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番外 クリスマス

ギリギリですよね?

「メリークリスマス!」


近くの人とグラスを軽く打ち合い乾杯をする。


パン!パン!


とクラッカーが鳴り、ひらひらと綺麗な紙切れが降ってくる。

師匠達がこの世界に来てから始まったと言われるクリスマス

家族や恋人、仲の良い友達とパーティーをする日だと師匠から教わっている。


「兄ちゃん!この料理凄く美味しい!」

「キラキラしていて、凄く綺麗」


ジルとノアを中心に作っていた料理を頬張り赤いズボンから出ている尻尾をぶんぶんと振り回しているヴォル。

ある一点を見つめたまま魅入っているミンクも赤と白で出来ているサンタの服を着ている。

ヴォルは長ズボンに長袖、ミンクは白いモコモコに埋もれそうなサンタの服を着ていて、二人ともとても可愛らしい。


「あの人は加減っていうものを知らないっすか?」

「ははは・・・師匠ですからね」


ミンクが魅入っている方向を見ながらナナシさんが苦笑している。

僕も”屋敷の中”から”外”を見れば、一面は白い雪で覆われていて、今もシンシンと降り続けていた。

その雪が周りの木に飾られている、色とりどりの灯りと飾りに彩られてとても幻想的な光景となっている。


特に、中心に見れる大木には、これでもか!っていう程キラキラしている飾り付けがされていて、そこからミンクの視線は外れない。

普通なら部屋の中からこんなに景色を見ることは出来ないが、師匠が何時ぞやに作った不思議な壁を使って作った屋敷らしく、魔力を流した壁だけ透けて外を見ることができるのだ。

勿論、街の中ではこういうことは出来ない。


「”無ければ探せば良い。探して無ければ作れば良い”って言葉通りにするから、もう呆れるしかないっすね」


ヴォルの村は世間から隠れて暮らしていたし、ミンクは村の人から怖がられて離れて生活していた為クリスマスを知らなかった。

旅の途中でクリスマスを祝う事が出来ずにいた為、師匠達にその事を報告したらあれよあれよと話が進み。

師匠が転移させたのがここだったのだ。


「お父様のすることに一々驚いていたら、身体が持ちませんよ」

「驚くより呆れているっす」


楽しんでいるヴォルとミンクを愛おしそうに見ていたリースが苦笑しているナナシさんに声を掛けた。

ヴォルとミンクがサンタの服を着ていると同じように、リースとナナシさんもサンタの服を着ている。

リースは、普段あまり着ないミニスカートを着ていて素足を出している。上着は長袖の分目立って見えてしまう。

ナナシさんは、スカートは長いが上着が短く、背中がかなり開いている。

そんな二人を見ながら、少しドキドキしてしまう。

今日は師匠達は大人達で大事な話があるという事で、ここにはいない。

しかも、話し合いがいつまで続くか分からないからと言って、今日はここで皆で泊まるのだ。

男が自分とヴォルだけという状況で落ち着ける訳がない。


「アル兄様~」

「ミヤ慌てないで」

「そんな服を着ているからですよ」

「だ、だってお母さんがこれを着なさいって・・・」

「クーリお母様は魅せ方が上手ですからね」


ミヤがアヤを引っ張っている様子は伺えるが、その前にサヤが歩いていてさらにミヤも何故か僕にアヤを隠そうとしながら歩いてくる為、アヤの姿を見ることができない。


「・・・メリークリスマス」

「メリークリスマス。サヤも楽しんでいる?」


一番前を歩いていたサヤがグラスを出してきたので、軽く打ち合わせて乾杯をする。


「・・・うん、とても楽しい。だって、今年はアルトがいてくれるから」

そういって、笑うサヤの顔は凄く綺麗で僕の顔が紅くなっていくのが分かる。


「あ、サヤお姉様ずるい!」

「ちょ、ちょっとミヤ!」


ミヤが慌ててこちらに来ようとしたのか、アヤを引っ張ったらしく、隠れていたアヤの姿が見えた


「ぶっ!・・・ゴホッゴホッ!」

「・・・アルト大丈夫?」


その姿を見て、驚いてしまい丁度飲んでいたジュースを喉に引っ掛けてしまった。

サヤが近づいて、背中をさすってくれるが


「・・・・・サヤ?」

「・・・苦しいのは嫌い」


腕にフニョリとした感覚があり、まさかと思いサヤを見ると、そんな爆弾発言が出てきた。

照れて少し顔を赤くしているサヤを見ていると、腕の感覚の事もあり、なんか思考が変な方向へ行きそうになる


「アルお兄様、似合ってますか?」


のを救ったのがミヤだった。

ちょんちょんと袖を引っ張る感覚に助かったと思いながら振り向く。


「てへへ」


恥ずかしそうにその場でクルリと回るミヤは凄く可愛らしかった。

ミヤは、ミンクと同じような白いモコモコが多いサンタの服であった。ふわりと動くモコモコの服とぴくぴくと動く耳と尻尾をみてずっと撫で続けたい気持ちになってくる。


「・・・アヤは真ん中・・・どう?全部クーリ母さんが作ってくれた」


アヤを真ん中にして左側にはサヤはアヤに抱き着くように、右側にミヤが立つ。

サヤの服は、サンタ服ではあるが、短パンに半袖と寒くないのか?というぐらい薄着であった。動きやすい服を好むサヤならではと思っていたが、僕から離れる際に背中側が見えた瞬間もう一度吹き出しそうになってしまった。

前から見るとそうでもないのだが、背中側には少し太めのリボンで結んでいるだけで、背中は丸見えで、袖のついているエプロンみたいな感じだったのだ。

これだと、少し屈んだり、飛んだりすると色んな所が捲れて、色々危ない状況になってしまいそうである。しかも、サヤは・・・

そして、三人の中で一番の問題というか、目のやり場に困る服なのがアヤで


「・・・それは大丈夫なのか?」

「大丈夫です!ちゃんとした服なんですよ!・・・・ただリボンを巻いたようにしか見えませんが・・・」


正直に言うと、ただリボンを胸の所から下へ巻いているようにしか見えないのだ。

紅いリボンの外側と端に白いモコモコが付いているから、サンタの服に見えない事はないが・・・

しかも、胸がかなり強調されていて、少しでも動けば大変な事になりそうである。


「三人とも良く似合っているけど・・・・クーリさんは相変わらず何だね」


アヤの母親のクーリさんは、狐の獣人である。

妖艶という言葉がしっくり来るような人であり、アヤにもその血が濃く受け継がれている。胸の大きさとか・・

そして、その人の趣味というか楽しみなのが、娘たちに色々な服を着させることなのだ。

可愛らしい服を着させることが多いのだが、偶にこうやって結構ギリギリな服を着させることもあるのだ。


「また、競争心に火が付いたみたいで・・・・ところで、サヤ姉さんまさか下着を・・・」

「・・・苦しいのは嫌」

「せっかくクーリお母様が選んでくれたのに」


サヤに抱き着かれたことで、フニョリとした感覚の原因を知ったアヤに追及を受けないようにこの場から素早く逃げることにした。



料理に手を伸ばそうとすると

「こちらをどうぞ」

と、取りたい料理を手渡される。

グラスが空になると

「お代わりをお注ぎします」

とグラスにジュースが注がれていく。


「・・・・今日ぐらい自由にして良いんだよ?」

「い、いつもそう言われてお世話をさせて頂けないので」

「本日は言いつけ通りに自由にお世話をさせて頂きます」


しまった、言い方を間違った

と思いながら振り向くと、ジルとノアが立っていた。

皆(特に僕)の世話をする為か、二人とも普段とあまり変わらない服をきていた。

というのも


「やっぱりメイド服だよね?」

「い、いいえ違います」

「これはサンタの服なのです」


白と黒のメイド服を白と赤にしただけと思える程、メイド服に似ていた。

小さなサンタの帽子をちょこんと頭に乗せているが、ブリムもしっかりと付けたままで、ブリムの波の所ではトナカイがサンタを引いて走っていた。


「服が、というよりもやっている事でそう見えるのではないのですか?」

「確かに、私達の所で話していた時はそうは見えなかったが、アル殿の所に行った瞬間にそう見えるようになったな」


近くにいたシェルとファルが会話に混ざってくる。

シェルとファルは色違いのドレスを着ていて、貴族のパーティーから抜け出してきたお姫様みたいで凄く綺麗だった。

ただ、本人たちは不満のようで


「私達も、あんな風な服を着るべきなのでしょうね」

「そうだな。アヤの服は無理だが」


シェルとファルは今までクリスマスは他の貴族達と過ごしていたみたいで、こんな風なクリスマスパーティーは初めてらしいのだ。

だから、サンタ服ではなく普段使っているドレスを着て来たが、皆と違う服で居づらそうにしていた。


「そうですか?二人ともとても綺麗ですよ?本当のお姫様みたいです」

「そ、そうですか」

「う、うん。似合っていると言われると何だか照れるな」


二人とも少し顔を赤くして照れるてしまい、僕も恥ずかしい事を言ってしまったと顔を赤くしてしまう。


「そうよ、あまり気にしない方が良いわよ。今年はおじ様達が張り切り過ぎて、アル君が帰ってきたから皆はしゃいでいるだけだから」

「そういう貴方も結構大胆な服ですわよ」

「あら、そう?エルフ族の中では一般的な物なのだけど」


シェル達の後ろからマリルとミリアが歩いてきた。

マリルの服は、白と赤色の風の妖精が着ている(師匠曰くティンカーベル様な服。良く知らないけど)ようなとても短い服を着ていて、ミリルが言うぐらい大胆な服だった。

この服がエルフ族で一般的なのかは知らないけど、多分嘘じゃないかなと思う。それぐらい大胆過ぎるのだ


「そういう貴女は・・・また真正面から勝負を仕掛けたわね」

「あの人に勝てないと意味がないですからね」


ミリアが勝ちたい人というのは分からないけど、ミリアの服はリースが着ている服とかなり似ていた。

上着はしっかりと肌を隠しているのに、足はミニスカートで素足が見えている。

リースと同様に目のやり場に困り、ミリアの目をみたらそのドキドキが強くなっていく


「瞳力を使わない」

「・・・・痛いですわよ」


ミリアの頭をマリルが叩いた事で視線が切れると、そのドキドキが少し抑えられた気がした。


「そこで瞳力を使ったらダメですよ」

「そうだ。真っ向勝負で勝ちたいから服もそれを選んだのだろ?それなのに」

「・・・・だって、目が合うと照れくさいですもの」


そのまま、四人で話し始めたのでその場から立ち去る事にした。

果たして、あのドキドキがミリアの瞳力の所為なのか・・・

いまだにドキドキしている胸を押さえながら、頭を冷やそうと外に出ることにした。



師匠の話では、クリスマスにはサンタクロースが来て良い子にしていた子供たちにプレゼントを渡してくれると言うのがあった。

だけど、師匠はその事を世間には広めなかった。

広めたのは皆で楽しく過ごす、クリスマスパーティーとイルミネーションぐらいだった。

何故かは教えてくれなかったけど、貧困の差がある内は広めるつもりはないと言っていた。

だけど、


「・・・・すぅ・・・・すぅ」

「すぅ~すぅ~」


はしゃぎ過ぎて疲れて眠ってしまったヴォルとミンクの姿を見る。

美味しい料理に喜び

綺麗な景色に目を奪われ

皆と遊び

クタクタになるまで楽しんでいた二人。

隠れ里でひっそりと暮らしていたヴォル

村の人達から恐れられて、一人だったミンク

一緒に旅をしてきた中で、こんなに嬉しそうだった二人を見るのは初めてだった。

師匠達が場所を提供して

リース達女性陣が料理を提供して

なら、僕にできることはと考えたのが


「喜んでくれればいいね」

「リース」


二人の枕元にある物を置いて、部屋から出るとそこにはリースが立っていた。


「クリスマスプレゼントは渡さない。それがお父様が今回パーティーをする事で唯一つけた条件。理由は?」

「分かっているつもりだよ。プレゼントを用意できるほど余裕がある家庭はまだ多くない。だから、プレゼントの習慣が広まると、プレゼントがあった、なかったで子供達の中でも争いが起こるかもしれない」

「私達も経験があるものね。お父様から貰ったプレゼントを当たり前のように自慢して、周りの子供たちはそれを羨ましそうに見ている。それからかな?お父様が私達にもプレゼントを渡さなくなったのは」


リースと二人で廊下を歩木ながら話をする。

実際には、羨ましそうに見ていた子供たちの親がプレゼントを渡そうと無理をして怪我をしてしまったことに師匠が後悔しているからだ。

僕は師匠が怪我をしてしまった人に謝っている姿を見たことがあった。


「だけど、僕は二人の初めてのクリスマスを・・・」

「綺麗な場所でクリスマスパーティーができた」

「それは師匠達が準備した」

「美味しい料理が食べられた」

「それはリース達が作ってくれた」

「貴方が一緒に遊んでくれた」

「違う、皆で楽しんだんだ」


リースが言いたいことは良く分かる。

綺麗な場所に美味しい料理。一緒にパーティーができる仲の良い人たちがいて、それすらもできない人達がまだいる世の中で、十分じゃないかと

だけど、僕はどうしても二人の心の中に何かを残してあげたくて


「それで、貴方が怪我をしたことを二人が知っても素直に喜ぶとでも?」

「ッ!何でそれを?」


確かに、プレゼントを探しても手持ちのお金がなくて、自分で作ることにしてその材料を取る時に怪我をしてしまったが、誰にも気付かれないよう魔法で治した筈だ。


「みんな知っている。だから、貴方があの子達にプレゼントを渡すことも知っている」

「どうして?」

「何で怪我をしたことを知っているかってこと?それとも、プレゼントを渡すことを知っていて止めない理由?」

「・・・・両方」

「答えは簡単。怪我を治しても服の傷は直せない。貴方の匂いを追い続ける事ができる人が内には三人いる。それに何より、貴方の手足に魔力を提供する頻度が早かった時期があった。」


言われてみれば気付かれる要素はあった。

服の傷や解れはノアやジルが気付くはずだし。

それに何より、材料を見つけて製作する上で魔力を大量に使ったのだ。その分、皆に魔力を提供する頻度は早くなってしまう。

僕に直接聞かなかったのは、僕が何かを隠そうとしていたのに気付いていたからだろう


「・・・・二つ目は?」

「それはもっと簡単。二人を信じているから」


皆がいる部屋前で、リースが立ち止まってこっちを見てくる


「あの二人は、貴方と一緒に旅をして色々な事を見て来た筈。下手をすれば私達よりも世界を知っているかもしれない。だから、不用意な事はしない筈だし、なにより・・・」


そう言って、何かを企んでいる顔をしながら部屋に入って行った。


首を傾げながら、僕も部屋の中に入るがその事に後悔することになるのだった。


「・・・ちょっと熱い」

「サヤ服を脱がない!そんな薄着なのに暑い訳があるか!」

「よし、負けてはいられない」

「ファルも少しは落ち着こう!何の勝負か分からないから!」

「兄さんこのリボンを解いて」

「無理!って本当に服なんだよね!それ!」

「アル君も大変ね」

「そう言いながら、抱き着かないで!裾が!なんか見えそうなんだけど!誰だ酒を混ぜたの!」

「お代わりがありますよ」

「そこ、お代わり注がない!」

これらはあの後の騒動の一部で、色々危ない事が多々ありましたよ。詳しくは言えませんが・・・皆の名誉のために

しかも犯人は、やっぱりと言うか師匠で、後で皆からぼこぼこにされていた。


因みに、プレゼントの事は二人に速攻ばれた。

理由は

「兄ちゃんの匂いがするから」

「お兄ちゃんが何かを作っているのを知っていたから」

とまぁそんな理由だった訳でした。



「兄ちゃん、今日は何を狩るの?」

「お兄ちゃん、久しぶりに皆で依頼できるね」


久しぶりに、ナナシさんと四人で依頼することになって嬉しがる二人の姿をナナシさんと二人で見る。

その二人の首からは、赤と青色の丸い水晶が掛けられていた。


「水晶取りに行って、地盤落下に巻き込まれるってどんだけ運が悪いっすか」

「あれには僕もビックリしましたよ」


と、そんな裏話もあるが、嬉しそうに走る二人の姿を見てやっぱりプレゼントを渡してよかったと思った。

「因みに、一番苦労したことは何っすか?」

「形を綺麗な丸にする事」

本当に大変だったのです。

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