↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/27

第24話 第3の人物

 ビルの外に出た途端、突然、棚橋がその場にしゃがみ込んだ。


「どうかしたの? 気分でも悪い? 」


 私が、棚橋に訊ねた。


「気分が悪くなりました。


 私にかまわず、2人だけで、鹿さんの元へ行ってください」


 棚橋が低い声で答えた。


 棚橋の顔をのぞき込むと、顔色が悪そうに見えた。


「行こう」


 蓮さんが、私の腕を引っ張ると言った。


「でも‥‥ 」


 私はためらいながらも、


蓮さんに腕を引っ張られた勢いで歩き出した。


棚橋がよろよろと立ち上がると、駅に向かって


歩いて行くのが見えた。


(何とか、大丈夫そうだ)


まなとあんなことがあったから、


たとえ、ロボットだとしても、ショックを受けたに違いない。


それに、棚橋は、鹿さんのことをあまり信用していないみたいだ。


 連れて行かれたのは、なぜか、コインパーキングだった。


駐車場の奥の方に、後部座席の車窓が、カーテンに覆われて


中が見えなくなっているメタリック色のバンが駐車してあった。


「蓮です」


 蓮さんが、そのメタリック色のバンの運転席に向かって


声をかけると、後部座席のドアのロックが解除になった。


その直後、蓮さんが後部座席のドアを勢い良く開けると、


私を先に後部座席に乗せた後、自分も私の隣に乗り込んだ。


そして、外に誰もいなことを確認した上で、


今度は、慎重に、後部座席のドアを閉めた。


私の隣には、野球帽を目深めにかぶりサングラスをかけて


無精ひげをはやした男が猫背の姿勢で座っていた。


「鹿さん」


 蓮さんが、私の隣の男に声をかけた。


「え、鹿さんなんですか? 」


 私は思わず、隣の男の顔をのぞき込んだ。


「やあ、ひさしぶり」


 隣の男が、サングラスを外して


野球帽をぬぐと正体を明かした。


頬がこけて、ひげがだいぶ伸びていたものの、


鹿さんに間違えなかった。


「どうして、変装なんかしているのですか?


それじゃあ、まるで‥‥ 」


 私が言った。


「この人は今の今まで、とある場所に


閉じ込められていたんだ」


 運転席に座っていたジンさんがふり返りざまに言った。


「ジンさん、病気は治ったのですか? 」


 私が身を乗り出すと訊ねた。


「心配かけたが、大丈夫だ」


 ジンさんが穏やかに答えた。


「ジンさんが現れて、あいつがしたことが違法であると


言ってくれなかったら、あのまま、僕はあそこに


閉じ込められたまま孤独死するところだった」


 鹿さんがそう話した直後、大きなため息をこぼした。


「いったい、誰に閉じ込められたんですか? 」


 私が、鹿さんに訊ねた。


「ネットパトロールの会社の上司の


大里純也だよ。この名前に聞き覚えない? 」


 鹿さんが告げた。


「その人って、まさか、彰彦さんいじめの首謀者じゃない? 」


 蓮さんが興奮気味に言った。


「大里は、母方の旧姓を名乗っていたから、


すぐには、彼が、あの大里純也だと気づかなかった。


鹿君のIPアドレスを乗っ取って、


ゲーム公開処刑を執行したり、


松田氏のスキャンダルをマスコミにリーク


したのもすべて、あの男が仕組んだことだ」


 ジンさんが神妙な面持ちで真実を語った。


「しかも、松田氏が失脚するまで、


僕を監禁しようとしていたんだ。


途中で、僕が出て来て、無実を訴えたら、


あいつの悪事がバレてしまうからね。


おそらく、松田氏の失脚を見届けた後、


海外に逃亡しようとしていたんだろう」


 鹿さんが低い声で語った。


「どうして、大里は、松田氏を攻撃したんですか? 」


 私が、ジンさんに訊ねた。


(ジンさんではなく、なぜ、松田氏なのだろうか? )


「わからないかい? もし、松田氏が失脚したら、


彰彦も芸能活動が出来なくなる。


大里は、彰彦が、別の人格に生まれ変わり


芸能界で活躍することを快く思わず、


いつかの仕返しをしたんだ」


 ジンさんがそう言うとうつむいた。


「あんなやつ、訴えたらどうなんですか? 」


 蓮さんが、ジンさんに言った。


「大里は、会社の代表だから、社員のIPアドレスを


盗用することは朝飯前だ。点検だとか言っておけば、


たとえ、疑われたとしてもいくらでも言い訳が出来る。


痕跡は何も残っていないし、証拠と呼べるものがないんだ。


もし、訴えたとして、起訴に持ち込める可能性があるのは


鹿君への監禁事件ぐらいだろう。


松田氏のスキャンダルについては事実なことだし、


マスコミに情報を流したぐらいでは罪を問えない」


 ジンさんが神妙な面持ちで言った。


「鹿さんは本当に、松田氏のスキャンダルを


マスコミに流すつもりはなかったのですか? 」


 私は、鹿さんに念を押した。


あの時の電話では、復讐する気満々に思えた。


「言っておくが、僕は何もしていない。


大里と知らず、上司に報告しただけで、


上司の判断にゆだねたつもりだ」


 鹿さんが答えた。


「なんか、あったみたいな口ぶりね」


 蓮さんが、私を横目でにらんだ。


「鹿さんが姿を消す直前、鹿さんから電話が来て、


自分を陥れた人物に心当たりがある。


いつか、復讐するみたいなことを言っていたから、


てっきり、私は、松田氏のスキャンダルは、


鹿さんが仕組んだことだと思っていたんです」


 私がやぶからぼうに言った。


「君に電話なんてしていないよ。


それに、僕を陥れた人物に復讐しようとは思わない」


 鹿さんが目を丸くすると言った。


「じゃあ、この電話は、いったい、誰が? 」


 私は、スマートフォンの着信履歴を見せると言った。


「おそらく、それも、大里のしわざだろう」


 ジンさんが告げた。


「今や、AI技術により、フェイク動画が作れる時代だ。


もしかしたら、ボイスチェンジャーでも使って、


それらしくしゃべったのかもしれない」


 鹿さんが神妙な面持ちで言った。


すっかり、だまされてしまった。


自分を疑った私に、鹿さんは怒るそぶりを見せない。


もし、私が、鹿さんだったら、


疑われたことに、ショックを受けるだろう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。