第5話 たどり着いた新たな場所で……
《今日でようやく荒野地域抜けそうだな》
《あっという間でしたね。もっといたかったです》
《俺は疲れたわ。お前がなんでもかんでも聞いてくるからな》
《仕方ありませんよ記憶喪失なので、気になるお年頃なのです。可愛い女の子から話しかけられて良かったですねナギ、ご褒美ですよ》
《自分で可愛いって言ってる時点で程度が知れるよな》
《カッチーン》
口で言うな口で、お前は感情が豊かなのに表情が変わらないせいで、変な感情表現なんだから……。
《可愛いシエルちゃんは、ナギという厄介な性癖の持ち主に、いつか何かされそうで怖いです。恐怖のあまり身動きができません》
《はは、過去一面白いジョークだな》
《カッッッチーン》
真顔で再び、現在の感情を口にするシエル。どうやら怒って? いるようだ。
ここまでシエルとの旅を始めて十日が過ぎた頃、荒野地帯を抜けて、俺たちはいつもの定期放送を行っていた。
《さて次はおそらく――海か大きな湖が陸地と隣接してる〝境界地帯〟だな》
《境界地帯……ワクワクする響きですね》
《海だったらラッキーだぞ。魚が美味いからな》
《さてすぐ行きましょうナギ。それでは放送を終わりますね皆さま。じゃんけんぽん――ウフフフ》
よく分からない言葉を最後に放送終了ボタンを押すシエル。おい勝手に押すな。
「早く行きましょう。魚が――いえ、人類の痕跡が私たちを待っております」
今、魚って言ってなかったか?
気のせいです、って? 嘘つけ? せめてこっちを見ながら言えよ。
好奇心に負けたシエルの独断で、早めに境界地帯まで向かう。
一緒にこのロボットと旅をして、コイツの知的好奇心がとんでもなく旺盛なのを分かっていたのに、俺の失言だった。
諦めて走るシエルにしばらく着いていくと、シエルが突然立ち止まり口を開いた。
「ナギ、あれを見てください」
「ん? どうしたシエル」
「眼前に人工物の気配を感知しました。寄ってみたいです」
「お前にはそんなのも分かるのかよ。いや寄るって言っても、今から俺たちはそっちに行くんだよ」
この世界は少し特殊で、決められた範囲内に四角形の生態が構築されている。つまりは、必ず何処かに境目が存在するのだ。
「それがあそこだぞ、シエル」
「うわ、なんですかあれ」
何かに気付いたシエルが小走りで進むと、少しした地点で地面に向けて視線を下ろしている。
「ここが”区切り”ってやつだよ。ここから先は全く違う環境に変わる」
そしてここが、
「”境界地帯”だ」
「凄いです。いきなり地平線まで水しか見えない場所と、そして直角に隣接された陸地、ここまで来ると不気味な綺麗さがありますね」
シンメトリー好きな人でもこれは思わず笑顔になるくらい、病的なまでに直線な区切り。
昔の人は何を思ってこんな世界を作ったのか――と言っても、
「どんなに景色が変わっても、俺たちが歩き続けることは変わらないがな」
「……言っていることは間違いないですが、一つ確信を持って言えることができました」
「なんだ?」
「ナギはモテませんね。気の利いた言葉も言えずに、ムードも何も分かってない発言しかできないなんて、ナギは独り身確定です」
おっとこれはアンドロイドジョークかな? じゃないなら自爆スイッチとかないのか? 押させてくれ。
「プリティシエルジョークです。キャピ」
「はっ」
「鼻で笑いましたね。検知しましたよ」
「さて……で? なにかを感知? したんだろ? 何処にあるんだよ」
「話をすり替えましたね?」
露骨な話題替えはナギの得意技ですね、だと? うるさいぞ早く教えろ。
「全く……そうですね。待ってください再度スキャンします」
そう言うとシエルは両腕を前にかざす――すると、
「精密スキャンモード……開始します」
突然シエルの腕がまたしても変形した。
前回は銃身のような筒状に変形したが、今度は手のひらが僅かに変形し、石ころくらいの宝石のように綺麗で小さな球体を出すと、それが手の中で回転しだす。
「スキャン範囲選択――五十メートルに指定。三次元ではなく四次元で限定的全方位で絞ります」
「おーー」
なんか凄く細かいことをしている……ような気がする。
あまり言わないようにしていたが、実は俺は少しだけシエルを疑っていた。ようやく新たな場所に来たというのに、いきなりなにかを始めたのだ。
人間でないことは分かっているが、ここまで脈絡無くいろいろな情報を言われてると、少しくらい口からデマカセでも言ってるのかもと疑ってしまう。
「実際なんもないしな」
そう、本当に何もない。あるのは底の見えない水溜りに陸地と、小さな建造物だけ。
一体何が反応したのやら、こんな何もない状態で引っかかる物など無いだろう。
人の気配もないし、
「反応を確認しました」
「嘘だろマジか!?」
「何故そんなに驚くのですか。さては疑っていたんですねナギ。信じてくれないなんて最低です」
「う……す、すまん」
全くナギは、とシエルは無表情のまま頬を膨らませる。
「温度はかなり暖かいです。おそらく電力が供給されているのかもしれません。おまけに植物の反応も確認できます」
「植物!?」
嘘だろ!? この世界で植物があるだと!?
しかも電力までもがあるとは……もしかしたら爺ちゃん以外の人間がいるかもしれない。
「残念ながら人間のような生体反応はありません。あるのは植物の生体反応だけです」
「そ、そうか……」
人間はいない、その言葉に少し気分が落ちてしまったが、これは手掛かりが手に入るチャンスだろう。
「それで? どこにあるんだそれは?」
見た感じ周りにはなにも無さそうだが?
「地下です」
「え?」
「地下に反応があります」
え……いやどうすんだそれ……、そう聞き返すとシエルはこれまた無表情で答える。
「地面に向けてエネルギー砲を放ちましょう。効率的です」
「いきなり強引すぎだろ!?」
さっきまでの精密さはどうした!?
「お腹が空いて力が出ません。頭を使うには糖が必要なのです」
「エネルギー砲は!? それ撃ったら糖だけじゃなくて、エネルギーも不足するだろ!!?」
「エネルギーは太陽光と地熱と空気から摂取できます」
「なんで腹減ってんだよ!?」
それもそれらから摂取しろよ! 非効率ロボットが!!




