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第7話 とうもろこしと優しいレゾナント




「ナギ危ないです。離れてください」


 シエルが俺の手を掴み、後ろへ引っ張りながら警戒を知らせている。

 表情はいつも通り変わらないが、僅かにレゾナントを睨みつけているようだ。シエルの警戒心が限界値まで上がっているのだろう。

 それはそうだ、前回見たレゾナントが怪物のような見た目だったわけだし、焦るのは無理もない。


 ただそんな警戒せず、今回は安心して欲しい。


「コイツは大丈夫な方だ。落ち着けシエル」

「”大丈夫な方”って……何を言っているんですかナギ。レゾナントの凶暴性はよく理解できてます。離れてください。人型くらいの大きさであれば、私が排除します」

「だから物騒なんだよお前は――」


 なんとかシエルを落ち着かせようと試みていた時、いつの間にやら、音も無くレゾナントは俺の眼前まで辿り着き、モヤのような手を俺の前に差し出し、


「殲滅ミサイル発射装填――目標を消し炭にします」

「馬鹿! やめろ!」


 筒状に変形させた手をレゾナントに向けた瞬間――、




「ヌッ」

「ッ!?」


 レゾナントの手の中にあった物を見て、シエルの動きが止まった。

 ”それ”を見つめながら、変形された手をゆっくり下ろし、シエルはゆっくり言葉を発する。


「……これは”とうもろこし”ですか」

「ヌッ」

「私にくれる、と」

「ヌッ」

「……」


 暫しの沈黙。

 畑に実った立派なとうもろこしを持ったレゾナントと、それを眺めながら反応に困っているシエルの図が出来上がり、俺はそのシュールさに思わず笑ってしまった。


「わ、笑い事ではありません。なんなのですかナギこれは」

「悪い悪い、つい面白くてさ」


 呼吸を整えて改めてシエルに告げる。


「コイツは”安全なレゾナント”なんだよ」



「ヌッ」

「あ、椅子まで……ありがとな」


 麦わら帽子がチャームポイントのレゾナントから椅子を渡され、ありがたくそこに座る。

 俺たちが座ったのを確認し、レゾナントはとうもろこしを蒸し器に入れ、蒸し器を微動だにせず凝視しだした。


 その一連の流れを眺めていると、シエルが俺の肩を突く。


「ナギ、どういうことですか」

「ん? あー、とうもろこしだろ? なにやっているんだろうな。あれ」

「違います。私が聞きたいのはそれではありません」

「じゃあ気にならないのか?」

「なります」


 なるんかい、じゃあなんだよ。何が気になるんだ?


「レゾナントですよ。なんであんな友好的なんですか」

「あーそれか」


 シエルの疑問は当然だろう。

 会って間もない頃に遭遇した、怪物のように血に飢えたレゾナントと最初に邂逅し、次に会うレゾナントはこんなフレンドリーならシエルの反応は当たり前のことだ。

 だからここははっきりと伝えるとしよう。


「レゾナントって存在は別に人間に害のある存在じゃないんだよ。コイツらはあくまで中立なんだ」

「中立……」


 レゾナントは人間に対して害意などない。

 それどころか思考というものを持たず、ただそこに存在しているだけ、という無機物にも近い存在なのだ。

 俺を育ててくれた爺ちゃんが子供の頃には既に存在していて、間違いなく百年以上はこの世界に人間と共存している。


 敵でも味方でもなく、およそ”いわゆる知能を持たない存在”それがレゾナントだ。


「なるほど……とりあえずあのレゾナントが敵でないことは分かりました」

「なら良かった。好意的なレゾナントと敵対するのは得策じゃないからな」

「一つ不明な点があります。ナギ聞いて良いですか」


 なんだ?


「前にあった奴とこのレゾナントの違いってなんなのですか。ここまで違う理由を知りたいです」


 あーそれか、実は簡単な理由なんだよ。


「シエルはさっき研究データとかを見つけただろ? それに”影響を受けたんだよ”」

「影響……言ってる意味が理解できません」


 俺の解答を受けても分からないからか、シエルは俺の頬を人差し指で突っつく。

 今から話すから待ってろよ、やれやれ。

 

「無害なレゾナントにも特徴があってな? あいつらは世界に残った記録や感情の影響を受けるんだよ」

「記録……感情……」


 例えば、さっきシエルが見つけた研究データから、このとうもろこしを育てていた研究者の善意というか、とうもろこしへの熱意か愛の影響を受けたんだろう。

 レゾナント自体に人間と敵対する考えはないが、受けた影響によって変わるのだ。


「つまり前の私が初めて会ったレゾナントは、残されたなんらかの悪意の影響を受けていたからあんなに獰猛だったのですか」

「おそらく過去に生きていた捕食動物の狩猟本能を感じ取って影響を受けたんだろう」


 今、眼前にいるレゾナントはモヤだが人間のように両手両足がある。だが前のレゾナントは四足歩行で得体の知れない唸り声をあげていた。

 形も存在もおぼろげなレゾナントだからこそ、影響を受けたものに寄った姿にもなる。


「って爺ちゃんに教わった。そもそもレゾナントはそんなにいっぱいいるわけじゃないからな」

「あ、そうなのですか」

「俺も一人で旅を始めてから片手で数えられるくらいしか見てないぞ」

「こんな短期間に二体と遭遇とは。シエルちゃんの運の強さは偉大ですね」


 最初に敵対してるレゾナントに会ったんだけど? あれは運が良いと言えるのか?


「それはそれ、これはこれですよ」


 あ、そうですか。とりあえずこのレゾナントには攻撃するなよ。せっかく出迎えてくれているんだから。


「こうして見ると、表情も感情もなにも分かりませんが」

「お前が言う?」

「私たちと出会って嬉しそうにしてますね。とうもろこしへの愛も伝わってきます」

「あの麦わら帽子もなんか可愛らしいよな。畑の状況的にコイツがここの管理をしていたんだろう」


 相当とうもろこしのことが好きな……いや、とうもろこしを死ぬほど愛した者の感情を読み取ったのだろう。

 どのくらい前からいるかは分からないが、埃の積もり方からして、何年もここに人は訪れていない。そんな途方もない期間の間、この畑にいたとは凄まじい。


「ヌッ」


 管理された綺麗な畑を眺めながら座っていると、麦わら帽子のレゾナントは、蒸し器から取り出した美味しそうなとうもろこしを渡してくれた。




 ただ蒸されたとうもろこしは、今まで食べたどんな物よりも美味しかったとさ。



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