新たな師弟関係
抱きついていたミンクが落ち着いた頃、ノゾムおじさんが今度はヴォルに話しかけた。
「坊主は人狼族なんだろ?」
「うん、そうだよ」
「なら、人狼族ってどんな種族なのか詳しく知ってるか?」
「??」
ノゾムおじさんの問いに、ヴォルは分からないように首を傾げる。
僕も詳しい事は聞いておらず、ヴォルがいた村の人達からは、別の種族に狙われているから隠れているとしか聞いていない。
「人狼族はな他の狼族の先祖と言われているんだよ。ミヤの母親の氷狼族や他の炎狼族、風狼族、土狼族など全ての狼族の元が人狼族と言われている」
基本的に獣人族の人達は魔法を上手く使うことが難しい種族である。
無意識に、聴覚や視覚、身体能力を上げてしまう為、意識して魔法を使うことが困難なのだ。
しかし、例外があり各種族の前に属性の名前が着いている種族だ。
ミヤの母親の氷狼族であれば、獣人族の身体能力をそのままに氷の魔法を扱うことができる。
サヤは猫人族なので、魔法を扱う事は苦手としており、アヤは唯の狐人族であるが、狐人族自体様々な魔法に適応しているので、魔法を扱うことは得意となっている。
「何でそんなことが言われているのかと言えば、人狼族が産んだ子供の魔法属性が相手によって変わるからだ。基本、異種族間で産まれる子供はどちらか一方の種族を引き継いで産まれてくる。まぁ、俺で言えば娘たちは全て嫁さん達の種族で産まれてきて、人族はいない。まぁ、魔法特性やら髪の色なんかは少しは影響しているがな。だけど、人狼族特に女性の人狼族が産む子供は、必ず狼族として産まれて、父親の魔法適応属性によって変わる。要するに、炎属性の父親が人狼族の女性と子供を作ったら、必ず炎狼族の子供が産まれるんだよ」
まだ、子供であるヴォルに何て話を聞かせるんだと思って、ノゾムおじさんの顔をみるが、ミンクの時と同じように真剣な表情をしていて、口を挟む事ができなかった。
ヴォルも何か感づいているのか、何時もは難しい話になるとソワソワしだすのに、じっとノゾムおじさんの話を聞いていた。
「そこで問題なのが、人狼族はそこまで強い種族ではないと言う事だ。昔の文献からは、人狼族が絶滅の危機を乗り越える為に他種族と子供を作ったことが、他の狼人族の始まりと言われている。だから、氷狼族や他の属性を持っている狼人族は力が強い。単純に、人族より身体能力が上でその上魔法にも適性があるんだから当然だな。でも、人狼族はそれがない。氷を作ることも、炎を吐くこともできない。ただ、身体能力が高いだけの種族と言われていた・・・・さっきの子供の話が分かるまではな」
そう言って、ノゾムおじさんは顔を顰めて、何か思い出したくない事を思い出してしまったような表情をしていた。
「要するに馬鹿な連中は考えた訳だ。氷狼族や炎狼族などを意図的に増やせるなら、戦力の増強に繫がるのでは?ってな。まぁ確かに、人族より優れた身体能力をもち魔法適性もあるなら十分戦力になるだろう。昔は特に魔物の驚異が常にあったからその考えを止めようとする奴らはいなかった。そして、人狼族は魔物よりも他の種族、特に人族から狩られる立場になってしまった。だって、そうだろ?人狼族特に女性の人狼族を捕まえて、色々な属性持ちの人と子供を作れば、属性持ちの狼人族が確実に産まれるんだからな」
その話を聞いて、ヴォルの村に辿り着いた時の僕たちをみる人狼族の人達の敵意の篭った視線の意味に気付いた。
そして、何故あんな強固な結界の中に隠れて生活していたのかも
「だから、坊主が人狼族と知られれば困った事になる。誘拐しようとする奴がいるかもしれない、捕まえて村の場所を言うように拷問されるかもしれない、誰も助けが来ない場所で一生子供を作るだけの存在にさせられるかもしれない」
ノゾムおじさんはヴォルに教えているんだ。
人狼族であることの危険性
そして、その事を踏まえて行動するようにと
ヴォルはまだ子供であったが、ノゾムおじさんの話をしっかり理解できていたのか、不安そうな顔になり尻尾が縮こまっていた。
「心配すんな。その為に俺がいるんだから」
そんなヴォルの姿にノゾムおじさんは苦笑して、ガシガシと力強く頭を撫でていた。
「良いか?よく見ておけよ?」
ノゾムおじさんは、ヴォルの目の前にあった大きな岩の前に立つと、腰を落とし、腕を引いて構えた。
「神倒術・・・撃砕」
ドゴォン!
ノゾムおじさんが手を突き出した瞬間、大きな岩が粉々に破壊されてしまった。
「今の技は、魔力も気力も使ってない。唯、人が出せる力を限界一杯まで引き上げただけの唯のパンチだ。人が神を倒すために生み出した諸刃の剣。それが神倒術だ」
ノゾムおじさんの手をよく見ると、手がありえない方向に曲がって、血も沢山流れていた。
「何格好つけているんだよ」
「・・・・誠」
「・・・泣きそうになるならするなよ」
僕達が唖然としていたら、師匠達の訓練が一息着いたのか皆こちらに来ていた。
早いと思うと同時に、まだ僕達は何もしていないことに気付いてしまった。
まぁ、ミンクやヴォルの事を考えると、それで良かったのかも知れないけど
ノゾムおじさんは師匠に怪我を治してもらって改めて僕たちの方を向いた。
「今のは、魔力も気力も使っていなかったが、少し魔力を流すだけでも負担は減る」
そう言いつつ、今度は腕に魔力を通して軽く振ると、少し離れた所にあった僕の岩が粉々に壊れた
「サヤは神倒術を全て使いこなすことができる。が、魔力を纏っての神倒術が出来ないから使うのを禁止している」
驚いてサヤを見ると、少し誇らしそうに胸を張っていた。
「絶対使ったらダメだからね」
「・・・・何で?」
褒めて貰いたかったのか、僕がそう言うと少しだけ悲しそうな表情になってしまった。
「だって、魔力を使わないと怪我するんでしょ?女の子なんだから気を付けないと」
師匠の修行や旅で、人の死や怪我は沢山見てきたが、それでも顔が引き吊ってしまうほどの怪我だったのだ。
心配になって禁止にするノゾムおじさんの気持ちが分かってしまう。
「・・・・分かった。考えてみる」
サヤの両手を握って心配していると、顔を少し背けながら頷いてくれた
「んっんん!サヤはあと少しでコツを掴めると思うが、坊主にもこれを覚えてもらう」
「反対です!」
当然だ。まだ子供のヴォルに覚えさせるには危険が多すぎる
「じゃぁどうする?」
「それは・・・・」
「さっきも言ったが、人狼族は他の狼人族と比べると成人してもそこまで強くない。まぁ例外もいるが・・・。その人狼族特に子供がいるとしたら、襲って来るぞ?それを誰が守ってやるんだ?アル坊がずっとついているのか?無理だろ」
その言葉に僕は、何も言うことが出来なかった。
だけど、ヴォルにだけそんな危険なものを覚えさせる事には反対で
「なら、僕もその技を教えて下さい」
僕は魔力量も少ないし、魔力を使うのも平均並みだから、覚えても損はないと思って言ってみるが
「絶対ダメ」
と
ノゾムおじさんの他に皆からもダメだしされてしまった。
その中に、ミンクとヴォルもいた事に少しながらショックを受けてしまったけど・・・
「アル坊に教えたら、サヤ以上に危なっかしいからな」
「そんなことは・・・・」
「お前なら誰かを助ける為なら、躊躇なく使うだろ?例え自分の手足が千切れようともな」
言い訳をしようとしたら、師匠が横から口を出してきて何も言えなくなってしまう。
「この技はな、相手を倒すために作られたが、同時に守る為にも鍛えられてきたんだ。この、守ると言うのは、他人だけじゃなくて自分自身も当てはまる。だから、自己犠牲が少しでもある奴には、教えることができないんだよ。昔からな・・・だから、誠にも教えてないしな」
「そんなこと言うと、俺が自己犠牲の考えを持っているみたいじゃないか。ただ単に武術に興味がなかっただけだ」
「はいはい、そうでしたね・・・・それで、坊主どうする?この際、アルト坊とか関係なしに、自分の考えで言ってみな?」
ノゾムおじさんは軽く師匠の言葉を流して、ヴォルを見つめる。
ヴォルは、僕やナナシさんを見たが、自分で考えないといけなと理解したのか、顔を下に向けて考えていた。
「・・・やる」
そして、顔を上げたヴォルは覚悟を決めた顔をしていて、もう僕の言葉でも届かない事が分かってしまった。
「よし、なら今日から坊主は俺の弟子だ」
「弟子?」
「そうだ、アルト坊が誠の弟子と一緒のように、俺の弟子に坊主がなるんだよ。誰にも負けない人狼族になれ。その手伝いを俺がしてやるよ」
そして、この時新たな師弟関係が作られた。
おまけ
神を倒すことができると言われる武術を持った異世界人、上村望。
異世界に来た時に得られた特殊能力は”空想現界”。
倒す、壊す事に特化していた人物が、異世界で作り出す能力を得ることができた。
その人物が、始めて弟子を取った。
弟子は人狼族のヴォルという少年である。
少年は師匠から学んだ事を物凄い勢いで吸収し、実力を付けて行った。
人狼族は弱い。
そんな言葉を、世界からなくした最初の人物だと言われるようになるが、まだ今はその時ではない。
「なんで急に弟子なんだよ」
「お前がケント以外に弟子を取らないから、ついでだった俺まで催促が来るようになったんだよ」
「その話は聞いていたが良いのか?」
「何がだ」
「一応、お前も英雄の一人に数えられるだぞ?」
「一応を付けるな。まぁ、お前よりは活躍してなかったが・・・・それで?」
「そのお前が弟子を取ったと広まれば、あの子の種族がバレるぞ」
「・・・・・・・あ」
「馬鹿だ」
もう一つおまけ
「因みに、サヤは弟子じゃないのか?」
「弟子の前に娘だからな。誠も一緒だろ?」
「リースの場合は、俺が教える前に吸収していたからな・・・」
「なにそのハイスペック娘」
「お前の娘も大概だけどな・・・お前に似ず」
「何時も、一言余計だな!」




