案内再び
物を持って鞄に入れる。
そして、その鞄から目的の物を取り出す。
普段の生活や旅をしていた時もやっていた動作だけど、この動作に感動する日が来ようとは思わなかった。
冒険者の鞄
シェルムさんから案内された事務の人から受け取った、冒険科の生徒に渡される教材の中に入っていたのだ。
これは、師匠が空間魔法を応用して作った物だ。
見た目は普通の鞄なのに、入る量が桁違いに違いほぼ無制限とまで言われている。
しかも、鞄の中は時間が停止しているみたいで、食べ物を入れても腐らないのだ。
但し、時間が停止している為に、生き物は入れられない。
最初師匠が作り出した時は、国中が大騒ぎになったらしいけど、師匠が誰でも作れるようにと簡易用の作り方を教えたら一気に広まったのだ。
一番喜んだのは、冒険者と商人の人達だった。
しかし、この鞄は物凄く高い訳じゃないが、安いものでもない。
だから、僕は旅の途中では手が届かなかったから持っていなかった。
「・・・・・・・」
無心でつい先程受け取った教材を出し入れしてみて、感動に打ち浸っていると頭上に影が差した。
「・・・・面白いか?」
「・・・・・・面白いというよりは、楽しいです・・かね?」
視線を上げると、女子生徒が見下ろしていた。
「えぇ~と?」
「・・・失礼した。私はシェルムからの伝言を言いに来た者だ」
教材を受け取った後に、シェルムさんが学園区の案内をしてくれると言ってくれたのだ。
荷物を取りに戻ったシェルムさんを待っていたのだけど、どうやら用事ができたみたいだ。
「何か用事ができたのですかね?・・・シェルムさんは何だか疲れていたようですし、今忙しいのですか?」
「忙しいという訳ではないが・・・余裕がある訳でもない・・といったところかな・・・それにしてもよく分かったな?」
「そうですか?すぐに分かりそうな気がしますけど・・」
今日会ったばかりだけど、シェルムさんは用事もないのに約束を破る人じゃないと分かる。
だから、この女子生徒に伝言を頼んだのだと思ったのだけど・・・
「そうか・・・」
「では、僕はもう帰りますので」
「ちょっと待て」
荷物を全部入れた鞄を肩に掛けて立ち上がると女子生徒が声を掛けて来た。
「まぁ・・・付き合ってみるか・・」
「??」
女子生徒が言った言葉が聞こえて来たけど、意味が分からず首を傾げていると女子生徒は姿勢を正してこちらを見てくる。
「すまない・・・私は騎士科二年のファミルと言う」
「あ、はい。僕は明日からこの学園に通う事になっている、冒険科二年のアルトと言います」
「では、アルト殿と呼ばせて貰っても構わないだろうか」
「良いですよ・・殿と付けられるような立派な人ではないですが・・・では、僕はファミルさんで宜しいですか?」
「構わない・・・それで要件だが、シェルムの代わりに私が案内しようと思うのだが?」
「それは有り難いですけど・・・大丈夫ですか?」
「??大丈夫だ。それで、私も案内とまでしか聞いていないので、校内か学園区のどちらかだとは思うのだが・・・」
シェルムさんの代わりに案内を申し出てくれたけど、何も聞いてないのかこちらを伺うように見てくる姿が少し可笑しくて
「ふふ・・学園区の案内をして貰うつもりでしたけど・・・」
「そうか、では行こうか」
ファミルさんは騎士様のように背筋を伸ばし堂々と歩き始める。
「・・・・よろしくお願いします」
その後を離れないように歩く。
前の大陸で少しお世話になった騎士様やこの街で見かける騎士様のように、堂々と格好よく歩く姿をみて心の中で首を傾げる
「・・どうして今日は似たような人に出会うのだろうか」
シェルムさんは、優しく穏やかに皆を癒すような笑顔を
ファミルさんは、騎士様のように堂々と格好良く
まるで、それぞれの立場を演じているような、本物のような偽物、偽物ではないが本物でもない・・・
そんな風に感じてしまう。
まぁ、唯の勘違いかも知れないと
出会ったばかりで彼女達の何を知っているんだと
自分に罵声を浴びせて、ファミルさんの後について行く事にした。
「最初は何処に向かうのですか?」
「そうだな・・・まずは大通りを歩いてみるか。あそこは私達学園生を対象に商売をしているから、普通の商店街とは違う雰囲気だぞ」
一応、学園に来るために昨日と今朝と通った道だけど、あそこの店は安い、あそこの店は品数は悪いが品質が良い・・など
長く通っている人に教えてもらいながら歩くと様々な発見があって面白い。
「でだな・・あそこの店は学生に人気で・・・なんだ?」
「いいえ、何も・・・出来れば少し疲れたのでその店で休憩にしませんか?」
「む?そ、そうか・・・良いだろう」
実は、途中から店の説明が食べ物系特にお菓子系の店の話が多くなっていたのだけど、ファミルさんは一軒もその店には近寄ろうとはせずに、
でも、その店を通り過ぎる時には何やら難しい表情になったりしていたから、どうせならと誘ってみたのだ。
「お帰りなさいませご主人様、お嬢様」
「・・・・・間違いました」
「お、おい」
店の扉を開けるとそこは幻想空間にも負けない異次元があった。
「・・・・なんですかアレ」
「何って・・・」
「猫人族がいましたよ!猫がいましたよ!普通の人も耳が生えていましたよ!?しかも、お帰りなさいとか!ここファミルさんの家か何かですか!?」
「い、いや違うぞ。確かにそう言っていたが、あれはそういうものなのだ」
「・・・あの・・・大丈夫ですか?」
僕とファミルさんが話していると、先程対応してくれた人?が心配そうに扉から覗いていた。
「あぁ、彼は初めてこういう系の店に来たみたいで、少し驚いただけのようだ」
「そうですか!では、また来て頂ける為に精一杯サービスしますね!」
笑顔が可愛いその人に手を引かれながら、店?の中に入っていく
ファミルさんに助けを求めようと視線を向けるが、早く店の中に入りたいのか気付いてくれない。
「ようこそ!にゃんにゃんカフェへ!」
「お帰りなさいませ!ご主人様!お嬢様!」
「・・・・・・・」
開いた口が塞がらないとはこういう事をいうのかと思った。
「こちらの席にお座り下さい」
呆然と立っている僕を見てクスリと笑った店員さん?に席を勧められてそのまま座ってしまう
「・・・・すみませんが・・人族の方ですよね?・・・その耳と尻尾は・・」
「いけませんご主人様。此処は現世とは離れた妖精の世界。ここにいるのは、人族や猫人族ではなく、猫の妖精なのです・・・にゃぁ」
可愛く首を傾げて招き猫のように鳴く店員いや、猫の妖精さん
そんな姿を口元をヒクヒクさせながらみているファミルさんがいた
「っ!んっんん!では、こちらのオススメセットを二つ頼む」
「畏まりました」
僕の視線に気付いて、姿勢を戻していたけどさっきまでの威厳は何処かに置き忘れてきたようだ・・・具体的には店の前に
「此処は、英雄マコト様とノゾム様の二人が考案した、メイド喫茶とネコ喫茶を合体させたやつだそうだ」
「・・・・・・・」
何してんですか師匠達・・・・
店の中には、猫耳や尻尾をつけた人族や普通に猫人族の人が働いていた。そして、店の至る所には動物の猫がいた。
客も多く、忙しそうにしているが、皆笑顔で楽しそうな雰囲気だと改めて気付いた。
「お嬢様、料理ができるまで少しお時間を頂けないでしょうか?」
そういう風に、店の中を見渡していたら先程の店員・・猫の妖精さんが何かを抱いてこちらに来た。
「ま、まさか」
「どうやらお嬢様はお分かりになられたようですね」
ゴクリと唾を飲み込んだ音が聞こえてきそうな表情してファミルさんは猫の妖精さんから何かを受け取った
「ミャァ~」
それは産まれたばかりの子猫で不安なのかフルフルと震えながら鳴いていた
「・・・・・・」
ファミルさんはピタリと動きを止めて、子猫が落ちないように・・・でもどうしたら良いのか分からないかのように視線をあちこちに彷徨わせていた
「怖がらないでしっかりと抱いて下さいね。それでは、お嬢様こちらもどうぞ」
そう言って渡されたのは、ミルクが入っている瓶で
「ふぁ~~~~」
それを近づけると、子猫は一生懸命飲みだし、それを蕩けたような表情で見ているファミルさん
猫の妖精さんが僕の方をみて、パチリと目を閉じて来たので僕も大きく頷いた。
そこには、騎士様のようなファミルさんではなくて年相応の姿をしたファミルさんがいたのであった。
おまけ
「・・・・・・・」
「どうしたのサヤ?ミヤとアヤも」
「・・・・偽物に負けた」
「偽物?」
「い、いえ・・・でもなんででしょうか?サヤお姉さまの言葉がしっくりきます」




