前回と同じようなきっかけで、悪党を退治することにした。こういうことがよくある。
追い込んだ。口笛を短く吹き、合図を送る。
直後、断末魔が聞こえた。
「うまくやったみたいだな」
「奇襲なら得意だから」
覗きにいくと、ハサンがにっこりと笑いながら強盗の両手を縛っていた。
「おまえら、よくも邪魔を……!」
「はいはい、おにーさんもうだうだ言わない。やられたほうが悪い。この世界の掟でしょ?」
笑顔のまま両腕の縛りをキツくする。いでででで、と強盗が呻いた。
「いいよ、ハサン。離れてな」
わたしは矢をつがえながら、強盗に近づく。
「トドメを刺そうってか。クソッタレ! やってみろ!」
つまらない芝居だ。
弓を構える。向けるのは、自分の背後。
「くり抜け」
撃つ。
矢を食らってもう一人が転がってきた。
「あ!」
「ッ!」
驚くハサンと顔を歪める強盗。
「これで切り札もなくなっただろ」
弓を下ろして止めていた息を吐く。
「どうする? 殺したほうが後腐れないな、とわたしは思うが」
「たしゅ、たけた、た助けてくれ!」
「きみには聞いてない。ハサン、どうする? きみが決めていい」
「見逃していいんじゃないの? リューズ姉さん」
「報復されるぞ? 覚悟してるか?」
「しねえ! しねえって!」
「だからきみには聞いてない」
「何度でも懲らしめるさ。殺しは好きじゃない」
「ふむ」
転がった強盗の一人を掴み、命乞いをする男のほうに投げる。
ハサンも拘束を解いてさっさと離れた。
「連れて行け。あとは好きにしろ」
強盗はそそくさと逃げていった。
「この町はまったく治安がいいよね。毎日毎日バカが出る」
「法治機関がないからな。悪人にとっては楽園だろう」
「おかげ仕事もたくさん」
「そうだな。それでハサン、宝物は?」
「ちゃんと持ってるよ」
「では帰ろう」
強盗された宝物を取り返して依頼人に返したあと、適当に報酬をもらって昼食を取ることにした。
ここらでは人気の飲食店だが、なんとか二人分の席が取れた。
「こんな町でよく飯屋が機能してるよね」
一息ついたのか、ハサンが水を飲みつつ言う。
「店主が強いからな」
「ここの?」
「ああ。銃火器を使っているところを見たことがある」
「どこで」
「ここで。山賊が来て飯代を踏み倒そうとしたから」
あとのときは流れ弾をもらわないように、テーブルを倒して陰でおとなしくしていた。弾代なんてまったく気にせず乱射するものだから、なかなか恐ろしい経験だった。
「ふーん」
ハサンは伏し目がちにもう一口水を飲み、
「リューズ姉さんは、なんで弓?」
「どういう意味だ?」
「銃のほうが楽そうだな、って」
弓じゃなくて銃を使えばどうか、という話らしい。
たしかに総合的に考えれば、銃のほうが圧倒的に弓より優れている。
「別に。性に合ってるから」
「それだけ?」
「大した理由はないよ。使い慣れてるとか、整備が楽だとか、外しても矢を再利用できるとか、そんなところ」
「おもしろくないね」
「わたしもきみに聞きたい。どうして交心術が使える?」
強制的に集中力を上げ、応用すれば相互の読心が可能となる交心術。
これを扱えるのは武道の流派の中でもごく一握りだ。
「昔、友達に教えてもらった」
「名前は?」
「覚えてないね、小さかったし。リューズ姉さんだって使えるじゃん」
「交心術?」
「うん」
「私のは家柄」
「武道家だったんだ」
「小さいね」
そして何年も前に両親がなくなり、潰れた。
門下生がどこで何をやっているかもわからない。知る必要もない。
「わかった、それで弓なんだ」
「まあ、そういうこと」
会話が途切れ、わたしはもくもくと残った雑炊を片付ける。
だいぶ冷めて食べやすくなった。
「今日で四日」
唐突にハサンが口を開いた。
「何が?」
「俺が姉さんの仲間になって」
「ああ」
「最初はどうなるかと思ったけど、けっこう姉さん、」
「何?」
「流されやすいっつーか、人が好いよね」
そうだろうな。自覚している。
「もう俺のこと、仲間だと思ってくれるっしょ?」
「不便はない」
「便利でしょうが。商談するの、毎回俺じゃん」
わたしの商談はいつも適当だ。適当でいい、と考えているから当然だがハサンが 商談をしたほうがうまく行く。単純に報酬が割高になる。
それで、というわけではないが。この三日間で、この男は役に立つ相棒になっていた。
「家を買いたい」
「なんで?」
一人ならば野宿でもなんでもすればいいが、二人だと身軽さに欠ける。
きちんとした定住先が必要だと、昨夜から考え始めていた。
「姉さん、金あるの?」
「ある」
今まで買わなかったのは、野宿で事足りているからもったいなかっただけだ。
買う金はある。安い物件があれば、の話だが。
「うし、そんじゃあ家買いに行きやしょう」
それに、この男がいなくても最近、家がいると考えていた。
何年か野宿でやり過ごしてきたが、齢を重ねるに連れて、寝起きの体調が優れなくなってきた。平たく言えば、体が痛い。ノドが乾く。埃っぽい。
これも何かの契機というものだろう。
人と関わるのだから当たり前だが、この男の登場で、わたしの生活は少しずつ変わりそうだった。




