第25話 VR+まなの未来
突然、LINEが届いたことを知らせる音が鳴った。
私は、LINEの送り主の名前に驚いて、
スマートフォンを座席の上に落としてしまった。
座席の上に落ちたスマートフォンを拾おうとした時だった。
私だけではなく、その場にいた全員が
神妙な面持ちでスマートフォンの画面を
見つめていることに気づいた。
「鹿さん、蓮さん、ジンさん」
私は思わず、3人に声をかけた。
「まなさんからだ」
鹿さんが、自分のスマートフォンを
私に見せると告げた。
「私にも来ている。アドレス知らないはずなのに、
どうして? 」
蓮さんがつぶやいた。
「それを言うなら、私だって同じだ」
ジンさんが困惑気味の表情で言った。
「何かあったのかもしれません」
私は急いで、LINEの内容を確認した。
まな: あかり、私よ
あかり: 本当に、あんたなの? 証拠を見せて
私は、鹿さんのなりすましにだまされたことを
知ったばかりだったため、まなのLINEをも疑った。
まな:ようやく、私たちが再会する日が来た
今から、カーナビに送った住所まで来て
あかり:どこにいるの? 私は動揺を隠せなかった。
「カーナビに何か送信されてきたぞ」
その時、ジンさんがさけんだ。
「何、なんなの、気味が悪い」
蓮さんが言った。
「まながその場所に来てって」
私は気づいたら、ジンさんに訴えていた。
「わかった」
ジンさんがそう言うと、エンジンをかけた。
カーナビに送信された住所へ向かう間、
車中では沈黙が流れた。
住所から考えて、まながいるのは東京の郊外のようだ。
車窓の外の風景はしだいに、都会の色があせて、
緑深い自然豊かな雰囲気へと移り変わった。
私たちが乗ったメタリック色のバンは、
東京郊外にあるとある山の中腹に建つ
山小屋風の家の前に停まった。
「ここがそうか」
鹿さんが車から降り立つと言った。
「本当に、ここにいるの? 」
蓮さんが疑うようなまなざしで、私に訊ねた。
「いると思う」
私はきっぱりとそう言うと、インタフォーンを探した。
「庭からまわった方が早いんじゃない? 」
蓮さんが勝手に、庭に入ろうとした矢先、
見覚えのある中年女性が、私たちの元に
歩み寄って来るのが見えた。
私はとっさに会釈した。
「あかりちゃん? あかりちゃんよね? 」
その中年女性が言った。
「はい。そうです。まなのお母さんでしたよね? 」
私が言った。
「もしかして、まなに呼ばれた? 」
まなのお母さんが、私に訊ねた。
「はい」
私が即答すると、まなのお母さんが、
私たちを家の中に招き入れた。
家の奥から、明るい笑い声が聞こえた。
「早かったわね」
驚いたことに、家の奥から、
車いすに乗ったまなが姿を現した。
そして、まなは、私たちの手前に来ると、
車いすから立ち上がり、
自力で、私たちの前まで歩いて来て見せた。
「うっそ~! 」
蓮さんがさけんだ。
「長い間、待たせてごめんね。
ようやく、ここまで回復したの」
まながそう言うと、私にほほ笑みかけた。
何だか、長い間、会わない内に、
まなは、大人の女性になったような気がした。
中学時代の時みたいに、
何をあせっているのかわからないような
ギリギリ感や不安定さが
今ではみじんも感じさせられない。
ただ、まっすぐで澄んだ瞳は前と同じだった。
「あかりちゃんを驚かせたいと
リハビリがんばったのよ」
あとから来たまなのお母さんが言った。
「驚いたわ。成功ね」
私が、まなに言った。
「あの。木平あかりさんはもとい、
なぜ、僕たちまで招待してくださったのですか? 」
鹿さんが、まなのお母さんに訊ねた。
「あかりちゃんだけでなく、ここにいるみなさんは、
まなの友だちだと思って招待しました。
今まで、この子のことを忘れずにいてくれてありがとう」
まなのお母さんがそう答えた後、深々と頭を下げた。
「お母さん。頭をお上げください」
ジンさんが言った。
「ここはどこ? もしかして、別荘とか? 」
蓮さんがぶしつけな質問をした。
「ここは別荘ではなく、リハビリ施設よ」
まなが答えた。
「良いところね」
私は辺りを見回すと言った。
施設というよりも、森の中にたたずむ隠れ家的な
別荘といった雰囲気だ。
「モスピグレットを買い取って、
VRリハビリ施設を運営する新会社を興すつもりです」
まながそう宣言すると、手はじめの事業として
モスピグレットのゲームを改良した
VR「脳トレゲーム」を完成させて、
近日発売するという
まるで、女実業家みたいな説明をした。
まなの説明によると、
まなが半身不随になった時、
まなの両親が、ここの施設に連れて来てくれたという。
ここにいる間、まなは、施設の方針に感動して
両親を説得して、会社を興すことを決めた。
まなの父親は医師で、まなの母親は看護師。
まなも将来は、医療の道へ進むことを期待されていた。
ところが、ともだちを助けるため事故に遭ってしまった。
いくら、両親が医療技術者だとはいえ、
会社を買収して、新たに起業するのは容易なことではない。
どのようにして、今にいたったのか
くわしくは話してくれなかった。
とにもかくにも、
まなは長い間、
VRリハビリをがんばったおかげで、
今では、車いすなしで歩けるまで
歩行機能が回復して、下半身の感覚も徐々に
戻りつつあるというではないか?
私は正直、信じられなかったけれど、
まなが、元気になったことはすごくうれしかった。
VRにくわしい鹿さんは興味深そうに聞いていた。
自らも、若年性認知症を患うジンさんは、
もしかしたら、自分も回復する可能性があると
と感じたようで、目が輝いているように見えた。
蓮さんは無関心にも見えた。
手渡されたパンフレットに目を通しつつも、
まなが流ちょうに話す内容に、
全然、頭がついて行かなかった。
「VRを使った脳トレにより、
半身不随の人が歩けるようになったり、
PTSDの人が、VRで再現した恐怖を
体験することにより克服した事例もあります。
この施設では実験的に、
疾患や老化が原因で低下した
からだの機能を回復するリハビリを行っています」
施設を見学する合間に、施設長だという男性の
説明を受けたものの、
今まで、エンターテインメントでしか
考えて来なかった私にはまるで、チンプンカンプンだった。
ひとつくやしいのは、同世代の蓮さんが
大人びた表情で説明を聞き、おまけに質問までしていたことだ。
「棚橋さんも病院で、VRリハビリを受けているはず」
最後に、まなが思わぬことを告げた。
「それはない! なぜって、あんたとそっくりな
ロボットが目の前に現れた時、気分が悪くなっていたわ。
とても、克服しているとは思えない」
私はきっぱりと否定した。
「あの子が無意識に、リハビリを拒んでいるんじゃない? 」
蓮さんが隣で嫌なことを言った。
私たちは、まなと再会することを約束して、
森の中にあるVRリハビリ施設をあとにした。




