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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
第二章 学園編(二人の少女)
18/86

騎士の娘

 猫の妖精さん達に笑顔で「行ってらっしゃいませ」と送り出されて、ファミルさんにまた学園区の案内をして貰っているのだけど


「・・・・・・」

「・・・・・・」


まだ先程の余韻があるのか、少しぽわぽわした雰囲気なファミルさんに声が掛けづらい。


「誰か!物取りよ!」


 無言で歩かれても困るから、流石に声を掛けようと口を開こうとしたら前の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「・・・ッ!」

「あ、ちょっと!」


 女性の悲鳴が聞こえた瞬間にファミルさんの雰囲気が元に戻ってしまい、走り出してしまった。

僕もファミルさんの後を追うが、身体能力が高いのか徐々に引き離されてしまう。

 これでも師匠の修行や二年間の旅で身体を鍛えて来たから、自分の身体能力も少しは上がってきていると思っていたけど

まだまだ、だと言う思いが湧き上がってくる。


「大丈夫ですか!」


 物取りは僕達と反対側に逃げたらしく、人混みの中物取りを追いかけているファミルさんの背中が小さく見えた。

 僕はファミルさんに追いつけない事を理解して、物を取られたショックか衝撃で倒れている女性を助け起こす事にした。


「ええ・・話には聞いていたけど、まさか自分がこんな目に合うとは思わなかったわ・・・」


その女性が少し話してくれた内容は、

学園区には低収入の人でも住めるようになっている。

他の街では考えられないぐらいの扱いなのだが、それでもその日の生活に困難している人は多いと言う。


「では、そういう人達が?」

「そういう人達もいるけど、大半は違うのよ」


 学園区の恩恵を受けている人達が犯罪等を犯すとその権限が没収されてしまい、住むことも困難となってしまう。

 唯でさえその日の生活が困難な人が、態々高いリスクを背負って犯罪を犯す人は少ないらしい。

では、どういう人達がそういう事をするのかと言えば

愉快犯やこの街を訪れた外部の人達らしい。

特に、愉快犯の人達はかなり質が悪いらしく、低収入の人達を選んで襲い、その姿を見て面白がっているだけらしいのだ。


 今、目の前にいる女性も学園区の恩恵を受けている人で、取られた鞄の中には生活費が入っていたらしく、頭を抱えてこれからどうすれば良いのか頭を悩ませていた。


「・・・どこにでもいるんですね・・そういう事を考える人が・・」


 弱者がどうしようもなく犯罪に手を染めてしまう事は、悪いことではあるが自分が生き残るためにはヤルしかない時もある。・・・・悪いことではあるが

 しかし、そういう理由がなく唯面白いから、退屈だから、興味があったからという理由だけでそういう事をする人の考えが僕には理解出来なかった。


「でもきっと大丈夫ですよ?犯人を追いかけた行った彼女は少し心配ですが、学園の騎士科の人みたいですし・・・この学園区には騎士様の姿が他の所と比べて多いですからね」

「・・本当にそうでしょうか・・・あの鞄がなければ生活が・・」


 不安そうな顔になっている女性であるが僕は多分大丈夫なような気がするのだ。

王様か貴族様、学園長か師匠が言ったのかは分からないけど、この学園区には騎士の人達が沢山いて見回りをしていた。

騒ぎが大きくなればなる程、捕まえられるのは時間の問題だと思う。


ピー!ピー!


と甲高い笛の音が段々と大きく聞こえ始め、とうとう聞こえなくなった。


「・・・多分捕まえたのではないでしょうか?」

「本当ですか?」


そう、女性に聞かれて実際に見えた訳じゃないので断言する事ができなかったけど


「大丈夫ですよ。この街の人や騎士様を信じましょうよ」


 不安そうに見てくる女性を元気づけたくて、そんな言葉を言っていた。

それに、僕自身も犯人を必死に追いかけていたファミルさんの努力が無駄に終わる事を望んでないのだから


「・・・そうですね」


 僕の言葉に納得したのか不明だが、少しだけ落ち着いた女性が頭を上げるとその表情が明るいものになっていった。


「うん、良かったですね」

「有難うございます!」

「いや、僕にお礼を言われても・・・頑張ったのは彼女や騎士様達ですし」


 女性の視線の先には、犯人らしき人を捕まえた騎士の人達やファミルさんがこちらに歩いて来ていた。


「どうかしたのか?」

「いえ、それよりも大丈夫でしたか?急に走り出してびっくりしましたよ」


女性にお礼を言われて、首を傾げていた所にファミルさんが声を掛けてきた。

ファミルさんの雰囲気はあのぽわぽわした様子はなく、初めて会った時のような雰囲気に戻っていた。


「・・そうか君は知らないのか・・この学園区は成人を迎えたばかりの人達や立場の低い人達が多く住んでいるからこういった事件は多いんだ。私の家は騎士の家でまぁ騎士の見習いみたいな事をしているから、こういった事には身体がすぐに動いてしまうっというか・・・」

「・・・・立派ですね」


 そう話すファミルさんは照れているようで、それでも胸を張って目標を目指しているような・・そんな姿がそれが今まで感じた騎士を演じているような不自然さではなく、自然に見えた。それと同時に、師匠達の英雄の子供として、父親達と同じ立場に並びたいと目指しているリース達の姿に被って見えて、自然とそういう言葉が出ていた。


「そうか?」

「ええ、ファミルさんみたいな騎士様がいれば此処は安全そうですね」

「・・・・そうなると良いな」


 一瞬嬉しそうな表情になったけど、すぐに何やら難しい表情になってしまった。


「こらっ!待ちなさい!」

「くそが!捕まってたまるか!」


 暗い表情になってしまったファミルさんに何て声を掛けるべきか悩みながら、女性を助け起こす際に地面に置いた自分の鞄を取ろうとしゃがみ込んだ時に、騎士様の手を振り解き犯人がこちらに向かって飛び込んで来た。


「フッ!」

「・・・・・グェ」


 慌てて立ち上がろうとした瞬間に目の前に布が舞った

一瞬見えてしまったものからすぐに視線を外して、更に上を見上げると

制服のスカートを抑えたまま、犯人の頭に蹴りを入れているファミルさんの姿があった。

犯人は蹴られた衝撃で白目を向いて気絶してしまい、慌てて騎士達が犯人を拘束していた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・見えたか」

「・・・・・・・・・・・スカートの状態で蹴りは控えた方が良いと思います」


 ファミルさんが顔を赤くして後ろの方のスカートを抑えているけどもう遅い。

一応は気にして前の方のスカートは抑えていたみたいだが、蹴りと一緒にふわりと舞った後ろ側のスカートの中身が見えてしまったのだ。

立っていると見えなかったのかもしれないが、ちょうどしゃがんでいた時なのでパッチリと目の前で見えてしまった。


「・・・・そうしよう・・」

「あ痛!」


 とっさの出来事でびっくりしてしまい、しゃがんだままの僕の頭を軽く叩いたファミルさんであった。


「案内の続きと言いたいところではあるが・・・」

「いえ、今日はここまでで良いですよ。それに、明日から通うのですから、色々自分で探した方が楽しいと思いませんか?」

「それもそうだな」


チラチラと犯人を拘束している騎士とファミルさんが目配せをしているのに気付いた。

ファミルさんは騎士見習いをしているという話だったから、何かする事があるのかも知れない。


「でも、今日は色々教えて貰えて楽しかったです。また機会があれば・・」

「それは、私をデートに誘っているのか?」

「い、いえ、デートという訳ではないですが・・・」

「ふふ・・冗談だ・・・また、こういう風に気軽に話せれば良いけど・・」

「??」


最後に少しだけ悲しそうな表情になったファミルさんだったけど、すぐに元の表情に戻ってしまった。


「では、私達はこのままこの男を連れて行く」

「僕は、もう家に帰りたいと思います。また明日、会えればいいですね」

「・・・そうだな」


 そう言って、ファミルさんと騎士の人達は去って行った。

騎士の人達と並んで歩くファミルさんの後ろ姿は、堂々としていて他の騎士の人達同様に見えるが

その姿が、少しだけ・・・ほんの少しだけ寂しそうに見えたような気がした。



おまけ


「・・・さてと・・・あまりゆっくりできない状態になってきたな・・・」

「と言っても、慌てても仕方ないけどな・・・」

「二週間で何ができるか・・・・」

「問題は二つ。一つは聖女、もう一つは騎士関係・・・バラバラで対応するとどっちかが・・・」

「あの二人も珍しく焦っていたからなぁ・・・」

「それで俺達に相談してくるのは有り難いんだが・・・聖女の娘の婚約者と聖剣の所有者問題とは・・・」

「聖剣の方はまぁ後回しにして、そんなにやばいのか?婚約者の方は」

「・・・まぁな。教会本部総長の孫息子。顔よし、性格よし、おまけに孫息子としての立場やそれに負けないぐらいの実力もある・・」

「聞いた分には、優良物件みたいだが?」

「だろうな・・・ただ、問題なのが女性関係だな」

「あぁ~~所謂モテモテのプレーボーイか」

「だな、ただ下衆みたいに掃いた、捨てたってな事はなく、全員平等に愛しているみたいなんだが・・」

「・・・女性は寄ってきて、本人は受け入れて・・・なにその羨ましい状況」

「ただ、そのことで他の貴族との関係が悪化しそうでな・・・身を固めて欲しくて話題の聖女の娘と結婚ならばという事になったらしんだが・・・」

「女性関係は途切れなかったと」

「まぁ、孫息子の方から言い寄った訳じゃないからな・・・女性の方からすれば捨てられないように必死なんだよ。しかも、その孫息子は可哀想だからと言って女性たちを受け入れている」

「マリーも言ってたな、一度お見合いをしてみたがシェルムは嫌とは言わなかったけど、覚悟した目をしていたって」

「好きにはなれなかったんだろうな」

「でも、聖女の娘の立場としては嫌とは言えなくて・・・マリーもその事が分かって、でも娘には自由な恋愛をして欲しくて・・・か」

「・・・そこで、何で俺を見る」

「いや?別に・・・・俺らの英雄談の中で必ず一度は恋仲になる話が出る程の二人が現実でも・・・」

「止めろ・・その話は終わったんだよ。俺はマリーよりもアマルを選んだそれだけだ」

「よく言う・・・マリーの結婚の話が出た時は相手の情報をこれでもかっと言うほど集めていた奴が」

「・・・・・昔の事だ」

「はいはい・・・それで聖剣の方は・・・ぶっちゃけ後は本人が気付くだけだろ」

「それが難しいから相談に来たんだろ?しかも、何やら物騒な物を付けて」

「聖剣の代わりと地位の剥奪か・・・」

「元々ルミスの家は騎士では落ちこぼれだったからな。それが家宝にしていた剣が聖剣だったという事に気付き、俺らと旅をして英雄の一人として数えられて地位が上がった・・」

「それが許せない奴らの仕業ってか・・・・聖剣の代わりに言われている魔剣の方はどうなんだ?」

「望・・・お前俺を何でも知っている奴だと思っているだろ?俺にだって分からない事が・・・」

「お前が、仲間だった奴らの問題事に頭を突っ込まない訳がないだろ?で?」

「・・・・誰が作ったか分からないが、性能はかなり良いな。折れず、曲がらず、刃こぼれせずと唯の武器としても優秀だが、魔力伝導や魔力の増幅、魔力変換なんかもあいつが持っている聖剣と同じぐらいだ。多分、聖剣を作る上での失敗作かなんかじゃないか?」

「まぁ、聖剣を作ったやつの作品なら間違っちゃいないんだろうけど・・・・聖剣は性能じゃないからな」

「だな、俺が持っていた聖樹、お前の聖拳、ルックの聖弓、マリーの聖杖、ルミスの聖剣・・・・それが性能だけの武器の筈がない」

「ルミスも忘れっちまったのか・・・聖具があるから英雄になれたのか・・・それとも・・」

「ただいま帰りました」

「この話は今度だな」

「だな」

「ただいま帰りました師匠。あれノゾムおじさんも来てたんですね」

「おかえりアルト、遅かったな?」

「えぇ・・色々ありまして・・・因みに、幻想空間とにゃんにゃんカフェって知ってますか?」

「知らん」

「二人揃って即答するのが非常に怪しいんですけど・・・」

「ま、まぁ、それでお前だけでその二つに行ったのか?」

「幻想空間は別としてカフェの方は、僕一人だけでは入りづらいですよ・・・・今日、学園と学園区を案内してくれた人とですよ」

「・・・・・・因みに名前はなんて言う?」

「どうして、師匠が名前を聞きたがるか分かりませんけど・・・」

「いいから、言え。師匠命令だ。じゃないとリースに言いつけるぞ、知らない所でアルトが知らない女子とデートしていたって」

「言い掛かりにも程があると思いませんか!?・・・確かに女子生徒でしたが・・」

「それで?」

「・・・・・・シェルムさんとファミルさんっていう方でした」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・どうかしましたか?」

「いや、驚けば良いのか感心すれば良いのか分からなくなった」

「それで?この二人がどうかしましたか?」

「あぁ~いや、まだいい・・・それより、ちびっ子達がお前を待ってるぞ?リース達ももうすぐ帰ってくるはずだから、それまで遊んでやれよ。な?」

「・・・・・分かりました。では行きますね」

「おう」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「冗談が本当になったな」

「・・・あぁ、まさか編入前に二人と接触するとは・・・・あ、そうだ」

「・・あぁめっちゃ何か企んでいる顔になったな・・・・アルト坊頑張れよ」

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