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第3話 お前の名前は__



《夕方の定期放送を始めるぞ》


 今日も始まる放送の時間。

 最初は不定期だったが、夕方には必ずやると決め、回数でいったら既に二桁を超えたくらいだろう。

 ハッキリとした回数は分からないが、他の人類が生き残っている可能性に賭けて始めた放送もだいぶ手慣れてきた。


 そんな回数をこなしてきた俺の配信にも変化が起こる。


《今回のゲスト……というか、初めてのゲストの……お前なんて名前なんだ?》

《はい初めまして人類の皆様、私の名前は……って記憶喪失なのでわかりません。どうしましょう》

《しらねーよ》


 記憶喪失なのを分かっていて話を振って俺も悪かったが、それにしたってもっとあれだろう。臨機応変にというのがあるだろう。


《では〝ゲストA〟さんでお願いします》

《安直!》


 細かい事に小言を言ってくるくせになんて適当なんだよお前。


《仕方ありません。こういうのはパッと出てくるものではないです。今回は妥協しましょう》

《一理あるな》


 こういった話は普通始める前に決めるものでは? って? うるさいぞ放送中だ。


 さて、


《話が逸れてしまってすまなかった。俺たちの現在の居場所は廃墟地帯を抜けてしばらく、ここは……おそらく荒野地帯に入ろうとしている? かもしれない。すまないな情報が少な過ぎて判断できない》

《半径二百メートルに目立った物体は確認できません。荒野地帯という予想は間違いないでしょう》

《二百って……なんでお前そんなの分かるんだよ》

《はて? そういえば何故でしょう?》

《……聞いてる人いたらツッコんでほしいわ……マジで》


 俺に聞くな、と言い返すがコイツは自問自答を始めたのか、首を傾げている。

 まあ、良いだろう。気になるが今は一旦置いておく。


《天気は晴れ、雲の流れを確認するに……明日の天気は曇りか?》

《そんなことも分かるんですか?》

《今まで色々な所を見て、俺の経験から得た能力だな》

《凄いじゃないですか人類》

《確率は六割ギリ行かないくらいだな》

《低……》


 喧しい、昔じいちゃんが持ってた人探し機能がある杖もそんな成功確率だったぞ。こんなもんだろ人間の知恵や経験で絶対なんてありえないんだから。

 そんなことを呟くように言い、放送を続けようとした時だった。

 

「ならば私が調べますよ」

「は? どうやって?」


 聞き返すとコイツは突然腕を空へ向け、


 「〝気象探査ユニット〟の使用を選択」


 そう言い放った瞬間____手が変形した。


「……え?」

 

 ほんの数秒前まで人の手だったそれは、機械仕掛けの金属音が鳴り響きながら、筒の様な形状へと変形を遂げていたのだ。

 男心をくすぐられるメカメカしさではあったが、そんなものを楽しめるほど、俺の脳の適応力は高くなかった。


 そして、


「__発射」


 手があった所から勢い良く放出された何か、レーザーやエネルギー系統ではなく、僅かに大地の揺れる感覚と、筒から何かが飛んでいった様に見えた。

 それを確認する為に放たれた先の空を見ると、

 

「なんだあの玉」


 宙に浮いた謎の球体。

 おそらく……いや、間違いなくこの得体の知れない奴が放った謎の物体なのは間違いないが……いったいなんなんだ。

 なにをしたんだ、と聞こうとした時、コイツは口を開いた。


「分析完了しました。明日の天気は降水確率九十七%、ほぼ間違いなく雨ですね。不確定要素しかない発言は控えた方が良いと推奨します。情報を発信する者として」

「あ、え、えっと……」

「なんですか?」


 平然とダメ出しをしてくるが、そんなことを気にしている余裕はない。

 だからとりあえず一番聞きたいことを聞くとしよう。


「お前その手……」

「ってなんですか。私のこの手」

「いやこっちの台詞なんだが!?」


 聞こうとしたら突然自分の腕を見て驚くと、コイツは変形した腕を俺に向けて訴えてくる。

 おい、銃口を俺に向けるな。

 

「私の手がなくなってしまいました。どうしましょう。これでは日課の私の可愛らしいお手手を眺めてウットリすることができません」

「あまりにも斬新な日課だな、常に薬物検査に引っかかりそうな感じだ。てかもう片方の手があるだろ。それでも眺めてろ」

「あ、それもそうですね。解決しました」


 なんだコイツ、もはや呆れて何も言えない。一旦放送を終わりにして、この得体の知れない少女を眺めてみる。

 今見ると髪色や瞳? もなんだか人間ぽくない。


 もしかしてコイツ……、


「あ、見てください戻りました。私のプリティーな手が戻ってきました。これでまた眺めることができます」


 またしても機械特有の金属音が鳴りながら、筒状だった腕が変形して人間らしい五本の指が帰ってきた。基本が無表情のコイツも少しだが嬉しそうにしている。

 あー良かったな、いやそんなことよりもだ。


「俺、思ったことがあるんだが」

「ナギ奇遇ですね。私と同じことを思っているかもしれません」


 お、まさかコイツと気が合うとは、なら一緒に言ってみるか? ……せーの。


「「私の名前……(お前……)いい加減決めませんか(ロボットなんじゃね?)?」」


 うん、ごめん勘違いしてた。全然違ったわ。


 コイツがここまで色々ズレているとは思わなかった。自分の腕が変形したんだぞ? その状態で名前? 楽観主義にも程がある。

 そんなにも気になることか?


「〝コイツ〟や〝お前〟だなんて嫌です。私が記憶が無いからって、名前で呼ばないなんて許せません」


 どんな名前が良いんだ? リクエストは? と質問してみると「プリティーちゃん」だの「ラブリーちゃん」だの、自分の名前を提案してきた。いやそれを言う俺の身にもなれ、不快な極まりないわ。


 だったら、


「〝シエル〟なんてどうだ?」

「……理由を聞いても?」

「空とか天空とかの意味なんだけどな? 空から落ちてきたから良いかな? とな」

「安易ですね」


 ほっとけ、


「シエル……悪くありませんね。気に入りました。これからは〝ラブリーシエルちゃん〟と名乗りましょう」

「却下だ」

「わがままですねナギは、シエルは悲しいです」


 割と気に入ってんじゃねーか。

 でもお願いだから自分を名前で呼ぶのは辞めてくれ。痛々しいわ。


「シエルたん悲しくてぴえんです。ぴえん超えてぱおんです」

「……」


 イラッ……意味は知らなくてもなんか腹立つ。


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