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狼男に転生した俺は魔物の支配者ではなく、庭付き戸建ての夢を見る  作者: ミツメ


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13/21

静けさは冷たかった

 目が覚めたとき、最初に感じたのは静けさだった。あれほど燃え盛っていた炎の音も、人間たちの怒号も、ノームたちの悲鳴も、すべてが消え去り、ただ風が灰を撫でる音だけが残っている。

 体を起こすと、視界に広がるのは見慣れたはずの場所の残骸だった。畑は黒く焼け、家は崩れ、水車は止まり、そこにあったはずの営みは何一つ残っていない。匂いだけが残っている。焦げた木の匂いと、濃くこびりついた血の匂い。その中に、かすかに残るノームたちの気配を感じ取って、胸の奥が重く沈む。


 しばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて足を動かした。何をすればいいのかは分かっていた。誰に教わったわけでもないが、知っている。前世の記憶のどこかにあったものと、ノームたちが語っていた大地の話が、自然と結びついた。土に還る。巡る。終わりではない。そういうものだと。


 俺は一体ずつ、ノームたちの亡骸を集めた。小さな体は軽く、簡単に持ち上がる。その軽さが逆に現実を突きつけてくる。昨日まで動いていたものが、今はもう動かない。それでも手を止めることはなかった。地面を掘る。爪で土を掻き分ける。湿った土の感触が指に残る。深く、深く掘る。そこにそっと横たえる。土をかける。何度も繰り返す。言葉はなかった。何かを言う資格があるとも思えなかった。ただ、作業を続けた。


 カロ爺の体を運んだときだけ、手が止まった。最後に交わした言葉が頭の中に蘇る。自分の名前を問われたこと。答えきれなかったこと。土の中に置く前に、少しだけ見つめる。だが、結局何も言えず、そのまま土をかけた。覆い隠すように、しっかりと。


 すべてを埋め終えたとき、陽は高くなっていた。どれくらいの時間が経ったのか分からない。体は土と血で汚れている。だが、不思議と疲れは感じなかった。ただ、空っぽになったような感覚だけが残っていた。


 その場に座り込む。墓の並ぶ場所を見つめる。何も動かない。何も起きない。分かっていたことだが、それでもどこかで期待していたのかもしれない。風が吹き、土の匂いが流れる。それだけだった。


 腹が鳴る。ぐう、と間抜けな音が響く。現実に引き戻される。生きている限り、腹は減る。どれだけ何かを失っても、それは変わらない。


 立ち上がる。森へ向かう。足は自然と動いた。狩りをしなければならない。体がそう命じている。考える余地はなかった。


 気配を探る。匂いを辿る。獲物はすぐに見つかった。中型の魔物。こちらに気づき、威嚇してくる。だが関係ない。地面を蹴る。加速する。一瞬で距離を詰める。爪を振る。肉が裂ける。牙を突き立てる。温かい血が口に流れ込む。暴れる。抑え込む。押し倒す。終わる。短い時間だった。


 喰らう。肉を噛み、飲み込む。味はいつもと同じだ。満たされるのは腹だけで、それ以上のものはない。だが、今日はそれでいいと思った。何も感じたくなかった。


 だが、一体では足りなかった。まだ足りない。別の気配を追う。次も、また次も。狩りを繰り返す。体が動く限り、続ける。気づけば、足元にはいくつもの死体が転がっていた。血の匂いが濃くなる。


 そのとき、ふと手が止まった。


 食べきれない。


 明らかに余っている。今までなら気にしなかった。放置すればいいだけだ。森が勝手に処理する。だが、なぜかそれができなかった。


 視線が自然と集落の方へ向く。


 頭に浮かぶのは、ノームたちの姿だった。畑を耕していた手。笑っていた顔。食べ物を分けてくれたときの様子。言葉が、断片的に蘇る。


 無駄にするな。巡る。分ける。


 理由は分からない。ただ、そうしたいと思った。


 肉を咥える。引きずる。重いが問題ない。集落へ戻る。焼け跡はそのままだ。墓の前まで来る。並んだ土の盛り上がりを見つめる。


 そこに、肉を置いた。


 一つではない。いくつも。できるだけ均等に。誰に渡すわけでもない。誰が食べるわけでもない。それでも、そこに置いた。


 しばらくその場に座る。何も起きない。風が吹き、匂いが流れるだけだ。それでも、なぜかその場を離れられなかった。


 孤独だった。


 はっきりと分かる。今までも一人だった。だが、それとは違う。ここで過ごした時間があるからこそ、失ったものの形がはっきりしている。その分だけ、空いた場所が大きい。


 それでも、完全に空っぽではなかった。ここにいる。ここに戻ってきた。そう思える場所がある。


 やがて立ち上がる。やることがある。


 畑だった。


 焼け残った一角。黒くなりながらも、完全には失われていない場所。そこに足を踏み入れる。土を触る。まだ生きている。そう感じた。


 記憶を辿る。ノームたちに教わったこと。種の扱い。土の整え方。水の流し方。断片的だが、確かに残っている。


 焼け跡の中から、わずかに残っていた粟を見つける。炭の中に埋もれていたそれは、小さいが確かに種としての形を保っていた。


 これを植える。


 そう思った。


 理由は分からない。ただ、それしかないと感じた。


 土を掘る。浅く、丁寧に。種を置く。土をかける。水を運ぶ。繰り返す。手探りだが、やるしかない。


 失敗するかもしれない。それでもいい。


 ここに何かを残すために。


 誰もいなくなった場所で、それでも続けるために。


 風が吹く。灰が舞う。その中で、土だけが静かにそこにある。


 俺はその前に立ち、じっと見つめる。


 芽が出るかどうかは分からない。


 それでも、待つしかない。


 それが今の俺にできる、唯一のことだった。

読んでいただきありがとうございます。


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