ジルの場合(1)
フィーナ姉様までいなくなり、お爺様達の考えを聞かされてから数日が経った。
お爺様はあちこちの村や街に行き、私達のご主人様になる相手である「英雄」を探している。
どうやらこの「英雄」は、「英雄」と呼ばれるようになってから行方を眩ませているようなのだ。
その「英雄」を探しながら色んな所に行くため、その土地の特徴や名産品、そこの領主の事なども”ついで”に色々覚えることが出来た。
この事も「英雄」に仕える事になった時に活用することが出来るのだとお爺様は言う。
だけど、私もノアも正直顔も見た事がない「英雄」の事は好きではない。
フィーナ姉様達の事もあるけど、私としてはやはり自分の目で見て確かめてから自分の意思でご主人様を決めたいと思っている。
ノアはフィーナ姉様達の事があって、感情的になってしまっているけど、根っこの部分では私と同じような考えがあるのだと思う。
私とノアは産まれた年が同じの従姉妹になる。
産まれた時から一緒だったので、ノアが何を考えているのかも少しは分かる。
ノアは見た目は感情を見せないクールな感じだけど、心の中では熱い気持ちを持っている。
一族としての技術もかなり高いレベルで習得していて、まだ成人を迎えていないのにも関わらずお爺様や先輩達、色々な人達から絶賛される程優秀なのだ。
私も産まれて来た時から、厳し修行を耐えてきたのでノアには一歩及ばないけど、それなりに高い評価を貰っている。
ただ、私の場合は技術よりも精神の修行が未熟で、咄嗟に感情的に動いてしまう事がある。
それをいつもノアに抑えてもらっている感じなのだ。
フィーナ姉様の時も、ノアが咄嗟に私の手を握らなければ、あの貴族に対して何かをしてしまいそうだった。
と言うのも、私の場合ノアに比べて戦闘能力が高い。
私達の場合、ご主人様に仕えることが使命で戦う事が主な目的ではないのだけど、何か緊急事態になった時に咄嗟にご主人様を守れるようにと戦闘技術も教わる。その技術が私はかなり高いみたいなのだ。
お爺様もそんな私をみて「その歳でここまで戦えるとは」と溜息を付きながら褒めて(?)くれたぐらいなのだ。
それに関係して、私がノアに胸を張って勝る部分と言えるのが”気配に敏感”な事だ。
「お爺様、目の前に見えますあの岩陰に数人潜んでいる気配がします。嫌な気配も感じますので盗賊の部類かと」
「・・・岩陰と言うのは、あの遠くになる米粒みたいな奴か?」
「はい、先程の街から出る時に感じた嫌な気配もありますので、私達を狙って待ち構えていると考えてよろしいかと思います」
「そうか、なら少し遠回りになるが、迂回しよう。勝てない相手ではないと思うが、時間を取られる場合ではないからな」
お爺様はそう言って、道を外れて歩いて行く。
私達はお爺様から離れないように慌てて後ろをついて行く。
お爺様は、現役の頃に世界を旅をしながら主人となる人を探すようなことをしていたらしく、地元の人でもあまり知られていない裏道をも知っている事があるのだ。
お爺様の後をついて行きながら、後ろを振り返って確認するが、嫌な気配は変わらず感じる事ができたので、どうやら向こうに気付かれずに済んだようだ。
「それにしても、お前のその特技は相変わらず凄いものだな」
「ノアに勝てる部分でもありますので嬉しいですが、この体質の所為で咄嗟に身体が動いてしまう事もあるので何とも・・・」
お爺様が褒めてくれて嬉しい反面、この体質の所為で感情を抑える前に手が出てしまう事がある為、なんとも複雑な気持ちになってしまう。
私のこの”気配に敏感”な特技というか体質は、目が見えている範囲であればどんな気配であろうと捉えてしまう。特に、犯罪者や盗賊などの嫌な気配、負の気配などは敏感に捉えてしまうのだ。さらに、私から半径3mの範囲であれば、目で見なくても感じることが出来て、隠れていても人の体格や性別、武器の有無なども感じる事ができる。
その反面、敏感過ぎる事で反射的に身構えたり、反撃してしまう事があるのだ。
修行である程度身体のコントロールをすることが出来るようになってきたけど、どれ程難しいかと言えば顔に向かって飛んでくる物に対して、目を瞑るなと言っているぐらい難しい。
そんな私の体質とノアの機転、お爺様の情報収集能力のお陰で、特に問題なく旅を続けることが出来ていた。
「今日はこの街に・・・」
そんな中、あまり栄えていないような街に辿り着いた時に、私は”その気配”があまりにも強くてお爺様の話を聞かずに、咄嗟にその方向を向いてしまう。
嫌な気配は全く感じない。
感じるのは好奇心と自信、少し不安という気配。
それよりも強く感じたのが、何とは説明できないとてつもなく大きい何かの気配
それが、黒髪の大人の人から感じるのだ。
人の身よりも強大な何かの存在。
その何かの存在に驚くが、何よりその存在の気配に近づくまで気付かなかった事に私は恐怖してしまう。
特に、周りの人達はそんな存在に気付いていないように普通に接しているので私から見れば異常のように見えてしまう。
「ジル、どうした?」
そんな私の様子にお爺様が気付いて声を掛けてくれるが、私はその人から目が離せず答える事が出来なかった。
「おや?あの方はもしや」
私の視線の先を確認したお爺様が目を見開き、徐々に笑顔になっていく。
この時、いや、その気配を感じ取ってしまった時から私は確信していたのだ。
この世界の人達には、感じなかったあり得ない程の強大な気配。
そのような物を持つことが出来る人は限られている。
「英雄」
特に、この世界の人ではない異世界人。
その人であれば、この気配も納得が出来る。
つまり、その人とは
「まさか、このような所でお会いできるとは・・・ジル、ノア、あの人がお前達の主人となるお人だ。」
私達が産まれた時から仕える事が決まっていたご主人様
異世界人の「英雄」の一人、イノウエ マコト様。
その人ととうとう出会ってしまったのだ。




