒に行きたいと言っていたけど、僕の事を気遣ってか今回は我慢すると言っていた。
「なら準備は良いか?」
「はい」
準備と言っても、師匠の転移魔法で行くため旅の準備は必要ない。
それでも、一日空けたり、準備をしろと言ったのは、僕の焦る気持ちを落ち着かせるためなのだろうと思う。
「良し、なら行こう」
そう言いながら、師匠が手を振るともうそこは別の所だった。
「いきなりあの村に行くと相手が驚くからな。まずはこの街でお土産を買ってからゆっくり行こう」
普段の大胆な行動が嘘のように慎重になりながら行動しようとしている師匠が珍しくて少し笑ってしまう
「くっそ、俺の方が緊張してしまう」
「ありがとうございます師匠」
「ふん、行くぞ」
頭を掻きながら歩いて行く師匠の後を離れないようについて行く。
そして、師匠と二人でお土産を探していると
「お久しぶりです。マコト様」
旅装束に身を包んだ三人の人が声を掛けて来た。
一人は年老いたでもまだまだ元気である老人と二人の僕と同じ歳ぐらいの少女達。
「貴方は確か・・・」
師匠が驚いた表情で老人に声を掛けている。
嬉しそうに師匠と話をしている老人と、目を見開き驚いている少女と少しだけ不機嫌そうな少女
当たり前だが、三人とも師匠の方に意識が向いており、僕の方には全く気付いていない様子であった。
少しだけそれが悲しい気持ちになったけど、仕方がない事だと納得してお土産探しに戻ろうとしたら
「そもそも俺には必要ないので」
「そんなことを言わずに」
「と言われても・・・それに本人が納得していないのに押し付けるのはどうかと」
「ジル、ノア止めんか!申し訳ありません。普段はとても良い子なのですが」
何やら揉めている会話が聞こえて振り向くと、丁度困った顔の師匠と目が合った。
合ってしまった
ニヤリと何かを企んだような顔になった師匠の顔を見ながら、どうか変な事に巻き込まれませんようにと願うが
「なら、こういうのはどうでしょう。先程も言いましたが、私にはそちらの二人は必要ありません。ですが、この子には必要かもしれません。なのでこのアルトに譲るという事でどうでしょうか?」
そんな願いが師匠に届く筈もなく
「こちらは?」
「俺の弟子一号です。っていう事で今からお前がこの二人のご主人様になったから」
そんなことを言う師匠に対して
「師匠!何してんですか!」
と叫ぶ僕は悪くないと思った。




