第22話 ピンクのうさぎ
ひいらぎは日の当たる表で、
HIRAGIはひいらぎの分身の裏に過ぎなかったはず‥‥ 。
それが今では、TVに出ない日はない超売れっ子アーチストに昇りつめた。
「HIRAGIの今回の新曲、もう聴きましたか? 」
ある日の昼休み、今では、すっかり、
HIRAGIのファンになった棚橋が身を乗り出すと訊ねた。
棚橋は退院してきてから、以前より明るくなった気がする。
まなとのことを私に告白して、心の重荷が取れたせいなのか?
一方、私は、まなを見つける唯一の手がかりを失い気落ちしていた。
これは、たぶん、まなを忘れろと言う神様のサインかもしれない。
「これ見てください! かわいくないですか? 」
棚橋が無理矢理、私にスマートフォンの画面を見せつけた。
そこには、HIRAGIの最新MV動画が流れていた。
HIRAGIの周りで踊るアニメのキャラクターに目を奪われた。
どこからどう見ても、ピンク色のうさぎじゃん!?
しかも、後半にさしかかったころ、
ピンク色のうさぎが突然、
バニーガール風のダンサー(人間)に変身したのだ。
「何よこれ! 」
私は思わず声を荒げた。
すると、近くに座っていたクラスメイトたちが、
私の方をふり返った。
私は、教室にいることを
一瞬忘れて声を上げたことを反省した。
すぐに、近くにいたクラスメイトたちは話の輪に戻ったけれど、
私の心臓は少しの間高鳴っていた。
「どうしたんですか? 」
棚橋が目を丸くすると訊ねた。
「どうしたもこうしたもないわよ!
なんで、知っているの? 」
私が低い声で告げた。
「突然、興奮してさけんだりして、
どういうわけか理由を説明してください」
棚橋が冷静に言った。
「ピンク色のうさぎは、
モスピグレットのゲーム内で、
まなに似たプレイヤーのキャラクターなの。
なんで、HIRAGIのMVのアニメになってんのよ? 」
私が訊ねた。
「それは知りませんでした。偶然じゃないですか? 」
棚橋が困惑気味に言った。
(偶然? 本当かしら )
ピンクのうさぎのキャラクターのことは、
鹿さんにしか打ち明けていない。
鹿さんが、HIRAGIに情報を流すとは思えない。
なぜならば、鹿さんは、HIRAGIに関する事件
の容疑者として疑われたことがあるからだ。
それでも、ピンクのうさぎのキャラクターが、
まなとそっくりな歌声なことを知る人物は、
私と鹿さんしかいないとなると、
もし、
HIRAGI側に情報を流した人がいるとしたら、
鹿さん以外思いつかない。
「鹿さんが、HIRAGI側に
ピンクのうさぎのことをしゃべったかもしれない」
私が言った。
「それって、鹿さんが、木平さんと
秘密を共有していたということですか? 」
棚橋が訊ねた。
「そんな大げさなことじゃないのよ。
まならしきプレイヤーがいたから、
捜すのを手伝ってもらおうとしただけ」
私があわてて言い訳した。
「あの人にはもう、近づかないでください。
鹿さんのことを悪く言いたくありませんが、
木平さんの身に何か悪いことが
降りかかりそうで心配です」
棚橋が神妙な面持ちで言った。
「自分で確かめることにする」
私が告げた。
その日の放課後。
私は、鹿さんのスマートフォンに電話をかけた。
LINEでそれとなく聞き出す方法もあったが、
文字だけでは、わからないこともあると思い、
直接聞くことにしたのだ。
ところが、「現在使われていません」
というアナウンスがくり返されるばかりで、
何度、かけ直してもつながらなかった。
「連絡取れましたか? 」
棚橋が私の顔をのぞき込むと訊ねた。
私は首を横に振ってみせた。
「こうなったら、本陣に押しかけるしかない! 」
私は、棚橋が止めるのも聞かずに、
最寄駅から電車に飛び乗ると、渋谷駅に降りた。
気がついたら、HIRAGIの事務所のオフィスの前にいた。
「誰に聞くのですか? 」
棚橋が心配そうに言った。
そこまで考えていなかった。
ただ、勢いでここまで来た感じ。
私たちが、オフィスの前でうろうろしていると、
エレベーターが停まって、
誰かがこちらへ向かってくる気配を感じた。
「そこで何をしているんだい? 」
見覚えのある人物がけげんな表情で訊ねた。
私は、その人の顔を見てすぐに、その人が
松田氏であることに気がついた。
(こんな偶然ってあるんだ?! )
「HIRAGIのファン? それとも、芸能人志望の子? 」
松田氏が、私に向かってもう一度訊ねた。
「どちらとも違います。
あの、今、お時間よろしいですか? 」
私は意を決すると言った。
「突然、すみません。私たち、HIRAGIのMVに登場した
アニメキャラクターの件で
おたずねしたいことがあって来たんです」
棚橋が冷静に説明した。
「何? どういうこと? 」
松田氏の目が泳いだみたいに見えた。
「あんたたち、松田さんを困らせるのはやめなさい」
そこへ、蓮さんが駆けつけた。
「困らせるって、私たちはただ、聞きに来ただけだけど‥‥ 」
私がそう言うと、蓮さんが私に詰め寄った。
「聞きたいことがあるなら、私を通してちょうだい」
「なんで、あんたにことわりを入れなきゃならないわけ? 」
私が、蓮さんに訊ねた。
「松田さん。お騒がせしました。
どうぞ、行ってください」
蓮さんが、松田氏をオフィスの中へうながした。
松田氏は、私たちの方を気にしながらも中へと消えた。
「ここでは、じゃまになるから下で話そうか」
蓮さんが、私たちを下のカフェへ誘導した。
「HIRAGIのMVに、ピンクのうさぎのキャラクターを
出そうと提案したのは、私だから。
みんなは、私が出演したいがために出しゃばったと
思っているみたいだけれど、実は違う」
蓮さんが席に着くなり告白した。
「何なの? 何か知っているの? 」
私は思わずつばを飲み込んだ。




