第23話 怒涛の展開
「私についてきて。良いものを見せてあげるわ」
蓮さんがそう言うと、
私たちを3階の廊下のつきあたりにある
ドアの向こうへ案内した。
6畳ほどのただ広いフロアには何もなかった。
「ここは何の部屋なんですか? 」
棚橋が、蓮さんに質問した。
その時、蓮さんが、何やら柱のボタンを押した。
すると、突然、何もなかった空間に、
人影のような映像が浮かび上がって来た。
「きゃああ! 」
その人影が徐々に鮮明になるにつれて、
私は、その人影の正体に気づいて思わず悲鳴を上げた。
「大丈夫ですか? 」
棚橋が心配そうに私の顔をのぞき込んだ。
「そんなに驚くとは、見せた甲斐があったわ」
蓮さんがニコニコしながら言った。
「笑い事じゃありませんよ。
これって、何かの冗談ですか? 」
棚橋がキツイ口調で告げた。
私たちの目の前には、
ホログラムのまなが立っていたのだ。
「どうして、まなが?! 」
私は言った。
「これはホログラムよ。見たことない? 」
蓮さんが、私たちに訊ねた。
「言葉は聞いたことがあります。
どうして、まなさんが、
ホログラムになっているんですか? 」
棚橋が、蓮さんに訊ねた。
「ホログラムって何なのよ。説明して」
私は、棚橋に言った。
棚橋の説明によると、
ホログラムとは、何もない空間に表示した
3次元の立体映像のことで、
ARやVRは、デバイスを介して、立体映像を
現実世界に表示させるのに対して、
ホログラムは、デバイスなしで表示させて
見せることが出来るという。
「姿だけじゃない。話しかけてみて。
ちゃんと、会話だって出来るんだから」
蓮さんが、私に言った。
「そんなことまで出来るのですか? 」
棚橋が目を丸くして言った。
「まななの? 」
私はおそるおそる、目の前に見えるホログラムのまなに
近づくと声をかけてみた。
「こんにちわ、みなさん」
まなのホログラムが、まなそっくりの声であいさつした。
「まなの声だわ」
私は思わず涙ぐんだ。
「先日、池袋に、2次元キャラクターが、
3Dホログラムになって現れるエンタメ施設が
オープンしたのを知っている? 」
蓮さんが、棚橋に訊ねた。
「はい。うろ覚えですけど、
雑誌で読んだような気がします」
棚橋が答えた。
「松田さんは、この技術を用いて
将来的には、エンタメ業界だけでなく、
葬祭業などの異業種へも進出する計画がある
と言っていたわ」
蓮さんが目を輝かせると言った。
「葬祭業というのは? 」
棚橋が前のめりの姿勢で訊ねた。
「これ読んでみて」
蓮さんが、ポケットから
雑誌記事をコピーした紙を取り出すと私たちに見せた。
その雑誌記事には、
アメリカのマイクロソフト社が、亡くなった人の
画像、音声データ、ソーシャルメディアの投稿、
Eメールなどを用いたAIで稼働する
チャットロボットを構築するテクノロジーの
特許を取得したことが書いてあった。
「葬式会場で、遺影の代わりに、
このチャットロボットを用いて
故人と最後の別れが出来たらステキじゃない? 」
蓮さんが言った。
「言っておくけど、まなは死んでいないわよ」
私がすかさずくぎをさした。
棚橋の話によれば、まなは一命を取り留めた後、
遠い町に引っ越したはず。
「いずれにしろ、まなが今、
ここにいないということは本当でしょう? 」
蓮さんが言い返した。
「どこにいるの?
これを作ったということは、
まなと接触出来たということだよね?
今、どこでどうしているの? 」
私は思わず、蓮さんに詰め寄った。
「知らないわよ。
松田さんに聞いたけれど、
企業秘密と言ってはぐらかされたわ」
蓮さんが決まり悪そうに言った。
「じゃあ、松田氏と話をさせて」
私は、蓮さんに言い迫った。
「あの人は、私たちには雲の上の人なの。
下界の人間が容易には近づけない。
わかる? 」
蓮さんが顔をそむけると言った。
「何言っているのかわからないわ。
棚橋、行くわよ。今ならまだ、オフィスにいるかも」
私は、棚橋を連れて事務所のオフィスへ向かった。
事務所のオフィスの前まで来ると、
何やら黒山の人だかりができていた。
「あんたたち、正気なの? 」
蓮さんが追いかけて来て、
私たちを引き止めようとした時だった。
周辺がひと際、騒がしくなった。
「出て来たぞ! 」
どこからともなく、声が上がった。
マイクを手にした記者らしき人たちが、
カメラクルーを引き連れて、オフィスの前に
急いで移動するのが見えた。
「いったい、何があったと言うの? 」
私が言った。
「松田さん。ちょっと、待ってください! 」
「週刊Sに載った記事について、事実だと認めますか? 」
「逃げないで、真実を話してください! 」
事務所の人間らしき人たちにガードされながら、
松田氏が逃げるようにして、エレベーター前まで移動すると、
記者とカメラクルーの一行があとをついて行った。
「蓮さん、何があったのか聞ける? 」
私が、蓮さんに言った。
松田氏が、記者たちを遠巻きにしてエレベーターに
乗り込むのを見送った後、蓮さんが、
近くにいた事務所スタッフに事情を聞いてきた。
「週刊Sの今週号に、松田さんが、
モスピグレットに在籍していた当時、
取引していた企業の交際費に、
多額の使途不明金が見つかったんですって。
その取引先企業と言うのが、
くせもので、実在しないペーパーカンパニーだそうよ」
蓮さんが神妙な面持ちで言った。
「ペーパーカンパニー? 」
私と棚橋は同時に驚きの声を上げた。
「よくわかんないんだけど、
架空の会社との交際費に会社のお金を
不正に支出させて、プールしたって疑われて
いるらしいのよ。それにしても、どうして、
今になって、前の会社のことが
出て来たのかしら? 」
蓮さんが眉間にしわを寄せると言った。
「つまり、会社の金を横領したかも
しれないってこと? 」
私が言った。
「信じられない。何かの間違いに決まっているわ」
蓮さんが言った。
「もし、松田氏が逮捕されたら、
アンさんはどうなるんですか? 」
棚橋が、蓮さんに詰め寄った。
「事務所が営業停止になるんじゃないの。
そうなったら、
所属する私たち、アーチストも、
タダでは済まされないでしょうね。
芸能活動出来なくなるかもしれないわ」
蓮さんが肩を落とすと言った。
「使途不明金って、まさか、
鹿さんが、自分をはめた人に心あたりが
あると言ったのは、松田氏のこと?
HIRAGIの人気が絶頂期に入ったこの時を
ねらって、リークしたってこと? 」
私は頭がパニックになった。
「何なんですか? 鹿さんがどうかしたんですか? 」
棚橋にも、私の動揺が感染したらしい。
「2人共、落ち着きなさいよ。
あんたたちが、パニくってどうするんの? 」
蓮さんが冷めた口調で言った。
「もし、鹿さんが、松田氏を逆うらみして
やったことなら、絶対、許せません! 」
棚橋がなぜか、鹿さんに対して怒り狂った。
「とっちめてやらない?
実は、私、あの人の居場所知っているのよね」
蓮さんが意外なことを言った。
「どうして、あんたが知っているのよ? 」
私が、蓮さんに訊ねた。
「あんたたちが、個人的に、連絡を取り合っている
のと同じように、私も、あんたたちが知らないところで、
他の人たちと連絡取り合っているわけよ。
隠していたのはお互い様じゃないの? 」
蓮さんがやぶからぼうに言った。
「どこにいるんですか? 」
棚橋がけわしい表情で言った。
「ここから、歩いてすぐの場所よ」
蓮さんが告げた。
「案内して」
私が言った。
てっきり、鹿さんは、東京を離れていると
ばかり思っていたけれど、灯台下暗しだった。
すぐ近くにいたんだ!
どうして、私に、東京を離れた風に言ったのだろうか??




