第6話 畑の管理人
◆
「ようやく見つけました」
「だいぶ時間かかったな……」
「ナギが文句を言うからですよ。効率的に考えて地面を吹き飛ばせば良かったのです」
「なんでお前はそんなダイナミックにやろうとするんだ。シエルにとっては未知の物なんだろう? もっと丁寧にしろよ」
壊れたらどうする、と聞き返すと、
「甘いですね。この程度で壊れるならその程度の存在ということです。私の方が高性能だっただけのことです。さすがシエルちゃん最強。ブイ」
「無機物に対して厳しすぎない?」
勝利のピースサインをして、自身の優秀さを表す傲慢なロボット。
まあ、何かを発射したり、センサーでスキャンしたり、高性能なのは分かったけどな。
とりあえずは今はこれに集中しよう。
「少し埃っぽいですが、やはり中はかなり暖かいですね」
地下の存在を確認した後、無理矢理調べようとしたシエルをなんとか食い止め、再度スキャンをさせた結果、少し離れた場所に地下に通じる道を見つけた。
実際、本当にかなり暖かい……いやそれより、
「やっぱり人はいないのか?」
「はい。調べたところやはり人間の存在は確認できませんでした」
「そうか……」
事前に聞かされていたとはいえ、僅かな可能性に賭けてもう一度聞いてみたが、やはり人はいないらしい。
ならもうハッキリ切り替えて行こう。なんらかの痕跡が見つかるかもしれないからな。
そして、しばらく通路を進んでいると扉を見つけた。
「スキャンしましたが、厳重なロックがかかっているようですね」
「え、じゃあ入れないのか」
「任せて下さい。この程度のロックなんて私からしたら造作もないですよ」
「お前は強盗か何かか?」
「鍵っ子シエルちゃんと界隈では有名です」
「誰に言われてんだよ、誰に」
お前記憶喪失だろうが、てかそもそもシエルって俺が数日前に名付けたんだが?
「解錠に成功しました」
「はっや!? ほんの数秒で!?」
「言ったでしょうナギ……私はプロなんですよ」
お前は盗賊か何かなのか??
●
「おぉ……凄いなこれは……」
「なんですかこの――黄金の植物は」
鍵を開けて入った部屋には、自分たちよりも遥かに背の高い植物。黄金というのは正直比喩表現だが、それでも輝いて見える綺麗なものだ。
その大きな植物が室内にギッチリ並んでいた。
「しかもやっぱり暖かいですね」
「ほんとだな、だいぶ心地良い感じだな」
「気温は二十四度、土壌含水率は二十パーセントくらいで程良く湿ってます。空気中の湿度は六十パーセントくらいですね」
なるほど……、他には?
「おそらく天井になんらかの仕掛けをしておりますね。太陽光を擬似的に表現しているようです。風もふんわりと吹いています。状態的にこれがこの植物の最適環境みたいですね」
「そこまで分かるのは凄いな」
「記憶がなくても分かります。シエルちゃんは高性能な最強アンドロイドのようですね」
またも自画自賛の酷いシエルだが、ここまで来ると事実そうだろう。僅かな接触で詳細な内容が分かるのは凄いな、ここは素直に褒めよう。
「凄いな、さすがシエルだな」
「うわなんですかそんな急に。脳に異常でも起きましたか。お可哀想に」
「あ、ごめんな? 一回殴っていい? お願いマジで」
いい加減認めて褒めたのになんだその言い方は? しょうがない……ここで人類とアンドロイドの最初で最後の争いを始めようか。
「あ、あれを見てくださいナギ」
拳を握りしめて戦闘準備を始めた時、シエルが指差す方へ渋々目を向けた。
そこは植物から離れており、テーブルやら謎の種が転がって、おそらく人が使っていたであろう研究スペースのようだ。
「お!!? これ絶対人がいただろ!?」
旅を始めて長い時間をかけて、ようやく見つけた人類がいたであろう痕跡に、俺はかなり興奮した。
それはシエルも同様のようで、
「かなり古いですが、指紋や髪の毛もありますね。間違いなく人間がいた証拠でしょう」
「ようやく見つけた痕跡だから普通に嬉しいな」
「私もそれは同意します。探求心がそそりますね」
無表情ではあるけれど、小走りでスペース内を動き回るシエル。コイツも絶対テンションが上がっているだろう。
「ナギ。こんな物を見つけました」
「ん……これは? 缶詰か?」
「そうみたいです。内部構造をスキャンしたところ、植えてある植物の実が入っているようです」
「……」
あの綺麗な植物が……
「開けてみるか?」
「はい」
「即答かよ」
謎の物に対して恐怖心よりも好奇心の方が勝つタイプなのだろう。ま、俺もそうだが。
「……外装は何もないから情報は無しか」
大体の缶詰には中身が分かるように、内容物の表示がされているが、これは何もないただの缶だ。
……俺一人なら開けないかもしれないが、ここにはシエルがいる。何かあればコイツが対応してくれるだろう。
「……黄色い粒だ」
「本当ですね。缶いっぱいに入ってます」
やけに重い缶だと思ったが、内容量がかなりの物らしい。粒自体は小さな石ころくらいしかないのに、集まってるだけでこんなに重いのか。
一粒摘んでみると、さらに驚かされる。
「重っ!?」
「凄いですね。小さいのにとんでもない密度です」
「たしかに、それになんといっても甘そうな良い香りだ」
恐る恐る口に含み、噛んでみると甘いエキスが口内に広がり、思わず目を見開く。
「甘っ!! 美味いなこれ!!」
「これは自然の甘さですか……素晴らしいです……。人工甘味料とは全く違う……心地良い甘さですね」
今まで食べた缶詰の中で、これ程まで美味いのは食べたことがない。
普段、無表情のシエルも僅かに目を見開いていることから、驚いていることが分かる。
ちなみにだが、シエルは人間ではないけれど、飲み食いを普通にできる。しなくても良いらしいが、コイツの分も用意しないと拗ねるので、一緒の食事をしているのだ。
それにしてもこんなに美味い物があるなんて……、
「”とうもろこし”というそうですね」
「え、凄いな。食べるだけでそんな情報まで分かるのか。さすがアンドロイド」
「ただテーブルにあった植物の研究データを読み取っただけですが」
なんだよ。またシエルの能力が判明したのかと思ったのに。
「勝手に期待して、勝手にガッカリしないでくださいよ全く」
そうはいっても、俺からしたら人間じゃないお前のことも気になるから仕方がないだろう?
「食べることのできる植物とは素晴らしいですね。殆どのデータは破損してますがこの”とうもろこし”をとても愛した者が作っていたようです」
「なるほどな、この美味いのはその人が作ったのか」
もっと知りたいですが、これ以上のことは分からないらしい。
まあ古い記録なら諦めるしかないだろう。
「でも不思議ですね。いくら自動化されているとはいえ、施設の状態が良過ぎます。育てていた方がいないなって何年も経過しているはずなのに」
「それならほら――」
甘い匂いに、別の気配が混じった。
原因はあれだ、と畑の方を指差す……すると、とうもろこし畑からナニカが姿を現した。
「――? んぅ――?」
「ッ!! ナギあれは……」
シエルがそのナニカの存在に気付き、俺の後ろに隠れる。
お前も前に会っただろう? あれは――、
「レゾナントだ」
人の強い想いに影響を受けたモヤのような存在”レゾナント”が麦わら帽子をかぶって、のっそり畑からこちらにやってきた。




