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第8話 別れと最後の旅へ




《今回立ち寄った研究室は境界地帯の小さな建物の地下に入り口があるから、気になる人は見に行って欲しい》


 これを聞いてるか分からないけれど、今回の情報を放送に乗せて流す。


《研究室には食用の植物があるから、食料補給のためにも、な》

《なにがあるかは行った人だけが分かります。是非来てください。素敵な隣人――畑の門番もいますよ》

《そうだな、麦わら帽子が似合う可愛らしい奴がな》

《シエルちゃんの可愛さには遠く及びませんが》


 今日もシエルのジョークはキレが違うな、さて、


《今日の放送もここまでだな、明日で研究所を発つから気になる奴はロックを解除しておくから来てくれ》

《無視ですか。そうですか。最低です。シエルちゃんは傷つきました。えーんえーん涙が止まりません》

《横の奴も煩くなってきたから終わりだ。また次の放送まで……では》

《今日のナギは辛辣ですね。ツンデレなのですね。では人類の皆様、またお会いしましょう》


 喧しいわ。







「色々ありがとうな、とうもろこし美味しかったよ」

「ヌッ」

「本当にとても美味しかったです。今まで食べた物で一番美味しかったです」

「ヌッ」

「お土産もありがとうございます。あの美味しかったとうもろこしの缶詰がこんなにもいっぱい」

「ヌッ」

「ありがとうですヌッ」

「移った?」


 美味しい食事や保存食を貰い、このレゾナントに良くしてもらって一日が過ぎた次の日。

 出発の為に研究所兼畑を出た時、レゾナントが見送ってくれた。


「影響を受けやすいとはいえ、自我が無いと言っていましたが、まるで人間のようですね。レゾナントは」

「まだ謎の多い存在だから俺にも分からないことは多いんだよ。こう見てると生き生きして見えるしな」


 このレゾナントが影響を受けた研究者は相当テンションが高かった可能性もあるからなんとも言えないのだ。

 

「昨日の放送でも言ったが、もしかしたらいつの日か、俺たち以外の人間が来るかもしれない。その時はそいつらにも良くしてやってくれ」

「ヌッ」


 伝わってるかは分からないが、返事をしてくれたからには信じるとしよう。


「ただの反応ではないでしょうか、ねぇ麦わら帽子さん」

「ヌッ」


 ……そうか、やっぱり伝わってないのか。


「シエルちゃんは世界一可愛いですよね、ねぇ麦わら帽子さん」

「ヌッ」

「ほら」

「ほら、じゃねぇよ」


 麦わら帽子さんが反応してくれるからって、楽しむな。

 意思疎通が微妙に成立してないとはいえ、だからって良くしてくれた麦わら帽子さんで遊ぶな。


 でも、人間ではなくても久々にコミュニケーションが取れて個人的には満足すぎる。人類がいたという痕跡もあったしな。


「ここの研究者もより美味いとうもろこしを作る為に旅に出たようですね。データにも記されておりました」

「もしかしたら何処かで会えるかもな」

「いえデータから見て、研究者が旅に出発したのは二百年以上は経過しております。間違いなく何処かで――」


 違う、そうじゃないだろう。


「分からないだろ? 空から降ってきたアンドロイドと旅ができる世界なんだ」


 何かがあって会える可能性だってゼロじゃないだろうよ。そうだろ空から落ちてきたシエルさん?


「……それもそうですね。ナギにしては良いこと言いますね」

「だろ?」

「観測していないからこそ、これから先なにが起きてもおかしくありません。もしかしたら明日いきなり研究者が帰ってくるかもしれませんしね」


 滅びた世界を旅しているんだ。絶望したままなんて面白くないだろう?

 なにが起こるか分からない。そんな希望を、夢を見ながら俺たちは進んでいるんだよ。


「それが旅ってもんだろ?」

「ナギ……」


 我ながら良いことを言った気がする。

 これならシエルからの俺の評価も上がるだろう。俺の大切さを再認識しろ。


「良いこと言ったという、自画自賛してる感じを感知しましたよ。格好悪いです」

「さーーて! お前をここに残して旅でもしようかなーーー!!」


 でも、とシエルは言葉を続ける。


「その考え嫌いではないですよ。せっかくの旅なのですから夢を見ながら楽しみますか」

「下げてから上げるのやめてくれない?」


 本当にコイツは……さて、


「じゃあ麦わら帽子さん、俺たちは旅を続けるよ。本当にお世話になった」


 手を差し出して握手を求めてみるが、そこはやはり人類と違うレゾナント、俺の手を眺めるだけで握手に応じることはない。


「まぁ良いさ、じゃあまたな麦わら帽子さん」


 手を下げようとした時、


「ヌッ」

「あっ……」


 麦わら帽子レゾナントはとうもろこしを俺の手に渡してくれた。

 思わず笑みが溢れ、麦わら帽子さんに笑顔で伝える。


「ありがとうな」


 きっとこれが、彼にとっての挨拶なのだ。

 初めて会った時と同じ、とうもろこしで始まり、とうもろこしで終わる。




 麦わら帽子さんと別れを告げ、俺たちはまた歩き出す。


「素敵な方でしたね。レゾナントの認識が変わりました」

「だろ?」

「次はどちらに向かいますかナギ。もっと色々なものが見てみたいです」

「次はいよいよ北の地に入るぞ。かなり寒いらしいから、防寒着の用意をしておこうか」


 まあ、俺も行ったことないけど、


「厚着のモコモコシエルちゃんとは、そんな可愛いものが存在して良いのでしょうか。すぐ着ましょう今着ましょう」

「防寒着って言ってんだろ、今着るな。……それと北の地は、シエルが乗ってた物が墜落した場所だな」

「あ、そうですか。もうそんなところまで……あっという間ですね」


 シエルと会った当初に、飛んでいた方向と角度、それと大体の速度をシエルに教えた時に墜落予測地点を教えてもらっていた。


 だからこそ、自分で答えたことならシエルも分かっていただろう。


「なんだ? 俺と別れるのは寂しいのか?」

「調子に乗らないでください。私は自分の存在を知りたいのです。辿り着くことが目標なのですから」

「そうかよ、悪かったな」

「……はい」

「行くぞ、シエルの存在を探りに」




 二人――人とアンドロイドが目的地へと向かう。

 ナギにとっての旅の通過点であり、シエルにとっての旅の終着点。二人の旅の最後が幕を開ける。








































「ただいま帰りましたわよーー!! お利口にお留守番できたかしら麦わら帽子ちゃーーん!!」

「ヌッ」



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